第41話 極北支部長ゾッド 前編

「あった!階段だよ!」


先行していたレイが階段を見つける。出来ればエレベーターが良かったけど、それだと逆に閉じ込められる危険性もあるし、そのリスクを考えれば今回は階段の方が色々と都合がいいのだろう。


「よし!上ろう!」


「でもどこまで上ればいい?最上階?」


改めて聞かれると困ってしまう。オレはこの支部の事なんて何も知らないんだから。

でも間違っても単純に時間をロスするだけ…。そこでオレは名案を思いついた。


「そこらの雑魚の誰かに道案内を頼もう。いや、ボスのいる部屋の場所を聞くだけでもいいや」


「やっぱそうなるよね」


そう言う事でオレ達は改めて周り見回したけど周囲には人影すらなかった。もしかして最初に敵を倒し過ぎたから支部内部には人員があまり残っていないのだろうか…やり過ぎちゃったかなぁ。

ただ、ここは1階で少なくとももっと上の階にボスがいる事は間違いないはず。


「取り敢えず2階に上がろっか…」


そんな訳でオレ達は階段を駆け上がる。2階に上がったオレ達はまずは道案内をしてくれそうな人材を探す事に…。この階に着くと流石に何人かの敵を見かける事が出来た。敵が視界に入る度にオレ達は話を聞こうと奴らを追いかける。

でも何故か奴らはオレ達に気付くとすぐにみんな逃げていく。あれ?セオリー道理ならこう言う場合の敵の行動って死を覚悟で突っ込んでくるものじゃないの?

ええい!ここの従業員(?)はみんなヘタレか!


逃げ惑う敵を追いかけながらオレは段々イライラして来た。だから絶対に追いつこうとムキになって追いかけてしまった。

そして敵を追いかけて廊下の角を曲がった時、そいつが何かを放り投げて来た!

しまった!これは罠だっ!


ぶしゅーっ!


敵が放ったのは発煙筒のようなものだった。周りが一気に白くなってオレ達は視界を奪われてしまった。全く、上手い事してやられたよ。

毒的なものがこの煙の中に混じってるのかも知れないと察したオレはすぐに手持ちのハンドタオルで口と鼻を塞いで少しの間様子を見る。こう言う時は下手に動いてパニックにならないようにしないと。


煙はしばらくの間この階全体に充満した。この煙が晴れるまでじっと我慢の子だな。

しかし敵の気配は…ない。どうやらこの敵の作戦、混乱に乗じての一斉攻撃が目的ではないようだ。


「あーうざったい!」


この状態に耐えられなくなったレイが得意のエネルギー弾攻撃でこの煙を吹き払おうとする。

その彼女の行動を察知したオレは後々の事を考えてその行為を制止した。


「いや、オレがやるよ!」


レイの攻撃で煙を吹き飛ばしたらその反動で建物全体が破壊されかねない。ここは彼女のエネルギー弾ではなく、オレの技による衝撃波で煙だけ吹き飛ばした方がいいだろう。


「はぁぁぁぁぁ…」


オレは足を肩幅に広げて精神を研ぎ澄まし、胸の前で両手をクロスさせる。それから十分気が練れたところで一気に両手を振り払う!そうする事で生み出された衝撃波で前方の煙を吹き払うって寸法だ。多分これでうまく行くはず。


「鷹翼…滅風殲!」


ズサァァァァッ!


肉体に気を乗せる方法をさっきの戦闘で身に付けたオレの技はどの技も全て威力が上がっていた。滅風殲によって周りに充満していた煙は一気に吹き払われていた。


「一丁上がり!」


この見事な成果にオレはドヤ顔でつぶやいた。この結果を見てレイが一言。


「本当に…急に頼りになるようになっちゃって…」


えーと、それは褒め言葉と受け取っていいのかな?

でもすぐにその真意を聞くのはちょっと怖いから今はやめておこう。


煙が吹き払われた後に現れた景色は…さっきまでと違う見慣れない部屋だった。

あれ?オレ達、煙攻撃にあった時、そこから一歩も動いていないはずだったのに。


「ようこそ極北支部へ…」


この状況に混乱していると急にどこかから声がしてオレ達は戦慄した。何故なら声が聞えるまでその人物の気配が全然なかったからだ。

ここまで沢山の経験を積んで人の気配にもいい加減敏感になっていた…はずだったのに。こいつは気配もないところから急に現れた。つまり…相当の手練だと言う事。

オレは恐る恐るこの謎の人物に声をかける。


「あんたがここの責任者?」


「ええ…まさか先生が倒されるとは思いませんで…そうなってしまったらもう私以外では相手にならないとの判断です」


「先生…シドウの事か!お前があの人を悪の道に引きずり込んだのか!」


「悪の道とは聞き捨てなりませんね…実は今日が先生の初仕事だったのですよ」


自信満々に喋るこの責任者、さっきの気配を悟られない登場の仕方と言い実際かなりの実力者には違いない。

この突然表れた強敵に対してオレ達は一体どんな戦略で臨めばいいのだろう…。


「さて、それでは戦いの火ぶたを切ってもよろしいですか?」


こいつ、口調こそ穏やかだけどその瞳の奥に深く暗くそして鋭い光を宿している。どうやら簡単には勝たしてくれそうにない雰囲気だ…。

って言う事はもしかしてこいつは前にアサウェルと互角の戦いをした…。


「そうか…お前も四天王とやらの一人…」


「いえいえ、私はそんな実力者ではありませんよ…私の名前はゾッド。ここの支部長をさせてもらっています」


これほどの気配を漂わせる人間がただの支部長?と言う事は四天王はそれより更に上?オレは奴の話を聞いて敵組織の幹部の強さに恐ろしいものを感じていた。

折角シドウとの修行で強くなったと思ったのに…これならこの先も楽勝で進めると思っていたのに…どうやらその考えは甘かったようだ。

この半端ないオーラを漂わせる強敵を前にしてオレはもっともっと技を極めなければ上には臨めないと強く肝に銘じていた。


「どちらから私に倒されますか?何なら二人同時でも構いませんよ?」


ゾッドがオレたちを挑発する。それは余りにも単純な挑発だった。今さらそんな安い挑発に乗るほどオレ達は未熟ではない。


「今度は私から行かせてもらうわ!」


って、そんな安い挑発に乗ってるーッ!(汗)


「レイ、落ち着け!安い挑発に乗るなっ!」


オレは彼女を止めようと声を荒らげた。

しかしおかしい、いつもの彼女だったら絶対こんな行動は取らないはずなのに。


「何言ってんのよ!私は暴れ足りなくて欲求不満なの!」


どうやらレイはさっきの戦いでお預けを食らった事で相当欲求不満が溜まっていたらしい…(汗)。ああ…彼女のこの性格が後で災いにならないといいけど…。

オレはもう無理に止めるのはやめてレイが不利になった時にサポートする作戦を取る事にした。出来ればもっと勝ち目のありそうな作戦で戦いたかったよ…。


「話は決まったようですね…いつでもいいですよ」


ゾッドは映画とかでお馴染みのあの相手に向けて手を動かす挑発ポーズを取る。この仕草をすると言う事はこのゾッドとか言う男、自分の実力にかなりの自信を持っているんだ。油断せずに真剣に当たらなければ。

そんな大物の敵に対して全く動じていないレイの肝っ玉もすごいものだけど。


「それじゃあ、行っくよーっ!」


レイはそう言うが早いか構えた右手に力を込めながら超スピードでそれを振り払う。その瞬間に生じたエネルギー波がゾッドに向かって一直線に飛んでいった。


ドゴォォォン!


それは動作こそいつもの攻撃と同じだったけど、今までより更に技の威力と精度が上がっていたようにオレには見えた。


「どうよ?」


エネルギー波を放った後、何故かレイは振り向いてオレに同意を求めてくる。それはすごい自信に満ち溢れた近年稀に見るような見事なドヤ顔だった。

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