第36話 忘れ去られた研究所 後編
「ど、どうも…お邪魔してます」
「ワシは誰かと聞いておる!」
眼光鋭い目で睨めつけられ正直オレはちょっとビビってしまった。
「あ、えと…オレはヒロトって言います。で、後ろにいるのがレイ。昨日道に迷ってしまって勝手にちょっと部屋を使わせてもらいました」
レイはこの爺ちゃん人形に驚いてしまってオレの後ろに隠れていた。そりゃあ急に怒られたらビビってしまいうのも仕方ないかな。
爺ちゃん人形はオレの言葉に怪訝な顔をした。
「何じゃと?外には外敵退散用に霧を発生させていたはずじゃが?」
あの霧はこの建物を隠すためのセキュリティ装置だったんだ!あれ…てっきり敵が仕掛けた罠だとばかり…。
これは謝らないといけないなぁ。許してくれたらいいけど…(汗)。
「あ、すみません、それ、壊しちゃいました」
「なんじゃと!このバカモンが!」
装置を壊したオレ達に爺ちゃん人形から特大の雷が落ちる。うひぃ!ここまで激しく怒られたのってもしかしたら産まれて初めてかも…。
怒られたオレは出来るだけ低姿勢で恐る恐る爺ちゃん人形に謝った。
「すみません、それについては謝ります」
「ふん、まぁいいわ。用事が済んだらさっさと出ていけ!」
あれ?意外にあっさり許してくれた。良かったー。オレは何とか胸をなでおろした。
しかし出て行くとなるとその前にちょっとこの爺ちゃん人形に聞きたい事があった。答えてくれないかも知れないけど、ここは少しこの爺ちゃん人形と話をしてみよう。
「あの!ここはどう言った場所なんですか?それとあなたはアサウェルと何か関係が?」
「何じゃと?アサウェル…?」
「あの…御存知じゃありません?前に一度この世界を救った英雄なんですが…」
今までこの世界で旅をしてきてアサウェルを知らない人に出会った事がない。住人の誰かにアサウェルの話をすれば大抵英雄譚のひとつふたつは話してくれる。それほどアサウェルはこの世界では有名な存在のはず…。
けれどこのじいちゃん人形の態度…一体どう言う事だろう?
「知っとるわ!アレはワシの次の次の世代の変異体じゃ」
何と!この爺ちゃん人形の話が正しければこのじいちゃん人形、アサウェルのお爺ちゃん的存在?それじゃあこの爺ちゃん人形から見ればアサウェルすら若造って認識なのかも。
って言うかそもそも変異体って具体的には何なんだろう?夢の世界の話だからって今まで特に疑問は抱いてなかったけど…このお爺ちゃん人形なら何か答えてくれるかな?そう思ったオレはつい変異体についてこの爺ちゃん人形に質問してみた。
「そもそも、変異体って何なんです?」
「ふん…何も知らんようじゃから教えてやるが…変異体とはそもそもここで生まれたものじゃ!」
「えっ?」
何と、ここが変異体が初めて生まれた場所らしい。道理で建物に歴史を感じると思った。その話にオレが感心していると爺ちゃん人形は更に話を続ける。
「変異体はそもそもこの世界で人々の暮らしをサポートする目的で生まれたものじゃ」
「ふむふむ」
「それがある実験でとんでもない化け物を生み出してしまって慌てて封印した。それで場所も移ったのじゃ」
なるほど…化け物を生み出してこの建物を廃棄したのか。それほどまでの化け物を生み出すなんて…科学?の発展はいつも犠牲と隣り合わせなんだなぁ。
それでその後今は破壊されてしまったあの街に研究所を移転したのか。そしてその後、時を経てアサウェルが生まれた…夢の世界に歴史ありだ。
あれ?でもそれじゃあその怪物って今もこの建物に封印されているって事?
だとすればその封印されている場所って…オレは確認の為に爺ちゃん人形に質問する。
「もしかして…それがあの鍵のかかった…」
「そうじゃ…それでこの建物は存在を抹消した。化け物を悪用される事がないようにな」
なるほど…大体話が繋がって来たぞ。この元研究所を霧で隠していたのはそう言う理由だったんだ。
だとするとこの爺ちゃん人形がここにいる理由も想像がついて来たぞ。
「で、お爺さんがこの建物を管理していたと?」
「お爺さんではない!ロロスじゃ!…じゃが、つまりそう言う事じゃ」
オレの予想はやっぱり当たっていた。爺ちゃん人形、ロロスは廃棄されたこの元研究所の管理者だったんだ。
しかしそうなってくるとその化け物についても気になってしまうな。今も危険なのか…それとも…。その事についても聞いてみよう。
「その化け物はそれから?」
「もう封印すら60年も前の話じゃ…化け物も10年も前に寿命が尽きたわ…じゃが研究されればまた復活もしよう…」
「え…変異体も寿命があるんだ」
オレはその事実にちょっとショックを受けてしまった。じゃあ、アサウェルもいつかは寿命で…。オレのその言葉を聞いてロロスは激怒した!
「当たり前じゃ!変異体が不老不死だとでも思っとったんかい!」
「全然知らなかった…」
オレはその時傷ついたアサウェルの事を思い出していた。確かにあの時、ひどい傷を負って彼は死にかけていたんだ。このロロスの話にオレは厳しい現実を見た気がした。…って、ここは夢の世界なんだけど。
ドカドカ…。
オレ達がロロスと話をしていると玄関の方で物音がした。その物音に対してロロスが大声を上げる。
「やっぱり来おったか!お前さん方が装置を破壊した途端にこれだ!」
「待ってください!こうなったのもオレ達の責任です!オレ達が何とかします!」
「ならこれを使え!」
ロロスはオレにバンドのようなものを手渡した。それは腰に巻くベルトじゃなくて頭く巻くバンドのようだ。このバンドには不思議な模様が刻まれていて何か特別な効果があるものだと言うのはすぐに分かった。
「これは?」
「それは洗脳バンドじゃ、頭に巻け!相手に暗示をかけられる!」
「え?」
オレは一瞬ロロスが何を言ってるのか分からなかった。するとロロスは洗脳バンドをオレに渡した理由を話してくれた。
「ここで敵を倒しても追手はどんど現れる!意味が無いんじゃ!それより暗示をかけて虚偽の報告をさせるのが一番なんじゃ!」
「なるほど!」
ロロスの話に納得したオレは玄関に向かいながら彼にもらったバンドを早速頭に巻いた。すると一瞬視界がぐにゃっと曲がったもののすぐにその感覚は消えて元に戻った。
「これでいいのかな…うまくやらないと」
玄関につくとオレは早速ガラの悪い二人組に遭遇した。こいつらがここの研究を悪用しようとしているのか…やっぱり悪夢帝の手先なのか?
「おいお前!こんなところで何をしている?」
二人組のひとりが大声を上げてオレをけん制する。オレは怯む事なくヤツらに告げた。
「ここには何もないぞ!引き返すんだ!」
「何…だと?」
二人組はオレの言葉を聞いて唖然としている。あれ?これ、ちゃんと効いてるのかな?
でもここはこのバンドを託してくれたロロスを信じて言いくるめてやる!
「この建物もなかった!霧に包まれて迷って幻を見てしまったんだ!」
オレは勇気を出してその場で適当なでまかせを二人組に向かって言い放った。
もし洗脳が効くならこれでも相手を言いくるめられるはず!失敗したらその時はその時だ!
オレの話を聞いた二人組は一瞬話を理解するのに動きを止めた。やがて話を理解すると全く疑いもせずにオレの言葉を信じ込んだ。
「お…おう…そうだった、おい!帰るぞ!とんだ無駄足だ!」
結局、このガラの悪い二人組はオレの言葉を何ひとつ疑わず、素直にこの元研究所を出て行った。何この洗脳バンド、効果すげぇ!
「やるじゃねぇか!」
その場にはいつの間にかロロスが立っていた。彼はニヤリと笑ってサムズアップをしている。オレは無事役目を果たせて安堵していた。
「これ、返します。有難うございました」
役目を果たせたのでオレはロロスに洗脳バンドを返そうとする。するとロロスは笑ってそれを拒否した。
「持って行くがいい!何かの役に立つ事がまたあるかも知れん。それにこれはワシには使えないんだ」
「え…でも…」
「全てこのお嬢ちゃんから聞いたよ。お前さん、世界を救うんだろう?」
ロロスはそう言って笑う。その笑顔は経験を積んだ老人が見せる何とも言えない味わい深いものだった。表情の変化なんてないはずの人形なのに不思議。それにしてもレイ、グッジョブ!!
「じゃ、じゃあ…お言葉に甘えます。有難うございます」
「それと…ワシが道案内してやるよ。道が分からないんだろ?」
「え…いいんですか?」
「どうせ装置を修理するために外に出なくちゃいけないんじゃ…そのついでじゃよ」
こうしてオレ達はロロスの好意に甘えまくって正しい道へと復帰した。ちなみに地図にこの研究所へのルートが載っていなかったのは当時はもっと霧が深く発生していて
分かれ道辺りまで霧が隠していたかららしい。どうせ直すんだから装置をその当時のレベルまで徹底的に直してやるとロロスは息巻いていた。
「あの爺さんならそれが出来ちゃいそうだよね」
レイがそう言って笑う。
「きっと出来ると思うよ」
オレもレイのその意見に同意見だった。
しばらく歩くと目の前に巨大な断崖絶壁が見えて来た。立ち塞がる壁は何人たりとも通さないようなそんな威厳に満ちている。ここを越えないと目的の場所へは辿りつけないんだ…。オレ達はその天然の壁のあまりの巨大さにため息すら出なかった。
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