第22話 ゾンビの街 前編

「うわーっ!」


「ひぃぃーっ!」


オレ達の前に立ちふさがるのは無数のゾンビの群れ。

レイなんて特にこう言うのが苦手なのかもう我を忘れていた。彼女の得意な遠隔攻撃でエネルギー弾を撃ちまくり…。

しかし相手はゾンビ…何度被弾してもすぐに復活して襲ってくる。結局彼女の攻撃は不死身のゾンビに対してはただの足止めにしかならなかった。


勿論直接攻撃の効果だってレイの攻撃と一緒な訳で…オレの攻撃だってゾンビ相手に大した役には立ってはいなかった…。

そんな訳でこのゾンビに対してオレ達は常に逃げの一手。


そしてこの異常な状態にもアサウェルだけはなぜだか平常心を保っていた。

しかしどうしてこうなった…。



それは朽ち果てた街の残骸の中を歩いている時だった。

アサウェルの故郷を抜けてオレ達は一路小人の洞窟を目指して歩いていた。その道中でこのエリアへと足を踏み入れていた。


とっくに人の住んでいないこの街はゴーストタウンという言葉がよく似合っていた。この廃墟の街に何か用事がある訳ではなく、洞窟に行くルートはここを通り過ぎるのが最短ルートだったのでここに入っただけだった。


随分昔に捨てられた街の為、流石にここに敵の気配はない。それは余計な戦闘を避けようとしているオレ達にとって幸運とも言えた。

そんな不気味とも思える程の静か過ぎる雰囲気の街を歩いているとレイがその廃墟の中から奇妙なオブジェを発見する。


「ほぇ?これは…」


「むやみに触ってはいけません!」


アサウェルが気付いて彼女を止めたのが一瞬遅かった。レイは好奇心に負けてそのオブジェに触れてしまっていた。

すると、オブジェは急に光り出したかと思うと音もなく崩れてしまう。オブジェが消滅した途端、辺り全体に軽い地震のような地鳴りが鳴り響いた。


「えっと、これって…」


この突然の出来事に急に焦リ始めるレイ。オレは音のした辺りを目視で確認する。

突然湧き出した不穏な気配にオレは一言こぼした。


「まさかあのオブジェ、何かを封印していた?」


「そうですね…蘇りますよ…ゾンビが」


アサウェルは知っていたんだ。ここがそう言う場所だったって事に。

何だよ…知っていたなら最初に教えてくれても良かったのに。


「ゾンビ?嘘でしょ?」


その言葉を聞いてレイはアサウェルに聞き返す。その時の彼女の顔はまさに顔面蒼白と言う表現がぴったりだった。

レイってもしかしてこう言うのに弱い…とか?


「残念ながら本当です…あなたは触れてはいけないものに触れてしまいました…」


「じゃあそのゾンビを倒す方法は?」


顔面蒼白のまま、レイは縋るようにアサウェルに質問する。そっか、彼女はゾンビがそれだけ苦手なんだな。

レイの思わぬ弱点を知ったオレはこの情報がいつか何か使えないかな、なんてのんきに考えていた。


「私もそこまでは知らないんです…ただ、この街を抜け出せば追ってこないかも知れません」


「そ、そっか…よし、早く逃げよう!」


レイはアサウェルの話を聞いた途端に一目散に走り出した。…オレ達をほっぽり出して後ろも振り向かずに。その行動はお化け屋敷で一人急に恐怖で逃げ出すホラー苦手少女のそれと全く一緒だった。


「ちょ、おまっ!勝手にっ!」


オレは急に走り出したレイを追いかける。彼女は恐怖で行き先も分からずにデタラメに走り出していた。ここで見失えばレイと二度と合流出来ない可能性すらあった。

そしてオレが前を行く彼女を発見して追いつこうとしたその瞬間…。


「きゃーっ!」


レイの叫び声が廃墟の街に響き渡った。人のいない静かな廃墟の街は少しの音も大袈裟に反響させる。オレはその叫び声に緊急のものを感じて急いで声の元に駆けつけた。


「うおっ!」


オレが彼女の元に駆け寄ると彼女が土から現れた何者かの腕に足を掴まれていた。

その何者かって…これ間違いなくゾンビだよね…。夢の世界は何でもありの想像の世界…ゾンビがいても何も不思議じゃないな。


「何やってるの!早く何とかしてよ!」


急に異形の者に足を掴まれて気が動転してるレイ。その彼女の態度に何も感じない訳ではなかったけど緊急事態だし仕方がないなとオレがそいつに近付こうとしたところ…。


ぬぅーっ!


さっきまで腕だけの存在だったそいつが土から姿を表した。それはホラー映画やゲームでお馴染みのゾンビの姿そのものだった。そう、腐った死体だ。


「キャーキャーキャーッ!」


ドゴォン!


混乱したレイのエネルギー弾のヒットでゾンビはふっとばされる。

けれど彼女の足を掴んでいた手はしっかりと彼女の足を握ったまま…。そう、ゾンビはレイの足を握っていた腕を残してふっとばされていた。


「こ、これ取ってー!」


レイが五月蝿いのでオレはその腕をひょいと軽くむしり取って遠くに放り投げた。

怖がるレイの顔を見たオレはちょっと彼女を可愛いと思ってしまった。

おうふ…いかんいかん。


ぬぅーっ!

ぬぅーっ!

ぬぅーっ!


このやり取りをしている間にもゾンビがどんどん蘇って来ていた。

そしていつの間にか辺りはすっかりゾンビ天国になっていた。


「うわーっ!」


カッ! 


ドゴォォォォン!


レイが力を込めて前方のゾンビ軍団を強力なエネルギーの放射でなぎ払う。その光景はまるで映画の風の谷のナウシカの巨神兵の攻撃のようで一瞬で辺りは火の海に包まれた。

しかしゾンビは巨神兵の攻撃を物ともせずに突っ切る王蟲のようにレイの攻撃を物ともせずにオレ達の前に迫ってくる。

決定的な殲滅手段を持たないオレ達の攻撃なんて結局ゾンビにとっては焼け石に水だった。


「とりあえずここは押し通そう!攻撃は必要最低限にして早くこの街から出るんだ!」


そう言ってオレは後ろを振り返る。この騒動の中でアサウェルがちゃんと追い付いて来ているか確認するために。

振り向いた時にオレの視界にアサウェルが映ったので一応彼に確認を取る。


「アサウェルもそれでいい?」


「それしかないでしょうね」


アサウェルにも確認が取れたのでオレ達は全力で走り出した。

しかしこの街の土地勘がないのは3人共一緒だった。

この世界の生き字引だと頼りにしていたアサウェルでさえこの街の事はハッキリとは知らなかった。


「何でアサウェルこの街の事知らないんだよー!」


この状況に対しオレは走りながら嘆いていた。こうしている間にもゾンビはどんどん蘇ってくる。オレ達は無事にこの街を抜け出せるだろうか?

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