第47話 四天王

ロアードとの戦いで入口付近は破壊されたけど城のそれ以外の場所は全くの無傷だった。流石悪の帝王の住む城だけはある。

しかも自己修復機能があるのか破壊された入口付近も徐々に元の姿に戻ろうとしていた。


(まるでこの城自体が生きているようだ…)


おっと、あまりこの城に感心してもいられない。レイの後を追わなくちゃ!

彼女は今四天王と戦っているはず!ここから何とか戦闘の様子が分かるといいんだけど…。


ドォォォォン!


と、その時、城内で派手な爆発音が聞こえた!オレはすぐピンと来てその場所へと向かう!レイ、どうかオレが辿り着くまで無事でいてくれっ!


「おっ!来たね!」


オレが必死こいて迷いながらレイのいる場所に何とか辿り着くとそこにはピンピンしているレイと少し離れた場所で丸焦げになってぶっ倒れている男の姿が…。


「レイ、もしかして…」


この状況に呆気に取られながらオレは倒れている男を指差す。


「そう、そいつ四天王の一人…名前は確か…イーグス…だっけ?」


レイはそう言って胸を張った。アレ?四天王って確かむっちゃ強いんじゃなかったっけ?戦闘で勝ったにしても彼女にそこまでダメージを負った形跡はない。

そう、何かまるで楽勝で勝ったみたいな…。


「楽勝だったよ!これで四天王?って言うくらい」


レイはそう言ってオレに向かって笑顔でVサインをする。いくら戦闘の相性が良かったからって相手は敵の最高幹部だぞおい…。彼女がそこまで強くなったって事なのか?それともこの四天王が四天王の中でも最弱だったって事なのか?

四天王はヤバい程強いと言うイメージがあったオレは目の前のこの現実を中々受け入れられずにいた。


「それにしても本当、心配してたんだから…」


「え?」


「ヒロト、あの時、手も足も出なかったじゃん…最悪まで想定してたんだから」


レイ、自分の戦いよりオレの事を気にかけてくれていたのか…何だか申し訳ないな。

オレはその心遣いに感謝して誇張を含め、自分が元気だと言う事をアピールをする。


「ふっ、アレはブラフだっての!最後は究極奥義を編み出してあんなヤツら余裕でぶっ倒したぜ!」


「へぇぇ~。最終奥義ねぇ…」


彼女はオレの言葉に薄笑いで反応する。その結果を導く為にかなり苦戦したって言う事は…黙っていても分かっちゃうかな。

オレはこの場の何とも言えない雰囲気に耐えられなくなって話題を変える事にした。


「とにかく、先に進もう!ここまで来たら突っ走るだけだ!」


「そうね、コイツがこの程度だもの、残りの四天王も実は結構余裕かも!」


四天王の一人を倒したレイは自分の実力にかなりの自信を持っていた。その事にオレ自身もすごく心強いものを感じていた。これならアサウェル抜きでもかなりいいところまで行けるかも知れない。


オレ達は悪夢帝のいる場所を目指し場内を駆け巡っていく。

城内部については城の人間に聞くのが一番だけど、ロアードにしろ親衛隊員にしろさっきの四天王にしろ、みんな話を聞く前にぶっ倒していたので彼らから情報を得る事は出来なかった。

ああ…誰か一人だけでもちゃんと話を聞いてからとどめを刺せば良かった…。

これが本当の後悔は何とやらって奴だ。


「で?極意の書が光って後は何の変化もなかったの?」


「いや、それはまだ確認していないけど…」


城内を迷いながら2人で話していると話は極意の書の話題になった。もう彼女と合流出来た訳だし、そろそろ確認してみてもいいかな?


「じゃあ、見てみよっか」


オレ達は城の探索を一時やめて改めて変化のあった極意の書を確認してみた。

もしかしたら前は何も書かれていなかった真っ白なページに新しい技とかが浮き上がっているんじゃないかとの淡い期待も込めて…。


「あっ…」


そんな期待を込めて書を開くとそこにはある図形が浮かび上がっていた。浮かび上がっていたのが新技でなかったのは残念だけどやっぱり変化していたんだ。

これがこの本の秘密だったのか…。


「これ…何に見える?」


確信はあったもののオレはレイに確認を求める。興味深そうに覗き込んだ彼女はその図形を見てすぐにオレと同じ結論を口にしていた。


「これって、この城の地図?だよね?」


「だよね」


極意の書には技ではなくこの城の見取り図が描かれていた。これって一体どう言うからくりなんだろう?とにかくこれで探索が楽になった事は確かだ。


「今いる場所は…多分ここだから…」


「ここをこう進めば上に上がれるね!」


極意の書に浮き上がった図の通りに進めばすぐに目的の場所まで辿り着ける!

この書ってきっと父さんが一度攻略した時に書き込んだものなんだろうな。それで城の中に入ったのが条件か何かで浮き上がる仕組みとか?

もしかしたらこれ、最初から極意の書でもなんでもなかったのかも…。


「行こう!」


オレ達はその地図の導きのままに上に上る階段を目指す。

しかしそこに待ち構える大きな影があった。


「おおっと!此処から先には進ませねぇ…」


「四天王…」


そいつを見てオレはつぶやいた。どっしりと構えて立つその姿はまさに百戦錬磨の達人と呼ぶに相応しいものだった。


「そうだ!オレは四天王の一人、南のウミル!大人しくここでオレに倒されな!」


ウミルと名乗るその男は身長2m以上のガタイのいい大男だった。その男から発せられるオーラ、やはり只者ではない…。見たところコイツは脳筋と言う表現がぴったりな格闘家タイプのようだ。

ふふ、こう言う相手とオレは戦いたかったんだ。純粋な力と力のぶつかり合い、力の差がそのまま勝負の結果に直結する。ここでオレの実力を図ってやるぜ!


「ここはオレに任せてくれないかな」


「えっ?」


「レイばかりにいい顔はさせていられないよ」


そう言ってオレはウミルの前に立ちはだかる。オレと奴の視線が交わり火花が散る。

彼女はその気配を察し、素直にオレに順番を譲ってくれた。

目の前に立った事でウミルはオレを見下ろしながら挑発的な言葉を投げかける。


「お前がタダシの息子か…捻り潰してやる!」


「そううまく行くかな?」


「減らず口を!お前はオレのこの一撃で終わりだ!」


そう叫んだかと思うとウミルの力強い剛拳がオレに迫る。これは流石の迫力だ!

今までのオレだったらこの迫力だけで身動きが取れなくなっていただろう…でも、試練をくぐり抜けた今は違う!


すっー。


力任せのウミルの攻撃をオレは水のようにかわした。これは絶牙の技を会得した時に身に付けた気を読む力を応用したものだ。単純で迷いのない直線的な攻撃ならどんなに早くてもこの極意を得た今のオレは簡単に避けられる。


「何ぃ!」


技をかわされたウミルが思わず声を上げた。よっぽど自分の技に自信を持っていたのだろう。そして今まではその一撃で全ての敵を倒して来たに違いない。奴は信じられない顔をして立ち尽くしている。


「お前には勿体無い技だが…」


ウミルの技を余裕でかわしたオレはすぐ自分の技の構えに入る。水が流れるような無駄のない動きでオレは覚えたての技を放つ!喰らえっ!


「絶牙!」


「おい、その技…まさか…」


技名を聞いただけで奴の顔から血の気の引いていくのが手に取るように分かった。その様子を見てオレはすぐにピンと来た。そうか…お前もこの技で倒された事があるんだな…。その時の恐怖、もう一度ここでとくと味わいやがれっ!


「環空斬!」


何故ここで冥皇滅を使わなかったかと言えばちょっと勿体ぶりたかったから(汗)。

それに技的にはこの技も最強クラスの技には違いなかったし、しっかり観察したとは言え実践でこの技はまだ使っていなくてちょっと使ってみたかったって言うのもあった。


コォォォォォォ!


環空斬の気の力がウミルを包み込む。奴は身体の自由を奪われ、次に来るオレの拳を全く無防備の状態でまともに食らうしかなくなった。これなら大ダメージは避けられないはずだ!


バキィィ!


「ウグォォォ!」


オレの一撃を受けて宙を舞うウミル。手応えバッチリだった。奴は気を失ったまま床に叩きつけられる。重量級の体が落下したその時の衝撃音が静かな城内に大きく響き渡った。

この戦闘でオレは絶牙の技が四天王に余裕で通用した事を改めて実感していた。これならいける!


「おお!すごい!しっかりあの技をマスターしたんだね!」


四天王を一撃で倒したオレにレイが感心する。もっと!もっと褒めていいんだぜ?

いやぁ、人に褒められるって本当に気持ちがいいね!


ウミルを倒したオレ達は更に上の階へと向かう。この城はむちゃくちゃ広いけどその割に敵が少数精鋭だから移動は殆ど城内を走り回る事になる。地図を手に入れて迷わなくなったから少しは楽になったけど。


「でさあ、考えたんだけど…」


走りながらレイがオレに話しかける。どうやら技についての提案らしい。


「私もいつまでも技に名前がないのはどうかなーって思って」


「いいじゃん、名前付ければ」


「それでね、次の相手って多分ラスト四天王じゃん。二人でコラボしようよ…コラボって言い方が正しいのかよく分からないけど」


「二人の技を合わせるのかー。うん、面白そうじゃん」


それから2人で合体技の名前の相談をしているとおあつらえ向きに誰かがオレ達の前に立ちはだかった。何だか登場がワンパターンな気がするけど、まぁいいや。

多分アレって四天王最後の一人だよね。うーん、何てタイミングがいいんだ。


「我は四天王最強の男、北のオッド!ここからは今までのようには行かんぞ!」


オッドは最後の四天王の意地を見せ恐ろしいほどの気を放ってくる。

しかしそれも経験を積んで強くなった今のオレ達にとってはただの新しい技の実験の相手と言う認識くらいしかなかった。オレ達、強くなったなぁ…(遠い目)。


「行くよ!」


「おうよ!」


オレ達は息を合わせる…ハッキリ言ってぶっつけ本番だけど、きっとうまく行くはず…。申し訳ないけど北のオッド!オレ達の実験の犠牲になってくれ!


「パーフェクト…」


「絶牙…」


「レインボウ!」


「環空斬!」


「「ミラクルスパイラル!」」


同時に技名を叫んだ後、最後は2人で声を合わせた。そして同時に技を放つ。

オレの気の力とレイのエネルギー弾が絡まりあって力を増幅させながら四天王最後の男、オッドに迫った!


「ば…馬鹿なぁぁぁぁぁッ!」


この複合技を前にオッドは危険を感じ即防御の型を取ったが、技が直撃した瞬間胸の前に重ねていた両腕は簡単に弾き飛ばされ…。

その結果、オッドはオレ達の技をその身にまともに受ける形になった。


ズドドドドドドォォォォン!


2人の複合技、ミラクルスパイラルをまともに食らったオッドは何も出来ず吹っ飛びそのまま気絶した。

最強の四天王を相手に技の一つも出させずにオレ達は余裕で勝利していた。


「やったぜ!」


この勝利を持って今のオレ達に敵はない!オレはそう確信した。

しかし四天王より更に厄介な敵がこの後に待っている事をオレ達はまだ知らなかった。

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