第21話 破壊された街 後編

「あ…サンキュ」


「ま、まぁな…」


う、レイの感謝にうまく返せなかった…。

こう言うの、あんま慣れてないんだよなあ(照れ)。


この雑魚共、ひとりひとりは大した強さじゃないんだけどどうにも数が多い。デタラメに多い。一体ここに何千人引き連れて来ているんだと。

雑魚の対処に忙殺されてアサウェルの助けが出来な…アサウェルがいない?!


「しまった!アサウェルとアルラの二人が!」


「きっともっと戦闘のしやすい場所に移動したのよ!」


そう言えば雑魚との戦闘に夢中になって気付かなかったけどいつの間にか部屋の壁の一部がド派手に崩れていた。多分ここから移動したんだな…。

移動のからくりが分かった所でまだまだうようよと雑魚が溢れてくる…根比べだなこりゃ。どうにか体力が尽きる前に全員を倒し尽くさないと。


「ちょっとだけ時間稼ぎお願い」


戦闘中、突然レイがオレに頼み事をしてきた。


「うん?何をする気?」


「でっかいのをぶっ放す!」


うわ…レイの目が本気だ…。確かに今の状況でひとりひとり真面目に敵の相手するのは効率が悪過ぎる。オレの返事を待つまでもなくレイは力を溜め始めた。

…しゃーない、ここは一肌脱ぎますか!


「あんまり時間かけないでくれよ!」


「せめてラーメンが出来るくらいは耐えてよね!」


レイが攻撃を止めたのが雑魚共にも気付かれた。一斉に攻撃がレイに向かってくる。

てめーら!指一本も彼女には触れさせねぇよ!


竜皇連鬼脚りゅうおうれんききゃく!」


この技はオレを中心に半径2mを完全防御し、そして敵と敵の攻撃を全て弾き返す!

レイの準備が整うまでこの技をずっと繰り返し繰り出すぜ!


「倒されたい奴はかかってきなっ!」


く~、カッコいぜオレっ!

これが現実世界でも使えたらなぁ…(遠い目)。



ドガァァァッ!


巨大なエネルギーの爆発で建物の一部が崩れ去る…。それはレイの攻撃によるものだった。


「ほう、いい下僕を手に入れたな…」


「下僕じゃありません、仲間です」


「まぁどっちでもいいさ…」


この時、アサウェルとアルラは元研究所の屋上に場所を移していた。

お互いの実力は拮抗し、二人共決定打を見出だせないまま戦いは消耗戦に入っていた。


「良かったのですか?四天王なのに一人で乗り込んで来て…」


「お前相手に四人がかりで戦うまでもない…それにお前を倒すのはオレだ」


「結構な自信ですね…」


ジリジリと間合いを詰める二人…。

お互いの手の内を知り尽くした戦闘はいつしか気力との勝負へと変わっていった。


ズズズズ…。


さっきの破壊によってバランスが崩れ建物のあちこちに亀裂が入っていく。

このまま行けば構造に負荷が耐え切れなくなり完全に崩れるのも時間の問題だった。


ピシッ!


屋上に亀裂が走る!最早崩壊は時間の問題だった。


「むっ!」


この不穏な気配にアルラの動きが一瞬止まった。

そしてそれは千載一遇のチャンスだった。


「今だっ!」


崩れる研究所から脱出したレイがその瞬間を見逃さなかった。

オレ達はあの後すぐに脱出して二人の戦闘が見える場所まで移動していたのだ。

元研究所の近くの崩れかかった建物の屋上でオレ達は戦う二人を発見した。

遠距離攻撃出来ないオレが戦う二人を見つける係だった。目はいいからね。

二人を見つけた時、レイは既に迎撃体制を完了させていた。なんて行動が早いんだ。

そしてレイはアルラに向けて手を伸ばし…そのチャンスが来るのをずっと待っていた。


ビシュム!


レイの手の平から強力なエネルギー弾が放たれる!その弾は動きを止めたアルラを容赦なく正確に撃ち抜こうとしていた。


「くっ!」


レイの攻撃の気配に気付いたアルラはエネルギー弾が迫ってくるその方向に手を向けて攻撃を受け止める!アルラに迫っていたエネルギー弾は爆発四散し彼女の攻撃は残念ながら彼にダメージを与える事はなかった。

流石四天王!ここまであっさりレイの攻撃が防がれるなんて。


「この程度の技が効くとでも?」


レイの攻撃を受け止めたアルラは不敵に笑う。

けれど、実はそれだけで十分だった。

その技を止めた事でアルラには余裕が生まれていた。その隙だらけのアルラにアサウェルの必殺の技が炸裂する!


「なっ!馬鹿な!」


レイの攻撃を止めた事で発生した一瞬の爆炎が目眩ましになってアルラはアサウェルの攻撃に対応が遅れる。ここで生まれた隙はほんの一瞬、けれどその一瞬の隙さえあればそれだけで十分だった。


「チェックメイトです!」


ズオオオォォォッ!


巨大な質量を持つエネルギーの塊がアサウェルから放たれ、アルラはそれを受け流す事が出来ず至近距離でその直撃を受けざるを得ない格好になった。

その勝負の結果はアサウェルの完勝だった。


この攻撃で発生した爆炎が治まった時、その場には倒れたアルラとアサウェルがいた。勝負の決着を見届けたオレ達はすぐにアサウェルの元に駆け寄った。


「こ、殺さないのか…」


「殺す必要はありません…知ってる事を話してください」


「ふん、タダシの事を知りたければ小人の洞窟へ行くんだな…」


「そこにタダシが…」


「うぐっ!」


アサウェルがその情報を詳しく聞き出しうとしたその瞬間、アルラの姿が消滅していく…。彼が消滅してしまったため、もはやこれ以上の事は何も分からなかった。

オレはこの突然の現象についてアサウェルに尋ねる。


「これって…」


「他の四天王が負けたアルラを許さなかったのでしょう…」


そう言ったアサウェルはすごく寂しそうな顔をしていた。

それは情報をもっと聞き出せなかったからなのか…それ以外の感情からだったのか…。部外者のオレには判断が出来なかった。


「何てひどい…」


アルラの消滅と言う処分に流石のレイも言葉を失っていた。

って、そんな事口に出したら彼女に殴られそうだ…(汗)。


結局、オレ達は勝つには勝ったけれど何とも後味の悪い勝利となってしまった。

僅かな父親に繋がる手がかりも真偽の分からないたった一言の情報を手に入れただけ…。

けれど今まで何の情報も得られなかった事に比べればそれは大き過ぎるほどの前進だった。


「それじゃあ、行き先も決まった事だし…そこに向かいましょう」


「小人の洞窟ってここから遠いの?」


レイの質問にアサウェルは少し考えて…そして答える。

その顔はもう普段通りのいつものアサウェルの顔に戻っていた。


「少し遠いでしょうか…ですが、大した距離じゃありません」


「それまでにもっともっと鍛えないと…」


オレがそう答えると二人が生温かい顔をしてオレを見つめた。

な、何だよその反応は…(汗)。

マジで言ったんだからな…場を和ませるためのギャグじゃないから!

とは言いつつ、結果的に雰囲気が良くなったのでそれはそれでいいかとオレも何も言わなかった。



四天王の一人を倒した事でオレ達への追撃は更に激しいものになるのだろう。

けれど今更そんな事でひるんではいられない!

オレ達は強い決意を胸に秘めてその先の道へと歩んでいく。

そして目指すは小人の洞窟!今度こそ父の手がかりが何か一つでも見つかる事を願って…。

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