第3話 おっさんの手記~2~
首都圏が音信不通になったのが一ヶ月ほど前。それから三日ほどで風邪を引いてダウン。一週間以上酷い発熱に苦しみ、快復したのが今から二週間と少し前。その頃にはもうゾンビが溢れ、そうそう出歩くことができる状況ではなくなっていた。それから四日ほどで電気や水道が使えなくなった。それが八日前の話だ。
ゾンビが現れ始めた初動で僻地に逃げられれば良かったのだが、残念ながら俺は季節外れの風邪で寝込んでいたせいでそのタイミングを逸してしまった。
どうにか動けるようになった頃にはもうゾンビの真っ只中に取り残されてしまっていたわけだ。泣けるぜ。
俺が住んでいるこの部屋はそこそこ大きな集合住宅の五階にある一室で、俺が風邪で寝込んでいる間は周りから悲鳴だの怒号だのが昼夜問わず聞こえていた。それも一週間くらいでなくなった。この環境下で生き残れない類の人間が淘汰されたんだろうと思う。
寝込んでいる間にスマホで仕入れた情報によると、パニックを起こしたり、大声で騒ぐやつから順番に死んでいったそうだ。泣いたり叫んだりするやつ――つまり子供と、その保護者と、そいつらを守ろうとする奴らと、というかまぁ大半の普通の人間だ。
ゾンビアポカリプスではぼっちの方が生存確率が高いらしい。
俺はあれだ、風邪で寝込んでいたから結果的に助かったようなもんだ。避難所なんかに行っていたら今頃ゾンビの仲間入りをしてただろうな。
とりあえず部屋に引きこもっていた俺は、スマホで見たアドバイスを元に水が出るうちにバスタブやら鍋やら、水の入るものには水をためておいた。これで水の問題は当面の間解決された。
そして食料の確保に乗り出した。一週間以上に及ぶ風邪のせいで俺の部屋には食料はほとんど何も残っていなかったからだ。これはマンションの他の部屋に侵入して確保した。
外はゾンビだらけだし、病み上がりの身で手早く安全に物資を集めるにはこれが一番だった。罪悪感が無かったわけではないが、緊急避難だと自分に言い聞かせた。ベランダからベランダに移動し、窓を割ってお邪魔した。各フロアに一部屋くらいは鍵のかかっていない部屋があったので、探索はさほど苦労もせずに進んだ。
マンションの中に残っていたのは俺だけだったのか、他の生存者に遭うことはなかった。幸か不幸かはわからないが、多分幸運だったんだろう。
マンション一棟分の物資は相当量のものだった。計算してみたら二ヶ月くらいは引きこもっていられそうだった。とはいってもそれでも二ヶ月だ。それが過ぎたら結局外に出て物資を漁らないといけない。有り体に言って先がない。どん詰まりだ。
いずれライフラインが寸断されるであろうことは目に見えていたので、俺は早々にこのマンションから脱出することを決めていた。
あるいは組織的な力に守られている安全圏があるのなら、そこに逃げ込むのがベストだろう。理想はゾンビも他の人間もいなくて、水が豊富で食料の調達に困らない場所だが。そんな理想郷があるとも思えない。
兎にも角にもゾンビの蔓延る世界を生き残りながら歩いて行く技術と経験が必要だった。
マンションの物資を漁り終えたのがライフラインの寸断される二日前。
その翌日から俺はゾンビの蔓延る街を彷徨うサバイバーにジョブチェンジしたのである。前職は家電製品小売店の店員だ。そちらは首都圏が音信不通になった頃に自宅で待機するよう指示があり、それ以降音沙汰なしである。無情だ。
サバイバーに転職した俺はマンションの周囲を徘徊してゾンビをやり過ごす方法やゾンビを駆除する方法を実地で学び、一週間ほどでそこそこの腕になったと思う。まだゾンビを退治するのには慣れないが、ぐずぐずしてもいられない。
今日から行動を開始する。
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