第24話 ゾンビの街 後編
しかしもうお互い後には引けない感じのようだった。
「本当にそうでしょうか?」
「試してみるか?」
このやりとりの後、アサウェルとデメロはお互いに不敵に笑い合うとすぐさま戦闘に突入した。激しい技と技とのぶつかり合いに全く目が追いつかない。
まぁ、デメロの事はアサウェルにお任せしよう。
オレは…仕方ない、レイの取りこぼしたゾンビを追っ払うか。ゾンビ自体の攻撃力は大した事ないので今のところこちら側の攻撃さえ途切れさせなければ奴らは全然怖くない。
今後何か心配事があるとするなら今まで暴走して力を無駄に使い過ぎたレイの体力だけ。本当、後どれくらい彼女は持ってくれるのやら…(汗)。どうか彼女がこの街を脱出するまで倒れませんように。
ぬーん
ぬーん
ぬーん
オレ達が混乱しながらも事態を収束させようと頑張っているその間にも地中からどんどん蘇るゾンビ共。しかし昔この街に一体何があったって言うんだ。
って言うか最初にレイが壊したあの封印していたオブジェは一体誰が作ったんだ…。
オレはそこらに転がっていた石に何となく念を込めてゾンビにぶつけてみた。これはこうすればいいと教わったとかじゃなく何となくのただの思いつきだった。
うごおおおお!
あ、効いてる。
念を込めた石をぶつけられたゾンビはその瞬間に消滅していった。
あ、もしかして、これって何か突破口になる?
この現象に興味を持ったオレは手当たりしだいにそこらの石やら瓦礫のかけらやらに念を込めてゾンビにぶつける。
うごおおお!
おほおおお!
ごふううう!
おお!すごい!ゾンビが消えていくぞ!それも面白いように。これは大発見だ!
「レイ!エネルギー弾じゃダメだ!物理攻撃だよ!」
「え?」
この時、エネルギー弾を撃ち過ぎて疲れが溜まって肩で息をしていたレイ。この状態になってやっとオレの言葉が彼女の耳に入ったみたいだ。
レイはすぐにオレの言葉を理解してゾンビたちに反撃を試みる。
ビシュッ!
ビシュッ!
うごおおお!
おほおおお!
ごふううう!
「ちょ、これ!面白い!」
念を込めた石とかをぶつけるだけで簡単に消滅するゾンビ共を見てレイは興奮していた。この成果によってさっきまでのパニックが嘘みたいに急激に彼女は冷静さを取り戻していく。うん、これでもうレイの精神面も安心だな。
オレ達の攻撃で面白いように消滅していくゾンビ共。これでやっとこの事態の解決の糸口が見つかった。
ただ、ゾンビ達の数は思いの外多い。きっと全てのゾンビを全滅させるなんてオレ達だけの力じゃ無理だろう。
やはり根本的に問題を解決するには今アサウェルと戦っている敵を倒して何か情報を掴まないと。つまりこの事態を乗りきれるかどうかはアサウェル次第と言う事。
まぁ親衛隊の下っ端クラスならアサウェルの敵じゃないだろうけど。
「ぐほあ!」
アサウェルのいい一発を貰ってふっ飛ばされるデメロ。
実際、この戦いは一方的にアサウェルが有利なまま進んでいた。
ドガッ!
アサウェルの攻撃で地面に叩きつけられるデメロ。やはりその力の差は歴然だった。
もうデメロの顔はアサウェルの攻撃でボロボロになっている。この状況、もう勝負はついたって言っていい。
「ぐうう…だがお前らに有利な情報など渡さん…」
「ほう?」
勝負のついた後も強がりを言うデメロに対しアサウェルは彼を持ち上げ眼下の無軌道に動きまわるゾンビの大群に勢い良く力任せに放り投げる。
ぽーい
あまりにも軽々と放り投げられたデメロはゾンビの海の中に沈んでいく。
どさっ!
そんな状況のデメロだったが、ゾンビ共は何故か彼を襲う事なく彼を避けて行く。
落とされた直後はしばらく動かなかったものの、やがてダメージを回復させた彼はよろよろと立ち上がり建物の上に立って見下ろしているアサウェルを見上げながら大声で叫んだ。
「それがどうした!俺をゾンビは襲わない!なぜなら…」
「その大事に握っているのがゾンビ避けアイテムですかな?」
ゾンビの群れの中に放り出されたデメロは何かを大事そうに握っていた。それが何か特別なものだって言うのは誰が見ても明らかだった。
このアサウェルの指摘に対してデメロは勝ち誇った顔をして叫ぶ。
「だとしたらどうする?お前らには渡さん!」
状況からして全然有利じゃなくなっていると言うこの期に及んでまだそんな強がりを言うデメロ。その時、彼目掛けてどこからかエネルギー弾が炸裂した。
どごーん!
「ぐぼあ!」
ゾンビ避けアイテムを持っているからって余裕をかましていたデメロはこの不意の攻撃に全く対処が出来ずに見事に直撃を食らっていた。
そうしてそののままその場にどさっ!とまるでコントのように倒れた。
このエネルギー弾を放ったレイがイタズラっぽい顔をしてデメロに言う。
「奪えないなら壊したらどうなるかなぁ?」
「ば、馬鹿な!そんな攻撃でこの聖遺物が…あーッ!」
何とかもう一度立ち上がったデメロだったがこのレイの言葉に自分の手の中の物をもう一度確認する。
しかしそこにあったのは彼女の攻撃で粉々に砕け散った聖遺物のかけらだった。
と言う事は…もうお分かりですね。
ぬーん!
ぬーん!
ぬーん!
ゾンビ達の攻撃対象が自動的にデメロにも向かう。
そこから先の光景は目を覆う程のものだった。
「う、うわああああ!」
「さて、ゾンビ達がアレを追いかけている間にこの街を脱出しましょう」
アサウェルのこの提案に同意するオレ達。前方から襲ってくるゾンビを念を込めた石を投げて消滅させながら今度こそ脇目もふらずに街の出口を目指して走っていく。
何度か迷いながらもオレ達は数時間掛けて何とかこの厄介な街を抜け出す事に成功した。
アサウェルの想像通りゾンビ共はあの街からは出られないようだった。
そう、言うなればあの街自体が巨大な封印だったんだ。
「しかしこの街をまた封印する事って出来ないのかな」
ようやく脱出を終えて落ち着いたオレはさっきまでそこにいたゾンビの街を見ながらそうつぶやいた。
「それはまた平和が戻ったらその時に考えればいい事です…今はこの街に誰も入らないように情報を流すだけでもう新たな被害は起こらないでしょう」
アサウェルはオレの言葉にこう答えた。確かに今はそれがベストかも知れないな。
「じゃあ、先を急ぎましょうか」
オレ達はゾンビの街を抜けて小人の洞窟を目指していく。まだまだその場所へは長い道のりが待ち構えている。
けれど、一歩ずつでも歩いていけばそれだけ近付いていると言う事実がオレ達に歩く元気を与えてくれるような気がしていた。
「あれ?何か忘れているような?」
「そう言うのは考えたら負けよ」
「レイ、君はいい事を言いますね」
この時、オレ達はすっかり忘れていたんだ。この脱出劇で一番役に立った彼の事を。
でも、ま、別にいいか。
その後…悪夢帝親衛隊特殊工作員デメロの姿を見たものは…誰もいない。
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