第4話 行動開始


 部屋を抜けだした俺は周囲を確認しながら慎重に進み始める。

 ゾンビの徘徊する街を歩く上で重要なのは、できるだけ戦闘を回避することだ。慎重に、時には大胆に、しかしゾンビとの戦闘は最低限にするのが良い。

 何故なら、ゾンビと戦うのは肉体的にも精神的にも大きな疲労を伴うからだ。人間というのはゲームキャラのように全力で武器をいつまでも振り回せるわけではない。全力で武器を振り回せば相応に疲労する。

 どうしてもやらなきゃいけない時はメインウェポンである棒先輩で胸を突いたり足を払ったりして転けさせてから、斧さんでの追い打ちが鉄板です。とりあえず転けさせれば勝てる。

 とは言え、この辺りのゾンビは一週間ほどの間に行った訓練によってほぼ掃討済みだ。

 とりあえずの目的地は決めてある。最寄りの自衛隊駐屯地だ。そんなに大きな駐屯地ではないのだが、もしかしたらまだ自衛隊が活動しているかもしれない。保護も受けられるかもしれないので、まず目指すならそこだろう。

 もし壊滅していたら物資を調達できるかもしれないしな。銃とか。

 銃がこの状況下でどの程度役立つかについてはなんとも言えない。多分発砲音でゾンビどもが寄ってくると思うんだよな。銃で一体退治して新しいのが五体寄ってくるようでは意味が無い。

 さて、現在の時刻は朝八時五十二分。

 最寄りの自衛隊駐屯地までは幹線道路を歩いても一日では辿りつけない距離だ。多分50km以上ある。そこそこに重い荷物を背負って、ゾンビに注意しながら進むとなると恐らく三日から五日ほどかかるのではなかろうか。なんとか足を確保したいところなのだが、あちこちで自動車が事故っていてまともに進めそうもない。二輪の免許は持っていないし、そもそも盗んだバイクで走りだすためのスキルもない。映画とかでなんか配線直結とかしてエンジンかけるの見るけど、あんなのやり方わからんし。

 まぁどこかで自転車でも調達したいと思う。そこらによさげなの落ちてないだろうか。

 俺の出勤用自転車は気づいたら無くなってたんだよな。ふぁっきん。普通のセダンタイプの自家用車も所有しているが、車道が事故車両で塞がれていたら乗り捨てるしか無くなるので置いていこうと思う。


 歩くこと十数分。

 国道に出てきた。今、俺がいるのが井田市。人口三万五千人ほどの片田舎で、主産業は農業。この国道を西に進むと温泉や湖などがあるちょっとした観光地を経て峠に至り、それをさらにずーっと進むと人口の大きな港町に出る。ただ、港町までは徒歩で行ったら多分数週間から一ヶ月単位で時間がかかるんじゃないだろうか。途中にぽつぽつと街はあるだろうが、峠も越えなきゃならんし、自動車などの長距離移動手段がないと行き倒れる可能性が高い。西に向かう手はないな。

 東に進めば少し進んだところで左右に農地が広がり、更にその先に行けば人口十万人規模の藍堂市に着く。トラブルがなければ徒歩で今日中に着けるかどうかといったところか。

 この周辺ではかなり大きな港湾都市で、製鉄所や石油化学工場などがある。人口が多いだけにゾンビの数も多いだろう。難所だな。ただ、人口が多いだけに生き残った人間やあるいは政府機関による生存者のコミュニティが築かれている可能性も十分にある。

 この状況下でそれが俺にとってプラスに働くかマイナスに働くかは正直言って全く読めない。藍堂市の状況もわからないしな。井田市の状況を見る限り、あまり期待は持てそうにないが。

 そしてその藍堂市を越えた先にお目当ての自衛隊の駐屯地がある。自転車で快速で飛ばしていけばなんとか一日で届く距離なのだが、さて。

 目の前の国道は片側一車線だが、路肩が広く取られていてなかなか見晴らしの良い広い道である。まぁずっと向こうまで見渡せるわけだが、ここから見えるだけで二十体くらいのゾンビが確認できる。

 正直言って、ゾンビの足は決して早くない。

 個体によって差はあるが、通常時は大凡人間の歩行速度とそう変わらないか少し遅いくらいの速度だ。ただ、人間を見つけると早歩き位の速度で追尾してくる。走れば簡単に振りきれるが、こちらを捕捉し続ける限りどこまでも追ってくるらしいので、徒歩でこの国道を行くのはあまり得策とは思えない。

 そこそこ重い荷物を背負ったまま延々と走り続けられる程のスタミナは俺にはない。

 この国道を行くのであれば、少なくとも自転車。できればスクーターくらいは欲しいところだ。スクーターは音こそ煩いものの自転車と違って疲れないし、スピードも出るからできればスクーターが欲しいところだ。

 積載量などを考えれば自動車が良いんだろうけど、ここから見えるだけでも事故ってる車が二台ほど見えるのでやはりやめたほうが良さそうだ。まずは自転車かスクーターを入手するか。

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