第34話 悪夢への一本道 後編
そして彼女は大きく振りかぶり周りの霧をなぎ払うように振り下ろす!
「そぉれーっ!」
ブアアアッ!
その時放たれたレイのエネルギー弾がオレ達の周りに立ち込めた濃い霧を一気になぎ払っていく。
しかし霧は一瞬晴れたもののすぐに新しい霧がその隙間を埋め尽くしていく。
「ちょっとこれは…」
「うん、不自然っぽいね」
この現象を見てオレ達は敵の存在を予感した。何かが起こる前に警戒するに越した事はない。一瞬霧が晴れた時に見た景色の中には敵の気配は感じられはしなかったけど…。
「どこからか誰かが見てるのかな?」
「ちょっと撃ってみようか?」
そう言ってレイが手を頭上に掲げる。これは彼女が全方位にエネルギー弾を打ち出す時の動作だ。オレは彼女の意見に同意した。
「うん、やってみて」
オレの言葉を受けてレイが一気に頭上にエネルギー弾を打ち出す。放たれたエネルギー弾は上空で四方八方に拡散して辺りを無差別に攻撃する。さて、これで何か反応があればめっけもんなんだけど…。
ズズゥゥゥ…ン!
エネルギー弾の着弾で若干地面が揺れた。これで辺りに敵が潜んでいたなら少しでも何らか反応のがあるはずだ。
しかし…それからしばらく時間が経ってもこの霧は全く晴れそうになかった。そしてじっくり様子を窺っているといつの間にか少し冷たい風が吹き始めて来た。
これは…一体どう言う事なんだろう?オレはない頭を振り絞ってこの霧の正体について考えた。
「この霧ってもしかして魔法か何かじゃあ…?」
「魔法…魔法の対処方法なんて分からないよ!」
オレのこの推測にレイはプチ混乱してしまった。もし本当にこの霧が魔法だったとしたらオレ達はこのピンチを乗り越えられないかも知れない。
しかしこの足止め、本来の目的は何なんだ?
だって今のところ敵が襲ってくる気配が全然ないんだから。これが敵の作戦なら今が一番の攻撃のチャンスのはず…。それをしてこないって事はもしかして周りを霧で包んでまずはオレ達を精神的に消耗させようとしている?
「前にゾンビもいたんだし魔法もあるかもよ?」
「や!今ゾンビの話はやめて!」
このオレの軽口にレイは本格的に混乱状態に。ヤバイ、ちょっと言い過ぎたかも。
でもこれ以上それ系の話題を口にしなければ大丈夫かな?
ただ、この霧が本当に魔法的な何かだとしたらオレ達ではどうしようもない。
アサウェルだったらこんな時はどうしただろう?オレは彼になったつもりで頭の中で様々なシミュレーションをしてみる。
しかしやっぱりオレは彼ではない訳で…いくら考えてもこの霧に対する適切な答えには辿り着けなかった。
そしてまた無駄に時間が過ぎていく。罠の可能性を考えれば視界の効かない中、下手に動くのはどう考えても危険だ。
しかしここでこうして何もせずにじっとしているのも…何て言うか…暇。どうせ暇なんだったら技の鍛錬でもしようか。
そう思ったオレは思いつく限りの技の鍛錬をその場で始める事にした。
はっ!
「狼の型!」
ぶわっ!
演舞で体を動かす度に霧が吹き飛ばされていく。霧を晴らすのにこんな方法も有効だったのか。動かないと分からない事もあるもんだ。
しかしいくら霧を払っても後から後から代わりの霧が迫ってくる。この方法で霧を晴らそうって言うのは焼け石に水のようだ。
とにかく今行っているのはただの暇潰し、オレは特に結果は気にせずにそのまま演舞を続けた。
「龍の型!」
ぶわっ!
「虎の型!」
ぶわっ!
「鷹の型!からの~」
次の瞬間オレはその場でジャンプする。アサウェルとの修行で鍛えた俺の脚力は本気を出せば地上100mにも達する。流石に上空100mまではこの霧も届いていなかった。
すぽっ!
ジャンプによって霧の塊から抜け出すと眼下に霧に包まれた景色が見える。
上空から見下ろす霧の風景は結構神秘的なものでオレはその絶景に素直に感動していた。
「あっ」
霧の景色が幻想的だったので隅々まで注意深く見下ろしているとその景色の中に霧の発生源が見て取れた。今オレ達がいる場所から大分離れたその場所に見慣れない機械があってどうやらその機械がこの霧を発生させているっぽい。
その推測が正しければこの霧は魔法的な理由で生まれたのではなく実に物理的な方法で発生させていたようだ。つまりあの機械を破壊すればこの霧も消えてなくなる…はず。ああ、最初からこうしたら良かったんだ。
オレはそのまま着地するとレイにこの事を伝えた。話を聞いた彼女はすぐに納得してオレと同じようにジャンプする。レイのジャンプ力はオレほどではなかったものの、それでもこの霧から抜け出す程には飛べるのだ。
「みっけたー!」
上空から聞こえる嬉しそうなレイの声。その後、ここからははっきり見えないけど、どうやらそこからエネルギー弾が発射されたっぽい。
ドゴォォォン!
エネルギー弾が着弾して地面が揺れた。きっとあの機械も破壊された事だろう。
上空から見た感じここからその機械までは結構距離があったような気もするけど、ちゃんと命中出来ただろうか?
スチャッ!
着地したレイはにっこり笑ってオレに向かってVサインをする。どうやら見事ミッションコンプリートしたらしい。流石レイさん、かーっこ良い!
「それじゃあ、今ある霧はオレが晴らすよ」
そう言ってオレはさっきやっていたように演舞で霧を晴らした。暇潰しにでも色々やっておくのは大切なんだな。どこで何が役に立つのか分からないものだね。
「はぁぁぁぁぁーっ!」
ぶわわわわわっ!
オレの力一杯の演舞で一瞬の内に霧が晴れていく。もう新しい霧が晴れた隙間を埋める事はない。やがてオレ達の前にまた特に何もない殺風景な景色が視界に戻って来た。遠目にはあの謎の霧発生装置も見える…レイの攻撃でめちゃくちゃに破壊されていたけど(汗)。
「あの機械、調べに行く?」
「えー?罠かも知れないじゃん」
オレの提案はレイに即却下された。まぁ、君子危うきに近寄らずって言うしなぁ。
何の情報もない中で迂闊な行動は命取り。猫を殺す好奇心は何とか収めた方が良さそうだ。
「視界も晴れたんだし先に進もうよ!」
「じゃあ、そうしようか…」
オレはあの装置への興味に後ろ髪を引かれながらもレイの言葉通り先へと進む事にした。そう言えば上空から見たここの地形は地図に記載されていた情報と一緒だったっけかな?歩きながらオレがそんな事を考えているとレイが道の先を指差していた。
「ねぇ…建物がある…」
「え…っ?」
確か地図の通りに進んでいたなら本来この先には大きな壁があるはず。
と、言う事はもしかしてオレ道を間違えた?
しかしこの道の先にある建物にもオレは興味が湧いて来た。気ままな一人旅じゃないのでここは一応レイに了解を取る。
「行ってみようか?」
「どうしよう?ちょっと怖いかも」
オレの提案にレイが早速拒否反応を示す。彼女が嫌がる理由も分からなくはないんだけど、そうしたいのにはもうひとつの理由もあってオレはどうしてもこの建物に行かなくちゃいけないって思っていた。それは…。
「ほら、もうすぐ日が暮れそうだし建物の中の人に事情を話して休ませてもらおうよ」
「でもアレが敵の建物だったらどうするの?」
そのレイの心配も最もだった。そこでオレはちょっとカッコつけてみる事にした。
「その時は敵を倒して寝る場所を確保する!」
「やだ!かっこいい」
勿論この彼女の反応は冗談だ。そんなこんなで話しながら歩いてると自動的にオレ達は建物の前にまで辿り着いていた。何だかんだ言ってレイも付いて来ている。
その建物は意外に大きくちょっとしたセレブの邸宅のようにも見えた。これは…きっとここに入ってみろって神様からの思し召しだよね?
オレはそう都合よく判断して吸い込まれるようにその建物の中に入っていった。
「ちょっと、待ってよ!」
さっきまで及び腰だったレイもオレが建物に入っていったのでしぶしぶオレの後に続いていく。
ギィィィ!
建物の重厚な扉は少し重かった。それはまるで何年も使われていないようなそんな感じだった。この雰囲気を前にして好奇心と恐怖心が自分の中でせめぎあう…そしてその勝負の軍配は好奇心に上がった。
「お邪魔しまーす…」
夕暮れの建物の中はどこまでも暗く恐ろしい程に静かだった。人の気配なんて微塵も感じられない。ここの住人は一体どこに行ってしまったんだろう?
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