第7章 浮遊城の攻防
第44話 浮遊城
「お前らよくこんなところで眠れるなぁ」
オレが眠い目をこすりながらその声の主を確認する。ぼやけた視界がはっきりしてくると…何とそいつはロアードだった!
「お、おまっ!」
オレはロアードを指さし声にならない声を上げた。すると奴はニヤリと笑ってオレ達に向かって白々しく話しかけて来た。
「ようこそ浮遊城へ。どうやって来たかは知らないが歓迎するぜ?」
「浮遊城?まさか本当に?」
「お前さん、ついに極北支部まで破壊したらしいな…全く、お前ららしいぜ」
ロアードはそう言って笑う。オレ達のやりとりを聞いてレイもゆっくりと目を覚ました。
「何?あれ?ここは…?ゾッドは…?」
その彼女の言葉を聞いてロアードは真相を推測した。
「ゾッド?そうか…あいつか。あいつのやりそうな事だ…」
「ゾッドの事を知っているのか?」
オレはロアードにゾッドの事を質問する。今思えば彼は色々と謎だらけだった…オレ達をこの場所に転送したりもするし…。
「アイツは前から怪しかったのさ…実力だけなら四天王に匹敵したんだがな…」
この話しぶりからオレはゾッドの極北支部長の役職は左遷のようなものだと悟った。
そして彼の正体は…きっと父さんの知り合いなんだ。そうでなかったらオレ達はここにいるはずがない。
「どうせお前ら城に用事があるんだろう?いいぜ、入って来るがいいさ。俺は上に報告するから先に行くぜ」
ロアードはそう言って城の方に向かって歩いて行った。オレ達の事なんて大した問題にしていないんだ。
「何よアイツ。感じ悪いね」
レイがそう言ってオレに話しかける。その不機嫌そうな顔はちょっと面白かった。
彼女の表情を見て平常心を取り戻したオレは諭すように話しかけた。
「一応敵だからそんなもんだよ。それよりもう動ける?」
「動ける動ける!もうすっかり回復したよ!」
「じゃあ、行こうか!」
オレ達は起き上がって体についた埃を払う。見上げると巨大な城が目の前にそびえていた。余りに至近距離に城があった為、その光景に全く現実感を感じない。流石は夢の世界と言うべきか。
その城は悪夢の城と言うにはあまりにも美し過ぎた。そしてここに敵の最強勢力が揃っている。そう思うと身体が震えて来た。
一歩歩く度に…一歩城に近づく度に緊張感が高まってくる。
パシン!
その時、レイがオレの背中を叩いた。
「いっちょ前に緊張なんかしてるんじゃないよ!」
この刺激でオレの緊張もどこかに抜けていった。彼女のこの気遣いが有り難い。
「レイ、有難う」
「な、何よ改まって…」
オレの言葉にレイはどこか照れているようだった。気が付くともう目の前に城の扉が迫っている。オレ達を挑発するようにその扉は開放されていた。さっきロアードが言っていた事は確かに本当だった。
「歓迎…されているのかな?」
浮遊城の圧倒的な存在感にビビったオレは小声でそうつぶやいていた。
「ここまで来たら行くっきゃないでしょ!」
そんなオレとは対照的にレイは自信満々にそう言うのだった。こう言う彼女の強気なところはすごく心強い。
レイと一緒にいるだけで不思議と根拠のない自信が沸き上がってくるのをオレは感じていた。
辺りを十分に警戒しながらオレは城の門をくぐる。ついに…ついにここまで来たんだ。後はこの城の主を倒すだけだ。
…出来るかなぁ?
城内部の庭園はとても美しく整備されていた。一見ここが悪夢の王が住む城とはとても思えない。悪夢の城で想像すると悪趣味なものが並んでいそうなものなのに。
オレの不安はここにベストメンバーで来る事が出来なかった事にも起因していた。
「結局アサウェルと合流出来なかったなぁ…待っていた方が良かったのかも?」
「きっとここで合流出来るって!」
オレの弱気発言にレイが持論を展開する。
しかしレイのこのポジティブ思考は一体どこから来るんだろう?
でもそのあまりの自信たっぷりの発言を聞いているとオレも何だかそうなるんだろうなって思ってしまえるから不思議だ。言霊ってきっとこう言うのを言うんだろう。
オレ達は何の抵抗にも会わずにすんなりと城の内部に入る事が出来た。城の内部もまた想像していたものと全然違っていた。白を基調としたあまりにも豪華な内装。
それはここが天界の城だと説明されても納得してしまいそうな雰囲気だった。
「来たな」
城で待ち構えていたのはロアードだった。奴は上から目線で俺たちを歓迎している。
実際に二階の踊り廊下からこっちを見ているのだから更に嫌味に見えていた。
「来てやったぞ」
オレは奴の言葉に何となく対抗心でそう答えていた。
しかしこの城には他に人材はいないのか?ロアード以外に人の気配が全くないんだけど…。
もしかして実はこの城は今は誰もいないじゃ?オレはちょっと疑問に感じて質問を投げかけた。
「本当にここに四天王とか幹部がいるのか?やけに静か過ぎるんだけど…」
「ああ、勿論だとも…ここには幹部以外には親衛隊しかいない…選ばれし者しか入れない特別な城だからな」
「その割に城門が完全開放されてたけど」
ロアードの説明にオレはちょっと皮肉を込めてそう言った。
「当然さ、この浮島に入る事すら幹部以外には不可能だからな…セキュリティの必要すらない」
オレの質問にロアードはドヤ顔でそう答えた。ああ、早く戦ってその顔に一撃ぶち当てたい…。そう思ったオレは攻撃の構えをとった。戦闘開始だ!
「じゃあ早速始めようか…」
「せっかちだね君は…まず四天王と戦う前に我が可愛い部下達と戯れていてくれたまえ」
ロアードはそう言うと城の奥へ姿を消してしまった。そして奴と話している間にいつの間にかオレ達は大勢の親衛隊に取り囲まれていた。こいつら…さっきまで気配すら感じなかったぞ…。
「あのロアードってヤツが何かしたんだよ、これ」
この状況に対してレイが耳打ちをする。それはオレも同意見だった。
「ああ、間違いない…」
オレはすぐに感覚を至近戦闘モードに切り替える。じゃあその親衛隊の実力、試させてもらおうか!
「さあ、遊びたい奴は遠慮なく始めてくれ!こっちはいつでも構わないぞ!」
オレのその挑発を合図に一斉に親衛隊がオレ達に向かって襲い掛かる!ここでオレの技がどこまで通じるのか…見極めてやるぜ!
「ふふ…我が親衛隊に自分の実力がどこまで通じるか試してみるといいよ、ヒロト君…」
その様子を別の場所から観察するロアード。そうつぶやく奴の顔からはゲスな笑みがこぼれていた。
「連続エネルギー波状攻撃!」
戦いを経てさらに威力の上がったレイの攻撃が親衛隊員を丸焦げにする!
今のレイにとっては精鋭である親衛隊員ですら赤子の手をひねるほどの存在だった。
「うひょー!流石レイ!オレも負けてはいられない!」
楽勝で勝ち進むレイを横目にオレも必殺の構えで親衛隊員達相手に攻撃を開始する!
ここで彼女ばかりにいい顔なんてさせていられないっ!
「狼牙虚空拳!」
衝撃波を込めたオレの拳が敵を穿つぜっ!
…スッ!
「あれっ?」
おかしい…。極北支部での修行で新たな能力まで身につけたオレの技が親衛隊員に余裕で避けられた…。な、何で?一人だけ桁違いに強かった…とか?
「虚空拳!」
「虚空拳!」
「虚空拳!」
「虚空ケェーン!」
ゼェゼェ…ハァハァ…。
オレの繰り出す技はみんな親衛隊員達に避けられてしまった。一人二人ならまだ納得も出来るけどまさか親衛隊全員に避けられるだなんて。そこまでレベルが違うって言う事なのか?一体…一体どう言う事なんだ?
「その技は既に見切っている…今度は俺達の番だ…」
混乱しているオレを尻目に親衛隊の一人がそう言い放った。見切っているだって?自分で言うのも何だけどオレの技、父さん直伝のこの技はそう簡単に見切れるものじゃない。特に初めてこの技を見た者に対してここまで綺麗に避けられるはずが…。
その次の瞬間、親衛隊の攻撃がオレを襲う!その攻撃にオレは耳を疑った。
「狼牙虚空拳!」
ものすごく馴染みのある技名を親衛隊員が叫ぶ!まさか!オレは耳を疑った。
しかしその馴染みのある技で放たれた拳は間違いなく自分と同じ流派だった。
ドゴオオオ!
「う…うぐっ!」
嘘…だろ?全く同じ技?オレは敵の放つ自分と同じ技によって吹き飛ばされていた。
とっさに腕でガードしたから大したダメージではなかったけど…これは一体…。
「びっくりしただろ?からくりが知りたいかい?」
オレが疑問を抱いていると待ってましたって言うタイミングでロアードがまた二階から姿を現す。こいつ…どこかでこの戦いを見ていやがったのか…悪趣味な奴め。
「ああ、良かったら説明を頼む…」
「我ら親衛隊は全員タダシの指導を受けている。君の技はみんな使えるんだよ!だから逆に同じ攻撃なら簡単に避けられる。どうだい?愉快だろう」
「な、何だってーっ!」
う、つい我ながらベタ過ぎる驚き方をしてしまった(汗)。つまり洗脳された父さんがこいつらを鍛えたって言う事なんだ。
前に戦った時にロアードに全く技が届かなかったのも本当はそう言う理由だったのか。同じ技を使えるならその技の返し方を知っていても当然…。
オレも流石に同じ流派同士の戦いは全く想定してなかった。
「この圧倒的に不利な状況で君はどう戦うんだい?」
「はっ!技は同じでも早さと威力が違うさ!」
ロアードの挑発にオレは精一杯の強がりを言った。そうでも言わないとプライドが保てる気がしなかった。きっと奴には見透かされていると思うけど…。
「言うねぇ…それじゃあコチラは物量作戦だよ?同じ技を持つ多数の相手を前に君が早さと力でどこまで対処出来るか…これは興味深い…」
ロアードはそう言って笑う。自分はあくまでも高みの見物と言う訳だ。
いいだろう…これだっていい修行になるさ…。
「そこから見てろよ!このオレの凄さをな!」
オレは強がりを言う事で自分自身にも暗示をかけていた。同流派同士の戦い…これは今までと全く違うパターンだ。
多分親衛隊は同じ流派同士での戦闘をを極限まで鍛えている事だろう。対してオレは型は教えてもらったけど実践は夢の中で使ったのが初めてだ。だから同じ流派同士の戦いなんて今までした事がない。
つまり戦闘経験においてはオレに方が圧倒的に不利と言う事になる。これは今まで戦ったどんな敵よりやり辛い。
この戦い、どうやら思ったより楽ではなさそうだ…。
「狼牙…」
「狼牙…」
「狼牙…」
「虚空拳!」
「虚空拳!」
「虚空拳!」
周りの親衛隊員からの一斉に攻撃が放たれた!
だが!同じ技が来ると分かっていて避けられないはずがないっ!どうやら各々の技の威力においては想定内のものでしかないようだ。奴らの攻撃を紙一重で避けながらオレは思った。この程度なら…行ける!
「残念だったな!ここから反撃だ!」
「ほう?流石に来る技が分かっていれば避けられますか…」
その様子を見てもロアードは全く態度を変える事なく、更に薄ら笑いを浮かべながらそうつぶやいた。その不敵な笑みにはまだ何か奥の手がありそうな含みを感じる。ふん、今更次にどんな攻撃が来ようともオレの本気で全部返り討ちにしてやるっ!
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