第31話 アサウェル救出作戦 前編

満身創痍ってこう言う時に使う言葉なんだろうな。一番頼りになるアサウェルは倒れ、オレ達は呆然としていた。

父さん相手に何も出来なかった事をオレは今更ながらに後悔していた。


「うう…」


「アサウェル!」


父さんの攻撃を受けた直後はまだだ少し元気そうだったアサウェルも今はとても苦しそうにしている。よく見るとその背中の傷はかなり焼け焦げていて酷いものだった。

けれど深い傷を負ってはいるもののその傷は致命傷ではないみたいだ。

あれほどの攻撃を受けて…きっとアサウェル以外だったら耐え切れなかっただろうと思う。


しかしこの傷、人間だったらお医者さんに診てもらえばいいんだろうけど人形の場合は一体どうしたらいいんだろう?オレ達の為に犠牲になったアサウェルをこのまま見捨てるなんて事は絶対に出来ないし。


「とりあえず洞窟に引き返して誰かに診てもらおうよ…もしかしたら誰かが助ける方法を知っているかも知れない」


このレイの提案でオレ達は一度洞窟に戻る事にした。敵がつけて来ないか気を付けながら慎重に洞窟奥へと潜って行く。

でも考えたらロアードが洞窟の事を知っていたんだし、きっと敵にもこの洞窟の事は知られているはず…。だから本来そこまで警戒する必要はなかったのかも。


オレはアサウェルを抱き抱えながら洞窟を歩いて行く。アサウェルってこんなに小さくて、軽かったんだな。この世界に来て一番身近に接しているはずなのにこんな事も知らなかった。

まぁ、普通にしていたら抱き抱えるなんて事はなかっただろうけど。


洞窟の奥の広間に着いたオレ達は小人達に集まってもらった。

重症のアサウェルを降ろしてその怪我の様子をみんなに見てもらう。


「誰かアサウェルを助けられる人はいませんか?」


このオレの言葉に様子を見に来ていたファイファイは一言告げた。


「研究所で生まれた変異体は自己修復が効くはずだ…安静にしていれば問題ない」


「本当?」


「だが3日経って傷が治らないなら考えないといけないな…」


ファイファイの言葉に従ってオレ達はこの洞窟でアサウェルを寝かして自己修復機能が働く事を期待して時を待つ事にした。その3日はいつもの3日に比べてやたらと長く感じた。


3日後…。

しかしアサウェルの傷はまだ深く彼は昏睡状態のままだった。


「ファイファイ…アサウェルは…」


オレはアサウェルが心配になってファイファイに容態を尋ねた。この状態を見た彼は深刻な表情をして言葉を選んでいるようだった。


「まずい状態だ…自己修復が動いていない」


「ど、どうすれば!」


ファイファイのその言葉にオレは我を忘れて大きな声を出してしまった。


「まぁ落ち着け、方法がない訳じゃない」


彼の話によるとこの広間の更に奥にこの症状を緩和する薬草があるらしい。そもそも人形に薬草が効くのかって話だけど原理としてはその薬草を潰した時に出る油を塗る事で人形の自己修復機能を活性化させる事が出来るようになると言う事だった。


「よし、じゃあその薬草を取りに行こう!」


「話は聞いたよ、私も行かないとね」


ファイファイとの会話を横で聞いていたレイもその薬草採集に参加する事に。この広間の更に奥ともなれば広間の光は当然届かない。こう言う時には松明の灯りなんかよりレイの光源が役に立つので助かった。


薬草の生えている場所を知っているファイファイの案内で洞窟の奥へと進むオレ達。すごく狭い場所とかは協力してゆっくりと、でも確実にその場所へと進んで行く。

洞窟の奥は深く、まるでどこまで行ってもその場所に届かないようなそんな気がしていた。それでも黙々と文句ひとつ言わずにオレ達は目的の場所を目指して行く。

もし先導役のファイファイがいなかったら途中で引き返してしまっていたかも知れない。それだけ場所を知っている人の案内と言うのは心強いものだった。


「ほら、あそこだ」


かなり洞窟の奥まで進んだはずなのに雑草ひとつ見つからずにオレが諦めかけたその時、突然ファイファイがどこかを指差した。その指差した場所に薬草は普通に生えていた。あの薬草があればアサウェルは助かるかも知れない。それを目にしてオレはやっと希望が見えた気がした。


しかしその場所は採取するにはかなり困難な場所にあった。目の前には川が流れていてその向こう側の絶壁にその薬草は生えていたのだ。

困ったオレはファイファイに尋ねた。彼ならあの薬草を取る手段を何か知っているのではないかと言う希望を持って。


「これ以上近付けない?」


「まず無理だろう…この川は流れが早いし底が知れない…それに川の水は水温が低い。人が渡るには条件が厳し過ぎる」


どうやらここからどうにかして向こう岸に行ける道があるとかそんな楽な話ではなかった。じゃあファイファイは何でこんな場所に案内したんだよ。見つかっても肝心の薬草が採れないんじゃここまで来たって結局意味ないじゃないか。


「もっと楽に採れる場所はないの?」


「生憎この薬草はこの洞窟ではここでしか見つかってないんだ…それに」


「それに?」


「お前らなら何とか採れるんじゃないかと思ってな」


なるほど、この無理難題も試練と捉えればいいのか。そう考えてみると何だかちょっとこのミッション、クリアしてみたくなって来た。


修行だと思えば不思議な事に色々と考えが浮かぶ…。まずは川を越えて向こう岸に辿り着く…この夢世界で修行したオレ達なら多分ジャンプで届くだろう。

しかし問題は絶壁だ…岩には常に水が流れていて岩を掴むのはかなり困難だ。そうなると何か足場的なものが欲しい…そうだ!いい事を思いついた!

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