第45話 最終奥義 前編

「これが本気の狼牙虚空拳ろうがこくうけんだっ!」


オレはさっきよりもっと強く気を込めた攻撃を敵に放つ!同じ技ならば威力の高い方が強い!当たれば例え同じ技を習得した者でもただでは済まないはず!


ズォォォォッ!


オレの拳から放たれた衝撃波が城の一部を破壊する!良し!威力は間違いなく上がっている!

だけど技が城の建物に当たったと言う事で分かるように敵は誰一人オレの技を食らっていなかった。せめてひとりくらいは仕留められると思ったのに!

気が付くとオレの視界に敵の姿は誰ひとり見当たらなかった。奴らは一体どこに行ったって言うんだ?


「上?!」


そう、オレの渾身の一撃を親衛隊は全員が上空へとジャンプして避けていた。何て息が合っているんだ。これには流石のオレも敵ながら感心してしまった。

上空へと飛んだ親衛隊員達が今度は一気に反撃へと転じる。その攻撃が同じ流派の技ならば、また全て避け切るだけだ!


絶牙ぜつが…」


親衛隊の口から放たれた技名は…今までオレが聞いた事もないものだった。

まさか…父さんの技でオレの知らないものが…?それともこの技は父さんのものとは無関係のオリジナル?


環空斬かんくうざん!」


親衛隊がそう叫ぶと周りの空間が重い気配でひどく歪んでいく。このプレッシャーは初めて感じるものだ。一体何なんだ、この技はっ!

重力が何倍にも増幅されたような感覚が襲う。この初めて受ける技にオレは一歩も動く事が出来なかった。か、身体が重い…まさか…動きを止めてからの…攻撃?


バキィ!


動きを封じられた後に放たれた親衛隊達の息の合った攻撃を受けオレは宙に飛んだ。

攻撃自体は見慣れた狼牙の技と同じものだったけど逃げられないと言うのは大きい。

結局全く受け身を取る事も出来ずにオレは敵の息の合った拳をダイレクトに食らっていた。


「ぐはぁっ!」


技を受けて宙に飛んだオレはそのまま城の床に叩きつけられて…ただ、違和感を感じた時点で咄嗟に気を防御100%に振り分けていたのでこの技で受けた肉体的ダメージはちょっと口から血を吐く位の軽いもので済んでいた。

あの敵の技…技名こそ初めて聞くけど技自体は狼牙系の技の発展形みたいだった…それにしても垣間見えたあの黒い波動は一体…。


「ヒロトッ!」


このオレの惨状を見てレイが心配そうな顔をして急いで駆け寄る。


「大丈夫?相性が悪いみたいだね、加勢するよ!」


「いや、いい!レイは構わず先に行ってくれ!後で必ず追いつくから!」


オレの受けたダメージを見て彼女はその言葉を信用しようとしない。心配してくれるのは嬉しいんだけど、ここは進める方がどんどん先に進んだ方がいい。


「何言ってるの!ボロボロじゃない!」


「これはオレに与えられた試練、きっと乗り越えてみせるから!」


オレはそう言ってレイの瞳を見た。きっと本気を伝えるにはこれが一番伝わるはずだ。真剣な目を見て真意を感じ取った彼女は一呼吸置くと口を開いた。


「…分かった。でも絶対勝って追い付いてくるように!」


「おうよ!」


オレの信念を感じ取り納得したレイは先へと進んでいく。それを防ごうと立ちはだかった親衛隊員はことごとく彼女のエネルギー弾攻撃の餌食になっていった。

本当にレイの攻撃に対してこの親衛隊員達はただの雑魚でしかないな。


オレはヨロヨロになりながら立ち上がった。そして気合を入れて体勢を立て直す。

その様子を見たロアードは小さくお手上げのポーズを取り、仕方ないと言うジェスチャーをしながらつぶやいた。


「娘は取り逃したか…まぁいい…ここで確実に君を仕留めれば後は四天王がきっちり仕事をしてくれるだろう」


「どう言う事だ!」


「はぁ?」


レイがいなくなってオレは改めてロアードに問い質す。奴はオレの質問に何の事だと言わんばかりにとぼけて返した。


「とぼけるな!あの技は…」


「ああ、その事か…ヒロト君、君父親からの修行を途中で投げ出したそうじゃないか」


「うっ…」


ロアードに自分の過去を指摘されてオレはぐうの音も出ない。それじゃあやっぱりさっきの技は父さんの…。

オレが動揺していると奴は学生に授業をする先生のようにあの技の説明をし始めた。


「絶牙こそはその龍元流格闘術の最終奥義だよ…君には受け継がれなかったけどね」


「でもオレは授けられなかったとは言え父さんの試合はずっと見てきた!あんな技」


父さんからの手ほどきはしてもらえなくても見た事のある技なら全部覚えている自信がある。才能はなくても幼い頃から活躍する父さんを見るのは好きだったから。

でも絶牙なんて技は見た事も聞いた事も…そもそも父さんの口から語られた事すらない。

するとロアードの口からその技を父さんが一度も使わなかった理由が語られた。


「そりゃそうだろう?あの技を実際の人間に使ったらすぐに勝負はついてしまう…人間界では一度も使ってはいないはずさ」


確かに父さんの職業は格闘家だった。格闘だってビジネスともなればいつも簡単に勝負がつきすぎては都合の悪い事もあるだろう。父さんが格闘家をやめてしまったのも、もしかしてそこに原因が?

そう言えば昔父さんにどれくらい技がるのか聞いた時、本当はもっとあるけど全部は使わないって言っていたような…。


「封印した技…冗談かと思っていた…」


「ちなみにこの技は親衛隊員全員がマスターしているからね。全員で一気に使えば…ふふ、流石の君も…終わりだよ…」


「くっ!」


ここに来てまさかの大誤算だった…。ここにいる親衛隊員全員があの技を使えると言うこの状況、不利なんてものじゃない、絶対の大ピンチじゃないか。

しかしここを乗り越えられなければこの先へと進む事なんて到底出来やしない。


「君は偉大な父親の最終奥義で倒されるんだ!光栄じゃないかっ!カハハハハッ!」


ロアードはそう言って笑った。こいつ、何て悪趣味なヤローなんだ。楽勝で勝てる自信があるが故の絶対的な余裕。何とかこの状況をひっくり返さないと…。

しかしこの未知な技に対してオレはどうすればいい…。セオリーとしてはじっくり観察して…技の仕組みを理解して…その上で…。

だけど短時間にそんな事が…でもやるしかない。でないとオレの旅はここで終わる。

ここでもしっかり成長して更に上の存在に打ち勝つんだ!

腹を括ったオレはただただ集中した…。あの技を解析する為に全神経を研ぎ澄ます。


「もう覚悟は出来たかい…さあ、フィナーレだ…」


ロアードの合図と共に親衛隊員が一斉に襲い掛かって来た!ここが正念場だっ!オレは全ての敵の攻撃を全く避ける事もせずにじっとその動きだけを見た。

 

「もう避けないのかい?いい覚悟だ!」


ここに来てロアードの顔が狂気に歪む!それは弱者を嘲る卑怯者の顔だった。

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