第42話 極北支部長ゾッド 中編
いや、ちゃんと敵の方を見ろよ。あの一撃で勝ちを確信するのはあまりに早計だぞ。
「なるほど…それなりの実力はあるみたいですね。安心しましたよ」
「?!」
威力の上がったレイのエネルギー波の直撃を受けたのに何とゾッドはピンピンしていた。そして何よりその事に彼女が一番ショックを受けていた。
「嘘…?」
「どうやら本気で攻撃しても君達なら耐えてくれそうだ…」
ニヤリと笑いながらそう言い放つゾッドのその雰囲気は狂気に満ちていた。こいつ…やばいなんてもんじゃないぞ…(汗)。
流石は極北支部長を任されるだけの事はあるな…。多分実力は四天王に次ぐものがあるんだろう。
つまり…こいつを倒せれば四天王ともいい勝負が出来るはず。倒さなければならない敵のボスは四天王よりもっと上の存在だ。今後の事を考えればこいつくらい余裕で倒せるようにならないと話にならない…。オレはそこまで考えてちょっと気が遠くなってしまった。
ゾッドは目を閉じてゆっくりとレイに向けて手をかざす。これはエネルギー弾攻撃だ!次の瞬間カッと目を見開いた奴はものすごい勢いで腕を振り払った。すぐに無数のエネルギー弾が彼女を襲う!
この攻撃、攻撃方法こそレイと同じだけどスピードが段違いに早い!レイの攻撃なら何とか避けられるオレだけど多分このゾッドの攻撃は避けられない…。
ズドドドドドッ!
大音量の破壊音を響かせてゾッドの攻撃はレイに全弾命中した。やはりレイも避けられなかったか…。
奴の攻撃で生じた爆炎が消え去ると…レイは防御壁を展開させていて無事だった。
「…なるほど…やるじゃないの…」
そのレイの言葉が強がりなのはオレでもすぐに分かった。この戦闘でゾッドは本気なんてまだ欠片も見せちゃあいない。こんな強敵相手にどんな戦略が通じるって言うんだ…。
ダッ!
オレがゾッド相手の戦略を考えているといきなりレイが走り出した。素早く動いてゾッドを牽制するつもりだろうか。走りながらレイはエネルギー弾でゾッドを攻撃する。奴は必要最低限の動きでその攻撃を紙一重で避けている。戦闘において明らかにゾッドの方がレイより格が上だ。
オレはこの戦闘の間、奴に対する戦略を練っていた。幸いな事にこの戦闘においてゾッドは傍観するオレに対して攻撃する意思を持っていない。勿論単純に不意打ちを狙ってもあの実力なら簡単に返されてしまうだろう。奴のあの態度は暗にそれを誘っている雰囲気すらある。
考えろ…考えるんだ。レイの体力が尽きる前に。
「さて、うまく避けてくださいね」
ゾッドはその手に光の槍を形成させていた。奴はニヤリと笑うと今度はその光の槍をレイに向かって軽く投げつける。
くんっ!
ゾッドの投げた光の槍がレイに迫る!腕力で投げたはずのその槍はエネルギー弾と変わらないスピードを出していた!
けれど所詮は真っ直ぐなその弾道を見切れない程の彼女ではない。
「そんなの当たる訳…」
レイが余裕でその槍を避けたと思った瞬間、その槍の軌道が曲がる!
「嘘?!」
一瞬彼女は動揺したものの、すぐに体勢を立て直して何とか最初の槍の攻撃の回避に成功する。その槍はすぐに軌道を修正してしつこくレイを狙う。
槍の軌道はゾッドが操っているのか?それともこの槍自体に追尾機能があるのか?
とにかくこの槍はレイに当たるまで追尾をやめそうになかった。
「こう言う時はお約束よね!」
そう言うとレイはゾッドに向かって走り出す。彼女は映画とかのドッグファイトでよくあるあの直前で避けて敵に自爆させるアレをする気だ!
しかしその作戦をゾッドは読んでいたのか向かってくるレイを見ながらニヤリと笑う。
「槍の早さはまだ上がりますよ」
「え?」
グサッ!
「きゃあああ!」
レイが振り向いて確認しようとした瞬間、スピードアップした光の槍がレイに直撃する。そして光の槍はそのままレイの体を貫通する。
物理的な槍ではないので外傷はそれほど目立ったものは見受けられないけど…彼女のダメージはかなりのものがあるはずだ。
「だからうまく避けてくださいって言ったんです」
光の槍の直撃を受けてレイはその場に倒れ込む。オレはこの時、身動き一つ出来なかった。あまりのも早い展開で目で追う事すら困難だったのだ。
そして気がついたらレイが倒れていた。ゾッド…やはりこの男、只者じゃない。
「こんなものですか…少し失望しましたよ」
「レイッ!」
オレはすぐに倒れた彼女の元に駆け寄る。まさか…まさかこんなところで死ぬなんてそんな事は…。
「…馬鹿ね…こんなんじゃ死なないわよ…」
心配して触ったレイは暖かった。身体にも目立った外傷はないみたいだ。良かった…これなら多分ダメージはそんな大したものじゃない。
「油断しちゃった…」
「ちょっと休んだ方がいい…次はオレの番だ!」
ダメージを受けて苦しそうなレイを見てオレは言った。次はオレがゾッドに挑む番だ。この言葉を聞いて彼女が急に怒りだした。
「馬鹿言わないで!まだ決着はついてない!」
「いいからしばらく休むんだ!今のその身体じゃまともに戦えない!」
本気を出していない敵に手も足も出なかったと言う現実を前にしてもレイは自分がゾッドを倒すんだとムキになっている。話を聞かない彼女のその言葉にオレはつい売り言葉に買い言葉になってしまった。一体どう言えばレイは納得してくれるんだ…。
「私は大丈夫!」
「大丈夫じゃない!」
今度は本気の大声で叫んだのでやっとレイは少し冷静さを取り戻したようだ。
そうしてその場にしばしの沈黙が訪れる。
「…分かったよ…私が回復するまでせいぜい持たせてよね!」
やっと納得したのか彼女はそう言って笑った。
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