第6章 極北支部攻略

第39話 極北支部の用心棒 前編

ガサ…。


オレは改めて地図を広げる。この断崖を抜けた先は極北エリアの本拠地。

そのまま行けば極北支部の本部が見えてくる。そして…そこを抜ければ浮遊城。

浮遊城に行くには…。


ぬっ。


オレが地図を眺めているところにレイがまた興味津々で覗きこんで来る。だから顔が近いって、顔がっ!


「ねぇ」


「うん?」


「極北ってさ、要するに北極って事でしょ」


「多分…」


「でも全然寒くないね」


「それは多分…ここが夢の世界だからじゃね?」


ハァ…。オレは何だか気が削がれてしまった。今の実力から言ってこのまま浮遊城に乗り込んだって返り討ちに合うだけだ。早くアサウェルからの吉報を待ちたいけど…それよりもまずもっと自分を鍛えないと。洗脳された父さんがいつまたオレ達の目の前に現れるか分からないし…。

オレが悩んでいるとレイがオレの顔を至近距離で見つめている。


(…え?ちょ?何?)


オレはこのレイの突然の行為に思わず動揺してしまった。


「地図見せてよ!」


「あっ!」


ひょいっ。


オレが動揺して油断していたところでレイに持っていた地図を取られる。まぁ、別に地図は勝手に読まれても別に構わないんだけど。

オレから地図をかっさらったレイは楽しそうにくるくる回りながら地図を眺めている。何で彼女はただの地図にそこまでテンションが高くなれるんだろう?


「タダシ様の字、かわいい~♪」


(本当、よく分からんわ…)


オレは彼女の行動が読めず、ため息をついた。

しばらく歩いていると次第に辺りの雰囲気に緊張感が漂ってくる。どうやら極北支部の警戒エリアに突入したらしい。


「さて、いっちょやりますか」


「腕が鳴るね!」


オレ達はお互いに目で合図をして敵陣へと殴り込みをかける。戦いの基本は相手が動く前に動く!これ!勿論相手に気付かれないように動く方法もありだけど今は数多くの実践を経験して少しでも多く経験を積む事だけを考えていた。


「エネルギー弾乱れ打ちィィィーッ!」


ズドドドドドドド!


まずレイが無差別にエネルギー弾をぶちかます!彼女の手から放たれたエネルギー弾が雑魚メアシアンをことごとく殲滅する!

それは見ているこっちが哀れに思うほどの圧倒的な戦力差だった。


そしてその様子を見て極北支部からどんどん増援が到着する。すると敵の数が増えて流石のレイの攻撃にも撃ち漏らしが出てくるようになる。オレはその撃ち漏らした敵担当だ。中には運良くレイの攻撃に当たらなかった敵もいるけどその多くはその実力であの攻撃を回避した腕に覚えのある本物の強者ばかり。

そう言う敵ならオレにとって相手に全く不足はない!


「ろうがー…っ!」


オレは走りながら構える。


「こくうけぇーん!」


技名を叫び終わると同時にオレの拳が唸りを上げる!この一撃で生じた衝撃を受けて敵の強者共も軽く宙を飛ぶ!

エネルギー弾はまだ放てないものの、オレの拳から繰り出す衝撃波は最早十分遠距離攻撃と同等の威力を持つまでに至っていた。


「よっしゃ!」


オレはその成果に対して実に満足していた。もう接近戦オンリーの役立たずなんて言わせないぞ!

その後もわらわら出てくる雑魚共を倒して倒して倒し尽くす内に極北支部本部の建物の前まで来ていた。そこまではもうあっと言う間だった。

オレ達との力の圧倒的な差を見せつけられて途中から雑魚共は攻撃を諦めて逆に逃げて行ったからね。敵前逃亡を許すなんてここの敵の教育は一体どうなってるんだ。

…まぁ体力を温存出来て良かったけど。


粗方の敵を倒し尽くして極北支部の建物の前に立つオレ達。二人でお互いの顔を見て同時に頷く。


「よし!行こう!」


「行こう!」


安全に攻略するなら外から遠隔攻撃で建物ごと壊せればそれが一番なんだろうけど、それじゃあ技の修行にはならないからね。この悪夢帝極北支部と言う最高難度の敵の支部も今のオレ達にとってはただの修行場所でしかなかった。

いつの間にかこのオレもこの戦いの日々の中でかなり強くなったなぁ…(遠い目)。


うごあああ!

ぐおおおお!

がはあああ!


支部の建物内に敵の断末魔の声が鳴り響く。ここでの戦いもまた楽勝過ぎて逆に怖いくらいだった。ロアードみたいな敵わないクラスの大物はこの支部にはいないのだろか…。


ドカッ!


敵をふっ飛ばした勢いで扉を開ける。何だか逆にオレ達の方が悪党みたいだよコレじゃ。


「ここ…は?」


オレ達は建物内のかなり広い場所に出て来てしまった。そこにはいかにもな敵が待ち構えていた。そうそう、こう言う出会いを待っていたんだよ!

雑魚共との戦闘ばかりで不完全燃焼気味だったオレのハートはこの手応えがありそうで強そうな敵の出現でやっと火がついた。


「お主達か…」


その強そうな敵は閉じていたまぶたをゆっくりと開く…。眼光の鋭い、いかにもなその人は和服姿で見た目はまるで剣の達人っぽい。夢の世界にもこう言う人はいるんだ。


「師匠!」


その人物を見たレイが叫んだ。え?この人、レイの師匠なの…?だとしたらエネルギー弾のすごい使い手?どう見ても見た目は剣豪っぽいんだけど。

彼女の声にカッと目を開いたその人はレイを見定めてこう言った。


「ぬ、お主、以前我の元を3ヶ月で勝手に出て行った…」


「え?」


その人の言葉に思わずレイの顔を見る。オレの無言の問にレイはどこか他人事のようにあっさりと全く悪びれずに答えた。


「だって合わなかったんだもん」


「お前…今まで一体何人の師匠に師事して来たんだよ」


このオレに質問にレイは顔を上に上げて何かを思い出しながら指折り数えていく。


「うーんとね、7人…くらいかな?」


その彼女の言葉にオレは呆れてしまった。レイってもしかして実は何事も長く続かないタイプだったりするのかも…。


「いや、でもね!合うか合わないかなんてやってみないと分からないじゃない!最後は長かったの!2年も続いたんだから!」


「お、おう…」


このレイの怒涛の勢いで繰り出される言い訳にオレは納得するしかなかった。ああ…押しに弱いな、オレ(汗)。


「何をしている!来るのか!来ないのか!」


レイの師匠を無視した形で内輪で会話を続けてしまい、オレ達は怒られてしまった。

しかしまさかこんな展開になるなんて想像もしていなかったよ。

でも彼女の師匠なら立場的に味方側だと思ってた。最初から敵だったって事?


「あの、レイの師匠さん、どうしてこんなところに?悪夢帝の手先になったんですか?」


「我が名はシドウ!悪夢帝に与するつもりはないがこれも仕事故…頂いた分は働かねばならぬ!」


ここでレイがオレにこっそりと耳打ちをする。


「…シドウ師匠は腕は確かなんだけど常に金欠だったのよ…」


「ああ…なるほど…」


どうやらこの人、性格に問題のある達人っぽい…浪費癖が酷いのかな?ついでなのでオレはレイにシドウの事について尋ねる。


「あの人って結構強い?」


「勿論強いよ!私が会った中でも五本の指には入るね」


「なら!相手に不足なし!」


彼女の話を聞いたオレは気合を入れて構える。構えるのはいつものようにまずは狼の型だ。オレはまずはこの基本の型を極めたいと思っている。


「ぬ!貴様!獣の型の者か!」


オレの構えを見てシドウも早速技を放つ構えを取る。果たして自分の技はこの達人にどこまで通じるだろうか?

無機質な室内がその本性を露わにするように次第に辺りに緊張感が満ちて行く。


「レイは手を出すなよ!」


オレはそう言うとシドウに向かって一気に駆け出す!そう、ここは先手必勝!

今の自分の最大の力で強敵を打ち砕くんだっ!


うおおおおおっ!


「狼牙虚空拳っ!」


すうっ。


衝撃波込みのオレの拳はシドウに紙一重で交わされる!ふわっと彼の髪だけが少しだけ乱れた。流石達人、その動きに全く無駄がない!


「中々の拳筋!」


「お褒めに預かり光栄です!」


カチッ!


シドウが脇の刀に手を掛ける。今度はシドウの居合の剣がオレを襲う!


シュバッ!


彼の鋭い剣の軌跡をオレも何とか紙一重でかわす。

…と、思ったらかわしたようでかわしきれずオレは髪の毛を数cm切り刻まれた。


「流石、達人の剣技!」


「この程度はまだ序の口ぞ!」


拳VS剣の戦い。普通に考えて拳の方が不利に決まっている。

でもここで逆転を狙えるようでなければこの先の戦いは厳しい…はず。オレはこの状況でも積極的に勝ちを取りに行った。


シュバッ!


シドウの居合は真空の波を作り出す。つまりこちらも遠隔攻撃が可能と言う事。

打撃の衝撃波と切れ味の鋭い真空波。この戦いはそう言う遠隔攻撃同士の攻防でもあった。


「オレ、今までの戦いで避けるのは結構得意になったんだよね」


「いつまでその減らず口を続けられるかな」


戦いは次第にエスカレートして行く。

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