第32話 アサウェル救出作戦 後編
「レイ、あの薬草の近くに足場的なものを作れる?」
「え?うーん…エネルギー弾を調整すれば出来るかも?」
「お願いするよ、出来たらオレが飛び乗るから」
「分かった」
レイは力を絶妙に調節して薬草の近くの岩場にエネルギー弾を打ち込む。最初は少ししか岩を削れなかった彼女だけど徐々に力を調整してやがてちょうど一人分の足場が出来上がった。きっちり仕事をこなした彼女にオレは礼を言う。
「おお!いい感じだよ!ありがとう」
「折角作ったんだからちゃんと採って来てよね!」
うまく足場で出来た事で鼻息の荒いレイ。後はオレがそこに飛び乗って薬草を採って来るだけだ。足場までの距離を確認したオレはその場所までジャンプする。
今度はオレが見せ場を作る番だ。
「とうっ!」
ぴょーん。つるっ。
ジャンプしてその足場に飛び移ろうとしたその時、オレはちょっと勢いをつけすぎて足を滑らせてしまった。も、目測をちょっと誤ってしまったかなっ…(汗)。
「おおっと!」
「何やってんのよ…」
そのオレの様子を見て頭を抱えるレイ。お、オレだって好きで滑った訳じゃないぞ。
足を滑らせたものの何とか頑張ってオレは足場からは落ちないように踏ん張る。後少しで足場から落ちるところを何とか体制を整えてギリギリで踏みとどまった。
ふぅ…これは心臓に悪い。さて。
足場の上から安全に薬草をもぎ取ったオレはもう一度ジャンプして今度は余裕で危なげなく戻って来た。それなのにその時は二人から何の反応もなくてオレは地味にショックを受ける。別に何か言って欲しかった訳じゃないんだけどさ…。
「これがあれば後は何とかなる?」
「ああ…多分な」
採って来た薬草をファイファイに見せると彼は満足そうな顔をしてそう答えた。
これでアサウェルが無事に治るといいんだけど…。
洞窟の広間に戻ったオレ達は早速薬草を薬担当の小人に渡す。薬草はすぐに油を搾り取られ、丁寧にアサウェルの患部に塗り込まれた。
「きっとこれで大丈夫なはずです」
オレ達は小人のその言葉を信じさらに3日間様子を見る事になった。
そうして3日後、アサウェルが横になっている部屋に彼の様子を見に行くと傷が良くなったのか彼は起き上がって周りを確認するようにキョロキョロと見回していた。
「アサウェル!もう起きて大丈夫?」
オレの言葉にアサウェルが少し驚いた顔をして振り向いた。その様子から彼はまだ事態をしっかりと飲み込めてはいないみたいだった。
「ヒロト…タダシは…」
「父さんは敵に奪い返されたよ…」
アサウェルのこの問にオレは力なくそう応えるしかなかった。
「そうですか…でもタダシがちゃんと無事で良かった」
「無事じゃないよ!あんなのちっとも!」
アサウェルの言葉にオレはつい感情を爆発させて大声になってしまった。
だってあんな再会ってないよ。あんなに強い父さんが今度は敵になるって悪夢だよ。
「いや、生きていると言うのが重要なんです…生きていればまだチャンスはあります…」
「チャンスって…」
アサウェルは何て前向きなんだろう。
そりゃあの状態の父さんと互角だったし…だからそう言えるのかな。オレ一人で同じ状態になったならきっと絶望で生きる気力もなくしてる。
それからまたしばらくしてアサウェルが完全回復したところでオレ達は洞窟を出る事にした。小人達に何度もお礼を言ってまた洞窟の出口を目指して歩いて行く。今度は敵に待ち伏せされていませんように。
運が良かったのか今度は誰にも邪魔されずにそのまま洞窟を出る事が出来た。そうして広い場所でオレが背伸びをしていると急にアサウェルが切り出した。
「私に心当たりがあるんです」
「え…」
「残念ですがここからは別行動にさせてください」
「何言ってんだよ!急に!」
オレはこのアサウェルの突然の言葉に動揺した。実際、今まで旅が無事だったのはアサウェルのおかげ。どんな危機に陥ってもアサウェルがその強い力で助けてくれた。
なのに今更別行動だなんてそんなの無理に決まってる。
「アサウェルが行くところにオレもついて行くよ!オレ達今まで一緒だったじゃないか」
オレは何処かに向かうと言うアサウェルに旅の同行を求めた。勿論それが甘えだって言うのはちゃんと自覚している。
でも自信がなかったんだ、アサウェル抜きの旅だなんて。彼がいなかったらここまで来る事すら出来なかった。ここから先の旅だって…。
「いえ、ヒロト達はタダシを追ってください。私も後で合流します」
「どうしても別行動じゃなきゃダメなの?」
オレはまだしつこくアサウェルに食い下がった。聞き分けがないって嫌われるかも知れないけど…。
「大丈夫ですよ、ヒロトにはまだ伸びしろがあります。それにもうひとりじゃないでしょう?」
アサウェルはそう言って笑った。そのどこか力ない寂しげな笑顔はオレを安心させるための精一杯の言葉のようにも感じられた。
「そーよ!私が付いているでしょう!アサウェル!ヒロトの事は任しといて!」
いつの間にか話に割って入って来たレイがそう言ってオレの肩をバンバンと叩く!全く、レイだって父さんが連れ去られた直後はものすごく意気消沈していた癖に…。
それでもこのレイの言葉にオレは少し勇気をもらえたのだった。そうだ、アサウェルと離れてもオレはもうひとりじゃないんだ。
「で、アサウェルはどこに?」
「私の昔の知り合いに心当たりがあるんです…その人を訪ねようと思います」
このアサウェルの言葉にオレはしばらく考えた…でも考えたところで話に結論が出る訳はなく…。そこでオレはレイとアサウェルの顔を眺めた。
ひとりでは答えは出せなくても仲間の顔を見れば導き出せる事もある。
「行こう、ヒロト!アサウェルを信じようよ!」
「自分の力を信じてください」
オレを励ますように決意を促す二人の顔を見てオレもやっと決心がついた。そうだ、ここで立ち止まる訳にはいかない。
「それじゃあ…アサウェル、この先オレ達はどこに進めばいい?」
「そうですね…タダシはきっと悪夢帝の本拠地、浮遊城に連れ戻されたのでしょう…となると…」
そう言ってアサウェルは上着の内ポケットから地図を出して広げた。その地図には浮遊城までの詳しい道筋が記入されている。こんな地図を持っていたなんて…だからアサウェルは今まで目的地を迷う事がなかったのか。
「この地図は?」
「これは私とタダシが以前悪夢帝に戦いを挑んだ時に作った地図です。その頃と地形が変わっていなければ十分役に立つはずです」
よく見るとその地図には丁寧な字と懐かしい父さんの字が記されている。危険な場所や安全なルートも詳しく記されていてこの地図通りに進めば問題ないと思えるほどのクオリティだった。この地図を見るだけでアサウェル達がしっかり下調べした後に敵を攻略したって事が分かる。
「地図、自作したんだ…そりゃそうだよね…こんなの売ってる訳がない」
「問題のない限りはこの地図の通りに進んでください」
「分かった。ありがとう」
オレはアサウェルからその手作りの地図を受け取った。何だか大事な宝物を手渡されたみたいでズンと胸に責任のようなものも一緒に伸し掛かった気がした。
いや、このプレッシャーも楽しまなきゃな…。
このオレの様子を見たアサウェルがオレに言葉を託す。
「御武運を祈ります」
「でも…」
「でも?」
オレは話を言いかけ、躊躇した。その様子を見てアサウェルはきょとんとした顔をする。うん、しばらく離ればなれになるんだしやっぱりこっちだって言いたい事を言わないとね。
「出来るだけ早く戻って来てよ!」
「はい、善処します」
アサウェルはこのオレの言葉に笑って答えた。その返事にオレもやっと吹っ切れる事が出来た。よし!新しい旅に出発だ!
「何やってるの?早く行こう!」
オレ達のやり取りを前にレイはもうすっかり旅立ちモードになっていた。女子って本当切り替えが早いよね。そう言うところ、少しは見習わないとなぁ。
「それでは」
「うん」
話を持ちかけられた時に悩んでいた事が嘘みたいに今はお互いスッキリした顔をしている。相手を信頼しているからこそここで笑顔で別れられるんだな、きっと。
「立派に成長したヒロトを見るのが今から楽しみです」
「アサウェルこそちゃんと父さんの洗脳を解く方法を見つけてきてくれよ!」
「勿論ですとも!」
そうしてアサウェルはオレ達から離脱していった。これからしばらくはレイとの二人旅と言う事になる。うーん、大丈夫かなぁ?
アサウェルから預かった地図を見るとここから先は北部エリアのより北の部分、通称極北エリアと言う場所に分類されるらしい。つまり今までより更に強い敵が待ち構えているって言う事。
それでもずっとビビってなんていられない。もっともっと強くなってアサウェルを安心させないと。
そしてついでに父さんから預かったこの本の封印を解いて究極の技を身につけるんだ。まぁ、まだ本を読めてないから内容がそうだとは断言は出来ないんだけど(汗)。
地図にそって歩いているとオレ達の前に長い長い一本道が現れた。それはまるで悪夢へと続く長い道のようにも見えた。
オレ達は覚悟を決めてその道をまっすぐに前を向いて歩いて行く。例えこの道の先にどんな危険が待ち構えていようとも。
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