第23話 ゾンビの街 中編
土地勘がなければ簡単に街を抜け出せないかも知れない。
それが今とてもオレの心を不安にさせていた。
「すみません…この街は少なくとも3ヶ月前までは存在していなかったんです」
「えっ?」
アサウェルが謝るなんて珍しいな…。
でもそれ以上に異常な事がこの言葉から想像出来た。この悪趣味なゾンビの街は最近突然現れた?
「かつてゾンビを街ごと封じた伝説だけが残っていました…つまりこの現象は悪夢帝かその関係者の誰かがこの街を復元させたとしか…」
真剣な顔でそう話すアサウェル。やっぱりオレの想像は正しかった!
でも、と言う事はその伝説の事を詳しく知ればこの事態の解決方法が分かるのかも!
俺は
「その伝説って一体どんな?」
ああ…どうかこれが突破口になりますように!
しかしその質問に返って来たアサウェルの答えはオレの希望を軽く打ち砕くものだった。
「それが…封じたと言う事くらいしか伝わっていないんです…」
「そんな…それじゃあ何の役にも立たないよ…」
オレはこのアサウェルの答えを前に落胆した。今まで何でもアサウェルに聞けば解決して来たと言うのに今回はその作戦が通じないなんて。
仕方ない、こうなったらオレ達3人で何とか工夫してこの街から抜け出すしかない!
…とは言うもののレイは大混乱中で今はまともに話す事すら出来そうになかった…(汗)。
どーん!
どごーん!
ちゅどーん!
暴走するレイを追いかけるオレとアサウェル。そのレイはと言えばありったけのエネルギー弾をぶちかましながら目の前の道をただ無軌道に走り続けている。
その余りにでたらめな光景にゾンビたちも迂闊に近付けない状態だった。
これでレイが正しい道を走り抜けていれば問題はないんだけど…(汗)。
そんな状態の中、オレはレイを追いかけながらある疑問を抱いていた。
オレ達が進んでいるこのルートがどうにも誘導されているように感じたのだ。
「もしかしてこれって…」
「ええ、罠の可能性がありますね…気をつけて行きましょう」
事態は静かに進行していた。そして崩れた建物の上からその様子を眺める影がひとつ。
そう、やはりこの状況は予め計算の上に作り出されたものだった。
「ふ…そうだ…そのままそいつらを追い詰めていけ…計画通りに!」
いつの間にかオレ達は街の中央部に広がる何もない広場へと誘導されていた。
その場所に辿り着いた瞬間、まるで待ち構えていたみたいに前後左右からゾンビが集まって来る。ここにはもうどこにも逃げ場なんてなかった。
「いーーーーーやーーーーーっ!」
この状況に発狂したレイがエネルギー弾を上空に打ち出した。するとそのエネルギー波は上空のある一点より同心円上に拡散され、オレ達の周りのゾンビ共に直撃する。
ズドドドドドドドドド!
それは恐ろしいほどの破壊力だった。レイの攻撃を受けたゾンビは一瞬で蒸発していく。ただ、いくら破壊力が強くてもゾンビは時間を置いてすぐに何事もなく復活する。何か弱点を突かない限りこのゾンビ共は無敵だった。
「はは…参ったね…どうも」
そんな混沌とした中、オレはすっかりお手上げ状態だった。
まさかオレ達のこの旅がここで終わるなんて事は…ないよね?
ここで頼りになるとしたらやっぱりそれはアサウェルしかいない。オレはアサウェルの方を向いて何か手はないか目で合図した。それはつまり…ものすごく困った目でアサウェルを見たって事。ああ、こんな事しか出来ないだなんて本当に自分が不甲斐ないよ…トホホ。
「そうですね…。手はない訳ではないですが、まずは逃げ道を確保しませんと…」
流石アサウェル!どうやらこの状況を打開出来る何かいいアイディアをお持ちらしい。だったらすぐにその実行を!こんな所でグダグダしている余裕なんてないよ!
「あまり得意じゃないですが…空気中の水分を凍らせて壁を作ります…そうしてゾンビを足止めした後にこの街を出るんです」
「そんな手が!やって!今すぐやって!」
オレはアサウェルの提示したその方法に興奮して思わず彼を急かしていた。
この街を脱出出来るならもうなんでもいい、とにかくいち早くこのピンチを脱したかった。それほどまでに身の危険を感じていたんだ。
「だからまずは脱出ルートを確保しないといけません!今のままでは…」
「分かった!レイに協力してもらおう!道を確保すればいいんだね!」
しかしレイはまだまともじゃなかった。この状況の中で今でもやたらめったらでたらめにエネルギー弾を発射している。このままじゃあいずれレイの気力も尽きて自滅してしまいかねない。事態は一刻を争っていた。
「レイ!落ち着いて!作戦があるんだ!」
「いーーやーーー!」
「落ち着けって!」
オレはレイを落ち着かせようとレイの肩にポンと軽く手を乗せる。
しかし恐怖に怯えたレイにその行為は逆効果だった。
「ギャアアーーー!」
ちゅどーん!
ぐしゃ。
オレは混乱したレイに見事にふっとばされた。うう…何てついてないんだ…。
「ふははは!いいザマだな!」
その三文芝居のようなやりとりを眺めていた男がついにオレ達の前に現れた。
わざわざこんな場所に好き好んで現れる人間なんているはずがない。と言う事は…そうか!こいつがこの状況を作り出した元凶か!
「いやいや…いいものを見せてもらったよ…私は悪夢帝親衛隊特殊工作員デメロ!」
デメロと名乗る男がドヤ顔で得意気に自己紹介をしている。だけどオレにはその男がそんなに強そうにはどうしても見えなかった。オレから見れば奴はまるで与えられた新しい玩具を自慢してる子供のようにすら見えていた。
「お前がこの街の封印を…」
「そうともよ!さあそのままゾンビ共に無様に蹂躙されるがいい!」
なるほど…やはり全ては敵の作戦だったんだ。
それなのにまんまと引っかかるなんて…今回は少し慎重さが足りなかったな…。
けどここで敵が出て来たって事はあのフラグが立ったのかも?
オレはある種の確信を持ってデメロに問いかける。
「お前を倒せばこのゾンビ共は大人しくなるんじゃないか?」
「そんな訳ないだろう!一度復活したゾンビは誰にも止められん!」
あれ?そんなうまく話は進まないのか…それは残念。
目論見が外れて落胆するオレを尻目に今度はアサウェルがデメロにかまをかける。
「だが…封印は出来る…そうですよね?」
「ほう…何が言いたい?」
「あなたから情報を聞き出し、このゾンビ共を封印します!」
「馬鹿か!そんな方法なぞ俺は知らん!」
相手も流石にそんなすぐにボロは出さない。この睨み合いはしばらく続いた。
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