第25話 闇の砦 前編

「え~っ、ここを行くの?」


レイはかなりご機嫌斜めだ。でもそれは当然かも知れない。

延々と続く道幅の狭い山道をオレたちはずーっと歩き続けていた。

そうして止めに目の前に現れたのは今にも崩れ落ちそうな吊り橋だった。


「ここを進まないと目的の場所へは着きませんよ」


アサウェルは冷静にそう言って平然と橋を渡っていく。前例が出来てしまえばこれはもう渡るしかない。

しかし下を見下ろすとこの崖はかなりの高さがある…所謂タマヒュンな光景だ。

オレはとりあえず前だけを見てゆっくりと…ゆっくりとこの吊り橋を渡り始めた。


(風が吹く旅に橋が揺れて怖い…)


口には出さなかったけど…しかしこれはかなりの恐怖体験だ。

この吊橋、全長が200mくらいあるし…渡り切るまで全く油断が出来なかった。

本当は振り向いてレイをからかおうとも思っていたんだけど吊橋の足場が不安定過ぎて全くそんな事をする程の心の余裕もなかった。

早く、早く渡り切らねば!と心の中はその事でいっぱいだった。


「ふぅ、良い体験をしました」


オレがこの橋を渡るのに悪戦苦闘する中、アサウェルは一足お先に橋を渡り切っていた。流石百戦錬磨の人形は物怖じしないね。

彼が橋を渡り切って次はオレの番となる訳だけどその報告をするにはまだしばらく時間がかかりそうだ。


ヒュウウウー…。


こ、こんな時に風っ!この風で吊り橋は左右に思いっきりグラグラと揺れ始める。

オレはしゃがみ込みながら橋の手すりを強く強く握ってその風に何とか耐えていた。

怖いよ!良い体験どころの話じゃないよ!全く自然ってやつはいつだって気まぐれで困るっ!

しかしここは夢の世界なんだ…少しは思いの力で自然を制御出来ないものかなぁ…。


風はしばらく吹き荒れて…そしてやっと収まった。


風の吹いている間は動けなかったオレも風が収まったのを合図にややスピードを上げて何とかこの不安定でスリリングな橋を渡り切った。

でもこれって考えてみたら帰りもまた渡らなきゃいけないんだろ…?もう二度と渡りたくないのに(涙)。


無事危険ゾーンを無事に乗り切って緊張が解けたオレはぺたんとその場に座り込む。

やばい…今頃になって恐怖で身体が震えて来たぞ…。

それでもやりきった充実感でオレは生きている事を神様に感謝していた。


「あはは…やったどー!」


オレがガッツポーズで両手を上げたその瞬間、パシッと言う音と共にその腕にエネルギー的な何かが絡まりつく。ん?何だこりゃ。


「それ、絶対外さないでよ!」


遠くでレイが何か喋っている。ここからじゃ遠すぎて何を喋ってるのかよく聞き取れない…。ただ、とりあえずこの絡みついたものはレイの仕業だって言うのは分かった。

しかし一体これで何を?


びよーん!


「うわっ!」


そのオレの腕に絡みついたエネルギーの紐が一気に縮み始めたかと思うとその先からレイが一気に飛び込んで来た!この予想すらしていなかった彼女の行為に俺はすぐには理解が追いつかず全く体が動かなかった。

そうしてその勢いのままレイがオレの身体に覆いかぶさる!


ドサッ!


「ごめん、驚いた?」


「あ…うん」


倒れこんだオレに抱きつく形でレイが密着している。その体勢は…かなりやばい感じだ。この突然の状況に気が動転して思わず見つめ合うオレとレイ…。

何て言うかお互いに何かバツの悪い雰囲気に。うわ、ヤバイ…何か話さないと…。


「こ、これ…ゴムみたいな使い方が出来るんだ」


「そ、そうそう!便利でしょ…」


うお…中々離れるきっかけが掴めない。ほ、本格的にやばくなって来たような…。


「いつまでそうやってるんですか?」


「わああああっ!」


アサウェルのその言葉にお互いが大声を上げてやっとオレ達は適切な距離を取る事が出来た。サンキューアサウェル。

その後、オレの腕に巻きついたエネルギーの紐を回収しながら顔を赤くしたレイが喋った。


「へ、変な勘違いしないでよねっ!」


レイの反応は実にツンデレのテンプレだった。でもま、これは特殊な状況だしあんまり気にしないようにしよう、そうしよう、うん。

理性ではそう判断しても心臓はまだドキドキ興奮しっぱなしだった。ま、惑わされたらあかんぞ、オレ。こう言うのも吊り橋効果に…入らないよね?


そんな危険な橋を渡って次に見えて来たのが怪しげな謎の砦。

ただ、オレ達からは謎に見えてもきっとアサウェルにはあの砦の事もちゃんと知っているんだろうな。全く知らない建物だったけど少なくとも健全な場所ではないのは見ただけでも分かる。悪のオーラが遠くからでも感じられていた。


「あそこは?」


「あの砦が現在のこの悪夢帝の北部支部です」


それは避けては通れない道だった。

何故ならその砦を抜けた先に目指す小人の洞窟があるのだ。

砦の説明を受けてレイがつぶやく。


「あの時逃した北部支部長があそこにいるんだね」


「どこにも出かけていなければ…ですが」


「よし!行こう!」


オレ達は覚悟を決めて砦に向けて一歩を踏み出した。ここまで来たらこの先にどんな激戦が待っていようともう引き返す事は出来ない。

けれど…この三人ならどんな危機も乗り越えられると…オレはそう確信していた。


その頃、砦内では警戒警報が発令されていた。オレ達が近付いている事は既に敵側に確認されていたのだ。これからかなりの激戦が想定される。

今まさにこの北部支部との総力戦が開始されようとしていた。


「じゃあ、まず私が突破口を開くね」


レイはこの間のゾンビ騒ぎで限界を超えて力を使い…その結果、以前よりより強い力を長く出せるようになっていた。これって怪我の功名ってヤツかなあ。

今のレイの力なら本気になればそこらのミサイルより破壊力のあるエネルギー弾を撃てる事だろう。


「たりゃああ!」


レイの手から放たれるエネルギー弾!メインの手の平の光弾に指から放たれる細いエレルギー粒子が絡みあう。

その異なるエネルギーの相乗効果で威力は格段に倍増する!…んだそうだ。レイの説明によると。

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