第48話 将軍 前編

「ここかな?」


城の見取り図に書かれていた謁見の間。オレ達はとりあえずそこに向かっていた。

虱潰しに部屋を調べる事はしなくなってもやっぱりどの部屋に行けば王がいるかなんてその場所に行って確かめない事には分からない。

この少し前にも当たりをつけて部屋に飛び込んだものの、そこには誰もいなかった。


ギィィィィ…。


謁見の間の重い扉を開ける。するとそこには何者かの人影があった。

今度こそは…ビンゴ!なのか…?


「よく来たな、お前達…」


その声の主は全身それっぽい豪華で立派な鎧を身につけた気品すら感じる男だった。

威厳のある立ち姿を見ただけでもこの男がかなりの人物だと言う事が分かる。


「タダシの息子とその仲間よ…よくぞここまで来た…」


その声は重厚でズシンと心に重圧をかけてくる。その男の顔は激戦をくぐり抜けた歴戦の勇者と言うのに相応しかった。眼光は鋭く…見る者全てを畏怖させる程の威厳に満ちている。

それは今まで見た敵の誰よりも底の知れないものを感じさせていた。


「あんたが…悪夢帝?」


オレはこの男の放つ恐ろしく重いプレッシャーに押し潰されそうになりながらも何とか振り絞るように声を出した。


「私か?あっはっはっは!」


男はこのオレの質問に大声を上げて笑う。オレ…何か笑わせるような事を言ったっけ?


「私の名はエラル。悪夢帝メアマスター様第一の家臣、将軍エラルだ」


「しょ…将軍…」


何てこった…四天王の上に将軍なんて言うのもいたのか…。多分だけど…この将軍から放たれる圧倒的なオーラ…その実力はさっきの四天王なんて話にならないぞ…。

将軍から溢れ出る底知れぬ闇の気配は普通の人なら近付いただけでその闇の毒に侵され、泡を吹いてその場で倒れてしまう事だろう。

それほどの強いプレッシャーを将軍は常にオレ達に向けて放っていた。


「…只者じゃないね」


レイも思わず口に漏らす。

思わぬ強敵の出現にオレは思わず身体が固まった。いつの間にかオレはエラルの放つ狂気に当てられていたようだ。

将軍でこれ程のプレッシャーと言う事は彼より強いだろう悪夢帝にオレ達はどうやって立ち向かえばいいんだ…。


「どうしたんだ?私を倒しに来たんじゃないのかね?」


「くっ!」


エラルの言葉一つ一つがオレの身体を縛り付ける。何と言う言葉のプレッシャー。

将軍に勝つ勝利のイメージが今のオレには全く思い浮かばない。

ここまで来て!こんな事になるだなんて…。動け!頼むからオレの身体よ動いてくれ!


「私もね、元気のある若者は好きなんだよ…」


オレ達に向かってエラルはそう言って笑う。その笑顔はだけど慈愛に満ちたとかそう言ったものではなかった。悪魔が相手の魂を査定してほくそ笑むようなそんな邪悪さをオレはその笑顔に感じていた。


そして身体が動かないのは隣りにいるレイも同じようだった。

余りに桁違いな力を放つ将軍を前に二人共全く動けずに不気味な沈黙だけが流れていく。


「はぁ…君達に特に恨みがある訳でもないが…メアマスター様の邪魔をすると言うのなら」


エラルはそこまで話すと次の言葉を出すまで少し間を置いた。オレ達はそこでゴクリと息を呑む。不気味な沈黙にオレは冷や汗を流していた。


「処分…するしかないな」


将軍のその言葉にオレ達は戦慄する!予想通りの言葉とは言え、実際耳にするとその破壊力は計り知れない。オレ達は戦う前からエラルの存在と言葉に圧倒的に負け続けていた。


「やるしかないよ!合体技!」


レイがそう言って動いた時だった。

エラルが巨大な気の塊をオレ達に向けて放っていた。

いや、それは正確にはエラルの前方に生じた何らかの巨大エネルギーが膨張したと言った方が正しかった。

オレは絶牙の技を会得した時にこの手の技を避ける術を会得していたけど…。


「きゃああああっ!」


その塊に吹き飛ばされてレイはそのまま無防備に謁見の間の壁に激突する。

彼女が壁に叩きつけられた時の衝撃音は静かな城内にしばらくの間反響し続けた。


「レイッ!」


オレは吹き飛ばされたレイのもとに駆け寄る。


「…うう…」


彼女はかなりのダメージを負っていたものの、どうやら致命傷までには至っていないようだった。これならしばらく安静にしていれば多分大丈夫だろう。


「ほう、君はアレを避けるか…」


エラルは感心したようにオレに話す。まだ全く本気を出していない彼にオレはひとりで立ち向かわなくてはならなくなった。

さっき編み出したレイとの合体技でなら多少の勝機も見えていたんだけど。


「オレにあの手の技は効きませんよ」


将軍に向けてオレは挑発する。これが今のオレに出来る精一杯の強がりだった。


「ほう…では試してみよう」


エラルがまたあの技を使う。膨張するのが同じ気の力なら絶牙の技で対応出来るかも知れない。


「絶牙環空斬!」


オレは思いつきで絶牙の力を使ってエラルの放つ膨張するエネルギーを吸収しようとするものの、パワーバランスが拮抗して単純な力比べと化してしまい勢い持久戦になってしまった。

地の力は明らかにエラルの方が強い…どう考えてもオレの方が不利だ。


「く、くぅぅ…」


圧倒的なエラルの力にオレは段々耐え切れなくなって来る…。

環空斬はエネルギーをマイナスの環に導き循環させる事で相手の力を根こそぎ奪う技…。

理論上は(対応出来るなら)相手の力がどんなに強くてもそこで力比べになる事はないはずなんだ。つまり、オレはまだその極意を体得出来てはいない。


「その技はまだ不完全だな」


やはり将軍はこの技が不完全な事を見抜いていた。ヤバいな。

この時、オレの焦りが額の汗になって頬を音もなく流れていった。

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