第29話 小人達の洞窟 後編

もしかしてここに父さんの情報なんて何一つないのでは?


「何ぶつくさ言ってやがる!俺に何か用なのか?」


「あの…失礼ですがタダシの事について何か御存知では?」


アサウェルが小人にタダシの事について質問する。

オレはきっとこの質問は無駄に終わるだろうと思っていた。


「お前らタダシの連れか?…なら、まぁついて来いや」


意外にも小人はオレの父さんを知っているようだった。彼の案内に従ってオレ達は洞窟のさらに奥へと足を踏み入れて行く。

レイはあいかわらす及び腰だったもののオレ達の後をしっかりとついて来ていた。光源が後方になってしまったため、足元を注意しながら進んで行く。


ガキッ!


「うおっ!」


オレは早速洞窟の凸凹に足を取られて転けそうになる。おっと、気をつけないと。


「何してる?早くついて来い!」


小人はその容姿通りのきつい口調でオレ達を煽る。何で彼はそんなにせっかちなんだろう?元々の性格なのか、それとも…。


「俺の名前はファイファイだ。お前らは?」


「オレはヒロト。アサウェル…はさっき自己紹介してたよね。で、向こうで怯えてるのがレイ」


「そうか…お前がタダシの息子か…確かに雰囲気が似ている気もするな…」


この小人の名前はファイファイと言うらしい。彼の突然の自己紹介にオレは戸惑ったものの一応こちら側も改めて自己紹介をした。それに似てるとかどうとかって言うって事はファイファイは父さんとそれなりに面識があるんだ。


「この洞窟の奥に父が?」


オレがそう言うと彼はしばらく黙ってしまった。何かはっきりと言えない事情があるんだろうか?

例えば敵にこの会話が聞かれているとか?そう考えた時、この状況がまだ罠の可能性があるって事を思い出していた。


(話がうまく行く時は慎重に行かないと…)


「ここは?」


ファイファイに連れられてオレ達は洞窟内の大広間へと来ていた。大広間にはどんな仕組みか分からないけど照明が設置されていてレイの助けを借りずとも十分な明るさが確保されていた。

そしてその大広間でオレ達を待ち構えていたのは複数の小人達だった。そう、この洞窟に潜む小人はファイファイだけじゃなかったんだ。


「おおい!タダシの関係者を連れて来たぞ!」


ファイファイは大広間に着くなりそう大声で叫んだ。するとその声を聞いた小人のひとりがこちらにやって来た。トコトコと歩くその姿はどこか危なっかしくてその雰囲気は敵…ではなさそうだ。これは警戒する必要もないのかな?

彼女はその容姿に似つかわしくないほどの可愛らしい声でオレ達に挨拶した。


「ようこそ、小人達の洞窟へ。って言ってもこれは私達が勝手にそう呼んでいるだけなんですが」


「えっと…」


「こっちからアサウェルにヒロトにレイだ。宴の準備をしよう」


こっちがその行動に戸惑っている内にファンファンが勝手にオレ達の名前を紹介してしまった。それで何?来たばかりでいきなり宴だって?

オレ達はどうやら歓迎されていたらしい。この頃になるとレイもようやく落ち着いてこの小人達と普通に向き合えるようになっていた。


そうしてしばらくして洞窟の小人達によるささやかな宴が開かれた。

オレもアサウェルもレイも出された料理を楽しみ飲み物を飲んでリラックスしていた。出し物の小人たちの歌やダンスは楽しくオレ達はすっかりこの雰囲気に馴染んでいた。


「タダシ様は私達を助けてくれたんです」


「えっ」


料理を運んでくれた小人がオレ達にそう話してくれた。まさかオレの知らない父の姿をこんな所で知る事になるとは…。


「私達は研究施設で酷い人体実験をさせられていました…」


話によると父はメアマスターに返り討ちにあった後、隙を見て逃げ出したのだがその時にその研究施設の惨状を見て彼らの脱出の手助けをしたらしい。

けれど全員を引き連れて逃げ出したものの、敵の追撃が激しくなって止む無くこの洞窟に身を潜めた…と。


「じゃあ、父はここに?」


「いえ…タダシ様は少し前に状況を見てくると言って洞窟を出た後、戻って来ませんでした」


「そう…ですか…」


オレはこの返事を聞いて落胆した。ここまで、手が届きそうになったまた離れていく感覚…。これからオレ達はどうしたらいいんだろう?


「タダシからお前に渡すように言われたものがある」


父さんの情報が途絶えた事を知って落胆しているオレにファンファンが声を掛けて来た。何処かから持って来たそれは何かの書物のようだった。


「お前がここに来たならをこれを渡せと」


「父さんが…これを…」


オレはファンファンから父さんから預かったと言う本を手渡され早速読もうとした。

けれど、どう頑張ってもオレはその本を開く事が出来なかった。

それはまるで何か見えない封印のようなものがかかっているみたいだった。


「どうやらその書を開くにはまだ経験不足のようですね」


その様子を見ていたアサウェルが口を挟む。え、そんな事があったりするの?


「タダシは多分君が自力でここに辿り着いたと想定してこの書を準備したのでしょう」


「う…」


「私は指南役だからともかくレイが仲間に加わりましたから…鍛錬が足りないままここまで来てしまった…きっとこの本を読むにはまだまだ心技を鍛えないといけないのではないでしょうか?」


このアサウェルの分析は正しいように思えた。確かにオレはここに来るにはまだ全く鍛錬も覚悟も足りない…それは自分が一番よく分かっている。


「じゃあ、鍛えれば…」


どうにか父の置き土産を読みたいオレは縋るようにアサウェルに言った。もっと強くなればこの本を見られるのか…せめてその確証が欲しかった。


「あんた本当に強くなれるの~?今が限界なんじゃないの~?」


このオレ達の会話に強引にレイが割り込む。どうやら彼女はおもてなしの宴のジュースを飲んでテンションが上ってるみたいだった。う~ん、一体どんなジュースを飲んだんだ…。


「れ、レイには関係ない話だろっ!」


「関係あるわよ~弱っちぃままだと足手まといじゃ~ん」


「なっ!」


前々からレイはちょっと口が悪かったけど流石にこの言葉にはちょっと気を悪くしてしまった。宴のジュースのせいだとは思いたいけど…。

でも実際今から更に鍛えてもっと強くなれるかは正直全然自信はない。ただ、レイのこの言葉に素直に納得するのも何か違うような気がしていた。


「まぁまぁまぁ…落ち着いて。大丈夫ですよ、ヒロトはタダシの遺伝子を引き継いでいますから」


このやりとりに見兼ねたアサウェルが仲介に入る。彼がいなかったらレイと喧嘩に発展してしまっていたかも知れない。アサウェルが冷静に状況を見極められる紳士で本当に良かったよ。


そんな訳でオレはその書をいつか開いて奥義を極めてやると心に誓った。アサウェルやオレをバカにしているレイの足を引っ張らないように。

そして、あわよくば自分がこの戦いの主導権を握れるように(汗)。


「後は何か伝言のようなものはなかったですか?」


騒動が治まった後、アサウェルが小人たちにそう尋ねる。考えたらアサウェルも父の言葉に従ってオレを探していた訳だしオレ達がここに辿り着く事を見越して何か他にメッセージのようなものを残していたとしても何の不思議もはない。


「だからこうして宴を開いているんだ」


「あなた達が来たら精一杯労ってやってくれって」


「そう…ですか」


この言葉に流石のアサウェルも少し落胆しているようだった。やっぱり彼にとっても父は親友だったから何か自分宛ての言葉があるって期待しちゃうよね。


「タダシ様が突然いなくならなかったらきっと何か言葉を残していたはずかと…本当は直接話がしたかったのかも…」


その様子を見て小人のひとりがそう言ってアサウェルを慰めた。その言葉を聞いてアサウェルもまたいつもの優しい笑顔に戻っていた。


「ありがとう。きっとそうですね」


小人たちの宴はその後もしばらく続いて…今日はこの洞窟で休む事にした。港街を出てから安心して休めなかったオレ達は久しぶりにゆっくりと休む事が出来た。


そうして次の日の朝、目覚めたオレ達は次の父の手がかりを得るためにこの洞窟を後にする。小人達には世界の平和を取り戻したら必ず連絡をすると約束して別れた。


「え?昨日何かあったっけ?」


宴の時にやたらとハイテンションだったレイは昨日の記憶をすっかり忘れていた。やっぱりレイはあの時何か変な飲み物を飲まされていたんだな…(汗)。あの流れの中で彼女と仲違いをするような事にならなくて本当に良かったよ…(遠い目)。

 

オレ達が洞窟の出口へと向かっていると不意に誰かの気配を感じるようになった。それはまるでオレ達が洞窟から出てくるのを待ち構えているみたいだ。

オレ達は未知の気配を警戒しながらゆっくりとその影に近付いていく。今はしっかり休んで体力満タンの3人が揃っているからまずそこら辺の敵には負けないはずだ。


その影がハッキリ確認出来るほど近付いた時、オレは言葉を失った。

何とその影の正体はオレの父親、タダシだった。間違いない、って言うか間違えようがなかった。

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