第51話 託された想い 後編

「う、うおあぁぁぁぁぁっ!」


ドォォォォン!


最大奥義を返されてオレは儀式の間の天井に体を強く打ち付けられる!


「ごぅふっ!」


全身を強く打ち付けられてオレは一瞬意識を失ってそのまま落下して床に叩きつけられた。絶牙の力を返されるなんて…流石龍元流の創始者の父さんだぜ…。

この技は返されると逆に気の力を根こそぎ奪われてしまう。しばらくオレは身体の自由を奪われもう何をする事も出来なくなってしまっていた。


「その技…どこで知ったか知らないが…絶牙の技とはこう言う風に使うものだ!」


父さんはそう言いながらオレに対して絶牙の技の構えを取る。初めて見る父さんの絶牙の構え…やっぱり自分のなんちゃって技とは全然違う…。この状態で父さんの絶牙の技をまともに食らったらオレ、最後だな…。


「絶牙、環空斬!」


父さんの絶牙環空斬がオレに向かった放たれる。身動きの取れないオレはその技をまともに受けてしまうだろう…ちーん、オレ、終了!


「待てっ!」


動けずにもはや技を受けるばかりになっていたオレの前に誰かが立ちはだかった。

こんな状況で?一体誰が?身動きの取れないオレはその人物の姿をはっきり確認する事も出来なかった。ただ、その声には聞き覚えがある気がした。

しかしその人物の静止も間に合わず父さんは既に技を放っていた。巨大な負の気の塊が全ての事象を飲み込んでいく!


「絶牙返しっ!」


な、嘘だろ…!父さんと同じ絶牙返しの技を?まさか、この人は…。

その人の放った絶牙返しによって父さんの放った負の気の球体はバシュゥッと言う音と共に粉々に飛び散った。


「おのれ…貴様!」


自慢の奥義を潰され父さんは激昂している。

しかし父さんも技を返され一気に消耗していた。片膝をついた父さんは肩で息をしている。これで少しは時間が稼げるかな?


「やれやれ…そう言うところは変わりませんね…」


その紳士的な話し方は…。


「遅くなって申し訳ありません。ヒロト、よくここまで辿り着きました」


「…アサウェル!」


「私が来たからにはもう大丈夫ですよ」


そう、オレの予想通りそれはアサウェルだった。こんな絶対のピンチの時に現れるだなんてまるでヒーローみたいじゃないか…。オレはアサウェルの登場に安心しきってその場に倒れ込んでいた。


「何だ…何なんだお前は…」


突然のアサウェルの登場に父さんは動揺を隠せなかった。記憶をなくしているなら彼の登場は脅威以外の何物でもないだろうな。何せ自分の最強奥義の効かない存在が現れたんだから。


「お忘れですか…私ですよ…アサウェルです」


「お、俺はお前なんて知らん…」


「では無理矢理にでも思い出して頂きます!」


アサウェルはそう言うと父さんに手に持っていた何かを放り投げた。父さんは無意識にそれをキャッチする。

父さんがアサウェルから受け取ったそれは…小さな人形のようなものだった。


「何だこれは…?」


父さんがじっとその人形を覗きこむ。するとその人形から光が放たれた。

その光は膨張しやがてこの儀式の間全体に広がった。

大きくて優しいその光を浴びてオレは何故だか優しい気持ちになっていた。


「もしかしてこの光は…」


オレはアサウェルに光の正体を聞いた。


「そうです、あなたのお母さん、かなこさんの力ですよ」


「これが…母さんの?」


アサウェルは母さんに会いに行っていた?

でも母さんはもうこの夢の世界には行けないって言ってたし、アサウェルだってこの夢の世界から外へは出られないはず…。

この戦いが終わったらその辺の事もちゃんと聞いてみよう。


「うおおおおおおお!」


母さんの光を浴びて父さんが苦しみ始めた。あ、もしかしてこれで洗脳が解ける?


「お前ら全員ぶち殺すぅぅぅぅ!」


あれ?父さん逆にブチ切れているんですが?これは一体どう言う事なんだってばよ!


「アサウェル!これって…」


「大丈夫です!これは必然的な事です。今、タダシの体から悪いものが出て行くところなんです。ここを無事乗り切れば!」


アサウェルはこの現象をそう説明する。つまり風邪を治すのに発熱が必要とかそんな理屈なのだろうか?オレはどうかこの現象が何事もなく済むように願っていた。

しかしその願いとは裏腹に父さんはオレ達に向かって攻撃を仕掛けてくる!我を忘れた父さんの前にアサウェルが立ちはだかった。


「ぐぉぉぉ!龍凰風雷砲!」


「虎皇水影撃!」


キレた父さんと冷静なアサウェルの技が激突する!何だ…この技も初めて見る…父さんはどれだけ技を持っているんだよ…。

そしてそれに対応する技を即座に撃ち返すアサウェル…それはまるで阿吽の呼吸のようだった。お互いの技が演舞のように全て完璧に対応している。こんな芸当が出来るのはきっと父さんとアサウェルだからなのだろう。

その攻防に他の誰も追随する事は出来なかった。そんな一瞬の出来事だった。


そうして拮抗する力は儀式の間に内在する全ての気の力を巻き込んでやがて破裂した。大げさに言えばまるでそれはビックバンに匹敵するほどの破壊力だった。


その瞬間、凄まじく眩しい光が視界を奪う。衝撃が発生したのはその後だった。


ドゴォォォォォン!


全てを破壊するような衝撃と音が儀式の間の全ての物を吹き飛ばしていった。

2人の本気のぶつかり合いのパワー、桁が違い過ぎる。

この余りの衝撃に場が静まるまで室内にいる誰も動く事が出来なかった。


「うう…良かった…天井が崩れなくて」


「本当、崩れていたら私のシールドでも無事だったかどうか…」


オレはレイの作った防御シールドに守られて何とか無事だった。天井が崩れなかったのはここが儀式の間と言う事で特別頑丈に作られていたからなのだろう。


「う…うう…」


「と、父さん!」


アサウェルと父さんの力比べはどうやら両者相打ちと言った感じだった。強大なエネルギーが炸裂した後、爆心地にいた二人はそのまま仲良く倒れていた。

動けるようになったオレ達は状況が分かるとすぐに倒れている二人の元に駆け寄った。


「ア、アサウェルなのか…」


「やっと思い出しましたね…」


あの強烈な爆発を経て、父さんは記憶を取り戻していた。ついに父さんに掛けられた洗脳が解けたのだ。

この攻防でボロボロになったアサウェルも自分の役目を果たせて安堵の顔を浮かべていた。


「父さん!」


「タダシ様!」


「ヒロトにレイ君…よくここまで辿り着いたね…さすがです」


口調がいつもの父さんに戻っている!オレは父さんがやっと自分の元に帰って来た…そんな気がしていた。


「こんな事にならなければ良かったんだけどね…あはは…」


「父さん!無理に喋らないで!傷を…」


オレはボロボロの父さんの体を心配したけど父さんは構わずに話を続ける。


「大丈夫だ、ここは夢の世界なんだから…それより話しておきたい事がある…」


「えっ…」


どうやら父さんには何か伝えたい事があるらしい。オレは唾を飲み込んで父さんの話の続きを待った。


「城の地図は持っているな」


「これ?」


オレは父さんに言われて懐の書を取り出した。これはやっぱり重要なアイテムだったんだ。

父さんはオレの持っている地図を見ながら話を続ける。


「それは本来闇を光に転写出来るものだ…最後には役に立つ」


この書にはまだ更に秘密があったんだ…ずっと肌身離さず持っていて良かった。

そして父さんの話にはまだ続きがあった。


「…それともうひとつ」


ゴクリ…。


「メアマスターに絶牙の技は逆効果だ…絶望を光に変えなさい」


絶望を光に変える…一体それはどう言う意味なんだろう?これは単にメアマスターに絶牙の技が効かないと言う単純な意味じゃないんだろうな。

今は具体的にこの言葉が何を意味するものなのかは分からないけど…しっかりと心に刻んでおこう。


「アサウェル…アサウェルも動けなさそうだね」


父さんの話が終わったようなのでオレはアサウェルにも声をかける。さっきの力の暴発を受けて彼も動けない状態ではあったけど、今度は致命傷ではなさそうだった。


「すみません…後で必ず加勢に向かいます」


加勢に向かう…つまり先に戦っていてくれと言うメッセージだとオレは受けとった。

ここまで来てメアマスターを倒さずに尻尾を巻いて逃げるなんてやっぱり出来ないよね。


「分かった!ここまで来た以上最後まで進むよ!」


「待ってよ!ボロボロのタダシ様をこのまま放って置く気?!」


父さんとアサウェルをそのままにして進もうとするオレをレイが注意する。確かにこのまま放置して先に進むのもちょっと無責任な気がしないでもないけど…。


「レイ君、頼む。どうかヒロトと一緒にメアマスターを倒してくれ!」


「わっかりました!タダシ様の頼みとあれば!ほら、ヒロト!さっさと行くよ!」


父さんの言葉にレイがガラッと態度を変える。レイ…分かり易過ぎる…(汗)。

そんなレイの態度にこの場にいるレイ以外のみんな苦笑い。


そしてオレ達は最後の戦いへと向かう。この世界から能動的な悪夢を一掃する為に。そして今も地上に蔓延する理不尽な心の闇を消し去るために。

長く続いたこの夢の世界の大冒険にもついに終わりが近付いて来ていた。

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