第35話 忘れ去られた研究所 前編

建物に入って一番最初にオレ達を出迎えてくれたのは立派なエントランス。正面には何やら意味ありげな大きな絵が飾ってある。な、何だこれ…余りにも雰囲気が出来過ぎているなぁ…。この瞬間雷が鳴ったらオレだってちびっちゃう自信があるよ…(汗)。

玄関には人の気配も明かりもなくてただ不気味な雰囲気が漂うばかり。オレ達はとりあえず足音を立てないように静かに各部屋を探索していく。レイが怖がってオレにピッタリくっついて来ているのでちょっと歩きにくい。


「すみませーん、誰かいませんかー…」


この不気味な雰囲気も相まってオレは思わず小声になる。


ガチャ。


最初にオレが開けた部屋は書斎…なのかな?そこにあったのは立派な本棚に机に椅子。室内は余計な物もなくとてもシンプルだ。


「へぇ~」


もうかなり外が暗くなっていたのでここにある本を読むのはもう無理っぽい。明かりがあればいいんだけどそれらしきものは見当たらない。

本棚に収められている本の背表紙を見ると伝説とか人形とか…魔導書…とか?蔵書を見るとここの元住民の趣味が分かって結構面白い。


「暇潰しに読んでみようかな」


そう言ってオレが本棚に触ろうとしたところ、すかさずレイがそれを止める。


「ダメよっ!」


「え?」


「か、勝手に人の家の持ち物を持ち出すだなんて!」


余りにレイが本気で怒っているのでオレはすぐに本棚に触ろうとした手を下ろした。確かに持ち主の了解を得ずにその所有物に触れるのはあまり趣味が良いとは言えないかも。


「それに、その本を読んで呪われたらどうするつもりよ…」


あ、レイの心配はそっち方面でしたか…納得。ちょっと顔を背けて頬を赤く染めながら恥ずかしそうにそう言ったレイの仕草はちょっと新鮮だった。本当、レイの怖がりは可愛いなぁ。


「呪いなんてないって」


怖がるレイにオレはそう言って元気付ける。すると彼女は顔を真っ赤にして反応する。


「べ、別に怖いとかそんなんじゃないんだから!もしそうなったら大変だから!」


それがレイの精一杯の強がりなのは見ただけですぐに分かる。オレはその彼女の様子を見て微笑ましいものを感じていた。


「分かったよ、取り敢えず本格的に暗くなる前にベッドのある部屋を探そう」


「そ、そうね…こんな雰囲気だとちょっといい夢は見られそうにないけど…」


そんな訳でオレ達はこの書斎を出て次の部屋へ…。

オレは扉を無造作に開けて部屋の様子を確認する。この部屋は…何もないな…。床に絨毯は敷かれてはいるもののただそれだけだ。以前は何か置いてあったのか所々何かがあった形跡はある。


「ここで寝る?」


オレはいたずらっぽく笑いながら真後ろのレイに聞いてみた。


「ちょ、いくらなんでもここは…っ!」


いきなり話を振られて焦りまくるレイ。オレは彼女のその表情を十分楽しんでから答える。


「冗談だよ」


「な、何よー!」


からかわれているのが分かったレイがオレの肩をぽかぽかと殴る。本当、こう言う時の彼女をからかうのは楽しいなぁ。ホラーな雰囲気じゃないとこうはならないだろうからしばらくこの状況を楽しもうっとw


「じゃあ、次の部屋に行こう」


「う、うん…」


それからオレ達はあらかたその建物の1階部分は探索し尽くした。ベッドのある部屋も見つけたけどそれ以外の部屋も知りたくなって結局全ての部屋の確認を続けていた。一度の火ついた好奇心は止められないって言うね。


ガチャ、ガチャガチャ!


「ここ、鍵がかかってる」


「やめようよ、やばいって!」


レイが怖がるから開かない部屋は変に調べずにそのままにした。1階部分で鍵がかかっているのは二部屋ほど。調べまわっている内にかなり暗くなってしまったので今日の探索はここまでにした。


ベッドのある部屋が二部屋以上あったのでオレ達は別れて眠りにつく。夢の世界で眠ったら現実世界で目覚めるサイクルなのでやましい事は一切出来ないんだなぁ。

いや、勿論する気もないけどね!(汗)


「おやすみ!」


「おやすみ!」


こうして、謎の建物の中でオレ達は夜を過ごす事になった。眠っている間に何事も起こりませんように。


さて、現実の世界では期末テストの真っ最中。夢の世界の冒険に忙してくてオレは全く勉強が頭に入っていなかった訳で。つまりは赤点確実な訳で…(涙)。

ええい!現実世界なんて今はどうだっていいんだい!(現実逃避)



チチチ…チチチ…


「ふあ~あ…」


夢の世界の目覚めももう慣れたもの。オレは起き上がるとすぐにこの部屋を出た。


コンコン…。


「起きてる?」


俺はレイの寝ていた部屋のドアをノックする。さて、怖がりの彼女はぐっすり眠れたかなぁ。


「も、もうちょっと待ってよ!」


オレの声にどうもレイは焦っている御様子…別に急がなくていいのに。


「大丈夫、ここで待っているよ」


オレはレイが部屋から出てくるまでのんびりと待っていた。こう言う風に待つ時間って言うのも中々良いものだなぁ。


ガチャ!


「お待たせ!」


しばらく待っているとしっかり準備を終えたレイが部屋から出て来た。

オレはレイの姿を見てにっこり笑って声をかける。


「じゃあ、行こっか」


オレ達は…って言うかオレは昨日入れなかった部屋をもう一度確認しに向かう。


「や、やめようよ!」


「まぁまぁ、もう一度確認してやっぱり入れなかったら素直に諦めるから」


止めるレイの言葉を聞き流してオレはその部屋へと向かう。やっぱり鍵がかかって入れない部屋って言うのはすごく気になるものなんだよ。

そうしてその部屋に向かって歩いているとそこに動く見慣れない影が目に入った。あれ?昨日あんなのいたっけ?

その影はよく見るとよく見慣れたシルエットをしていた。


「えっ?アサウェル?」


オレが間違うのも無理はなかった。だってその影の正体は生きている人形だったのだから。その人形は大きさも見た目もアサウェルにそっくりだった。


「誰じゃ!お主らは!」


でも口調は全然似てなかった(汗)。

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