第49話 将軍 後編

それは言ってみれば付け焼き刃でテストに臨む学生を熟練の教師が見抜いたと言ったところだろう。

しっかり経験を積んだ事で得た力は多少のトラブルにも決して揺がない。

このままではオレに勝機など望めなかった。


「うわああっ!」 


根比べに負けたオレはレイと同じように吹っ飛ばされた。見様見真似で取得したにわか絶牙の力ではエラルの膨大な力をいなす事が出来なかったのだ。


「げふっ…」


オレの口から血が吐出される。やばい、かなりのダメージを負ってしまった。


「二人共、その程度の実力でよくぞここまでやって来れたものだ…いや、我が四天王が不甲斐ないのか」


エラルはそう言って壁に打ち付けられたオレ達の元へと歩いてくる。その歩みはゆっくりだったが確実に一歩一歩近付いて来る。

オレ達にとってそれはまるで死へのカウントダウンのようにすら思えた。


「そろそろ引導を渡すとするかな」


エラルはそう言いながらオレ達に向かってゆっくりと手をかざす。満身創痍のオレ達は次のこの攻撃で倒されてしまうのだろう。くそっ!ここまで来てゲームエンドかよっ!

そうして将軍から放たれる膨張するエネルギー。馬鹿のひとつ覚えみたいに何度も同じ技をっ!くっ!ダメージを受け過ぎて身体が…身体が動かないっ!


ズォォォォォォッ!


その強大なエネルギーは謁見の間を半壊させる。自分の攻撃に手応えを感じたエラルは勝利を確信しニヤリと笑った。


「フハハハ…所詮は青二才の無駄な抵抗だったな」


土煙が消えた後、将軍はオレ達の姿を確認しようと攻撃で発生した瓦礫の山の前まで歩いてくる。オレ達の死体を確認する為に。


「何?馬鹿な…」


エラルはその中にオレ達の姿がない事に気付いて動揺する。誰だって自慢の一撃が無駄に終わると気が動転したりするもんさ。そんなチャンスをオレは見逃さなかった。


「そこだっ!」


オレはエラルの背後に周り込みその鎧に手を当てる!


龍爪陽気爆裂圧りゅうそうようきばくれつあつ!」


これは陽の気を一気に相手に送り込み内側から破壊する技なんだけど相手の体にしっかり触れないと使えないため成功率はかなり低い。

上記の通り発動条件は厳しいけれどまともに決まればかなりの破壊力を持つ。

相手の不意を突く事で始めて使える技でもあった。


バキャッ!


「ごほぉっ!」


技の発動によって身体が内側から破壊されその連鎖反応でエラルの重厚な鎧が弾け飛ぶ。やった!クリティカルヒット!

血を吐くほどのダメージを受け片膝をつきながらエラルは振り向いた。

納得の行かない将軍はオレ達に向かって力強い口調でその疑問をぶつける。


「何故だ…?何故私の攻撃を…」


「簡単な事よ!私があなたの攻撃が届く前にヒロトを連れて"飛んだ"の」


そう、エラルの攻撃が届く瞬間、レイはオレを連れて空間跳躍をしたのだ。

空間跳躍、つまりはテレポート。土壇場でレイがその能力に目覚めたおかげでオレは助かった。


「こ、この期に及んで…成長…だと?」


彼女の説明を聞いて事の全容を知ったエラルはそう言って笑い始めた。


「面白い!本当に面白いぞ!これだから戦いは止められん!」


そう言って笑う将軍の笑顔は戦闘に狂った狂人の放つそれと同じ質のものだった。

狂気を孕んだ笑顔を目の当たりにしてオレ達はこの男の本質を垣間見た気がしていた。

こんな相手と戦うのに出し惜しみなんてしてはいられない…そう思ったオレはレイに声をかける。


「レイ、今度こそ」


「うん、分かってる!」


オレ達は息を合わせ合体技の構えを取る。将軍と勝負するにはこの技しかなかった。


「私の本気の技、今こそ受けてみよ!」


オレ達が技を放とうとするのを見て対するエラルも今度こそ本気でオレ達に技を仕掛けようとする。

最強の将軍の最強の技、一体どんなものなのか…その技に対してオレ達の技が通じるのか…。今はただ自分達の力を信じるしかなかった。


「パーフェクトレインボウ!」


「絶牙環空斬!」


「「ミラクルスパイラル!」」


最初に試した時により確実に息を合わせ、最後まで力を出し尽くす覚悟でオレ達は命懸けで技を放った。その気迫に呼応するように螺旋状に回転するエネルギーは空間のエネルギーを取り込みながらエラルに向けてその凶悪な力を解放する!


虚皇黒鬼青炎爆きょおうこっきせいえんばく!」


そう言って放たれたエラルの最強の技。この技もまた凶悪な破壊力を秘めていた。

闇に属する青い炎が球状に広がる虚数空間を包み周囲の時空を削りながらオレ達へと向かう!


ズォォォォォォッ!


オレ達のミラクルスパイラルとエラルの虚皇黒鬼青炎爆、2つの巨大な力がちょうど中間地点で激しくぶつかり合う!


「うおおおおおおお!」


3人それぞれが力の限り気合を入れる。この勝負、どちらかが根負けした方が負けだ。数の上では2対1とは言えその数の論理はこの場合、全く当てには出来ない。


ズズ…ズズ…。


激しく力を放出した反動でお互いに少しずつ後方に後ずさっていく。お互いに死力をを尽くしながらも狂気の笑みを浮かべている将軍に対しオレ達は二人共苦悶の表情を浮かべていた。この戦い、長引いたらオレ達の方が確実に不利になる。

何とか短期で決着をつけないと!


「くっ!くぅぅぅっ!」


拮抗したこの攻防はこのまま長期戦にもつれ込むようにも思われた。

しかし一点集中のミラクルスパイラルの方が全方位拡散攻撃の虚皇黒鬼青炎爆より僅かに力が上回った。


「ま、まさかぁぁぁっ!」


カッ!


力の近郊が崩れた瞬間、巨大な爆発が謁見の間を包み込む。この部屋にあるものを全て破壊し尽くしてようやくこの壮大な力比べの決着は着いた。


崩れ落ちた瓦礫に埋まりながらもオレ達は辛うじて生きていた。瓦礫の山を崩しながらまずレイがオレに声をかける。


「はぁ…はぁ…い、生きてる?」


「はぁ…はぁ…な、何とか…」


しかしさっきの攻撃に全ての力を出し尽くしてしまい二人共ほぼ脱力状態だった。

もしここでエラルが追撃をして来たらまずオレ達に勝ち目はない。

 

ガラッ!


その時、崩れた瓦礫の中からエラルが顔を出す。見た目では彼がどれだけダメージを受けたのか判断出来ない。オレ達はその姿を目にして一瞬、死を覚悟した。


「見、見事だ…完敗だよ…」


エラルはそう言った後に倒れ、完全に意識を失った。瓦礫の上に寝そべる将軍を観察して完全に動かないのを確認した後、オレ達はやっと自分達の勝利を実感する事が出来た。


「…やったね!」


「レイのおかげだよ」


パンッ!オレ達はハイタッチをしてお互いに勝利を讃え合う。


「後もう少しだね」


「気合、入れないとだね」


そう、戦いはここで終わりじゃないんだ。まだ一番の大物との戦いが控えている。

それに…敵に連れ戻された父さんともまだ出会えていない…。

今後やってくる最後の戦いを前にしっかり気合を入れ直すオレ達だった。

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