第52話 最後の戦い 前編

儀式の間を抜けたその先は一本道になっていた。

言ってみればまるでゲームでラスボスへ向かう道が一本道みたいなそんな感じ。


でも地図にはこんな道は記されていない。周りの景色も何だか変に歪んでいて現実感がなくておかしいし。まるで異空間にいつの間にか繋がったみたい。

しかも歩いても歩いてもこの道がまっすぐ続くばかり。


振り向けばもう戻れないほど道が伸びている。いつの間にか空間がループしているみたいだ。つまりはそれがメアマスターの作り出した罠なんだろう。


「疲れた?」


目の前の無意味に長い道を歩きながらオレはレイに尋ねた。


「疲れてはないけど…ゴールが見えないとイライラするね」


「だね」


このレイの答えにオレも同意した。余りにずっと同じ道が続くので取り敢えずオレは懐から地図を取り出して開いてみてみた。

もしかしたら何かヒントになる事が書かれているかも知れない。

そして地図の城地下のページの儀式の間の続きの場所のあたりを開くとやたらと余白の広いページが…。


「今、このあたりなの…かなぁ?」


「闇を光に変えるって注釈がここに書かれているけど…」


地図を覗き込んだレイがそこに書かれていたこの言葉に注目した。

もしかしてこれがヒントになってるんだろうか?


「闇を光に?」


今がもし同じ状況だとすればこの状態は闇と言う事になる…。

なら光を灯せばいいって事?


「光って…?」


オレはこの空間を見渡していた。

もしここに闇に該当する部分があるとしたなら…多分それはこの空間全体だ。

この文章を解釈するとするなら…。


「あーもう!こう言う時は…こうするのよっ!」


中々答えを出せずにイライラしたレイがいきなり頭上に向けてエネルギー弾の光を放つ!え?でもまさか、そんな簡単な事で?


カッ!


レイの放った照明弾のような強烈な光がこの空間の闇を駆除していく。

と、同時にどこからか断末魔のような悲鳴が聞こえて来た。


「ぐぉぉぉぉぉ!」


光が収まると少し離れた場所に扉が見えていた。本当にこんな事で道が開けるなんて!オレはレイのその性格に今は感動していた。

それはそうと…あそこが目的の場所…なのかな?取り敢えずオレ達はその扉に向かう事にした。

この道は一本道だし他に選びようもないしね。


オレ達が扉の前に辿り着くとその扉は自動ドアのように自動的に開いた。

開いたと言うか…まるで扉が消滅したみたいに見えた。

これは…しかし入るしかない!オレ達は覚悟を決めてその先へと足を踏み入れた。


「ようこそ…カワイイ侵入者諸君」


そこでオレ達を待っていた存在…その声の主こそがこの悪の根源、メアマスターだった。

奴は魔法使いのローブのようなものを纏っていて…一見そんなに強そうには見えなかった。


「お前が…メアマスター?」


オレは恐る恐る眼前のその存在に尋ねた。

何故かと言えばメアマスターが想像していた姿と違っていてどうにも確信が持てなかったんだ。


「そうだ、私こそが悪夢の王メアマスターだよ」


その存在は確かに自分の事を悪夢の王と名乗った。ゴクリとオレは唾を飲み込む。

メアマスター、一言一言は丁寧だけどその声には底知れない不思議な力を感じた。


「王とは言っても私の正体は悪夢の集合体でしかない訳だがね」


奴は自虐的にそう言って笑う。人の悪夢の集合体、それがラスボスであるメアマスターの正体なのか…。


「あんたには悪いけど…退治させてもらうよ…」


オレはメアマスターにそう宣言する。勝てる自信なんて1ミリもなかったけどそう言う事で自分にも暗示をかけていた。

そのオレの言葉に対するメアマスターの返事は意外なものだった。


「それが出来るのなら願ったり叶ったりだよ」


「えっ?」


オレは思わず耳を疑ってしまった。奴自身が自ら退治される事を望んでいる?一体それってどう言う事なんだ?


「言っただろう?私は悪夢の集合体だと…多くの悪夢が…人の悪夢が集まったもの…本当は誰かに止めて欲しいんだ」


「だったら!」


そのメアマスターの言葉が真実なら、何故悪夢を暴走させようとするのか。

オレは奴のこの言葉の真意が分からなくなってしまった。


「でも誰にも止められないんだよ…この悪夢の集合体である私が全て打ち負かしてしまうんだ…」


そう話すメアマスターの顔はどこか寂しげだった。

奴の本体が悪夢だから止められないのか…悪夢の本性が全てを覆してしまうのか。自身の中に流れる本能のようなものを止められなくてメアマスター自身も苦しんでいる?

オレは奴のこの言葉にうまく反応出来ないでいた。


「そうして悪の因子で取り込んでしまう…きっと君達も同じ運命を辿る…そして悪夢は暴走するんだ」


そう言ってまたメアマスターは自虐的に笑った。

奴自身が苦しんでいようがそうでなかろうがその行為を野放しなんて出来やしない。この流れはオレ達が止める!いや、止めてみせる!


「そんな事させやしない!」


「だったら、やってみせるがいい!」


そう言うとメアマスターが両手を広げる!さあ、最終決戦の始まりだ!

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