第19話 破壊された街 前編

「ここは…?」


港街を出てオレ達が向かった先は廃墟となった街並みだった。

3人共その景色を呆然と眺めていた…そしてその景色に一番ショックを受けていたのはアサウェルのようだった。今までこの世界のどんな出来事に遭遇しても平然と構えていたアサウェルが何故?

しばらく誰も言葉が出なかった中でついにアサウェルが重い口を開いた…。


「ここは…私の生まれ故郷です…」


「えっ…」


アサウェルがショックを受けていた理由が判明した。一体この街に何があったのか…住人がもう一人もいない状態では分かりようがない。

もしこれが敵の攻撃によるものだとしたら…この先の試練がどれほどのものになるかは想像に難くなかった。


「ひどいね…」


「ありがとうございます」


気を使ってレイがアサウェルを慰める。

現実を受け入れたアサウェルはもう普段通りの顔に戻っていた。

しかしいつこの街は破壊されたんだろう?元の住人達は無事だろうか?

頭の中を疑問符だけがグルグルと巡っていく。


「私が最後にこの街に訪れたのはタダシともう一度一緒に悪夢帝を倒しに向かった時…たった3ヶ月前です」


「じゃあ、それまでは…」


「ええ…ここはそれはもう立派な街でした…」


何があったかは分からないけどこの街にはその間に、たった三ヶ月の間にとんでもない事があったんだ…それだけはハッキリしている。

それはまるでオレ達の旅の未来の姿のような気がして正直震えが止まらなかった。


「ちょっと街を調べてみましょうか?街がこうなった原因が分かるかも?」


「あ、そうだ、スマホあるならまずネットで調べてみれば?」


「詳細は分かっています…当時それなりに話題になりましたから…ただ、実際に目にするまで信じたくはなかったですが…」


アサウェルはそう言ってスマホを取り出し当時のニュースを見せてくれた。そこにはこの街がどうしてこうなったか詳細に報じられていた。

敵の力の誇示と今後の勢力拡大のダシに使われたというのが真相のようだ。


ちなみに住人はほとんどがこの大陸を捨て船で脱出したらしい。

何人かは…犠牲になったと記事には書いてある…。


「あれ?ここには敵の支部がある言って記事に…」


「支部って言ったって見渡す限りの廃墟じゃないか…」


「ああ…その後支部は移転したらしいです…移転後、この街は徹底的に破壊されました」


「それじゃあこの街にいても仕方ないのかな…」


オレがそう言うとアサウェルは一人街の中心部に向けて歩き始めた。

どうしたんだろう?破壊されても故郷だから愛着があるのだろうか?思い出の場所を確認するため…とか?オレ達は戸惑いながらアサウェルの後をついていくしかなかった。


見渡すかぎり破壊しつくされた街並みを見ながらオレは紛争地帯の景色を思い出していた。ここではもう破壊行為は終了していて瓦礫が続いているばかりだけれど…。

そう言う意味では巨大地震に襲われた街並みの方がイメージとしては近いのかも知れない。


生き物がひとつもない景色はそれが夢の世界だとしてもやっぱり不気味だった。たまに悪夢でそう言う夢を見る事があるけど…悪夢の支配した街を具現化したらこうなるのかな。


「何か近代兵器みたいなもので破壊されたのかな?」


オレはこの惨状を見てつい口走ってしまった。


「この世界、飛行機もミサイルも飛んでないのに?」


このオレの言葉にレイが反応する。


「これからそう言うのが飛んでくるかもしれないじゃないか」


「だとしたらあなたお手上げね…だってあなた接近戦しか出来ないし」


う…このレイの返しにオレはぐうの音も出なかった。ここは夢の世界だけれどネットもスマホもある世界だ…この間は銃も出てきた…近代兵器だって出てきておかしくない。

けれどそんなのが出てきたら格闘戦なんてどれだけの意味があるだろうか…まだ銃の腕を磨いた方が役に立つくらいだ。


「安心してください、この破壊はそんな武器によるものじゃありません」


オレとレイの会話にアサウェルが割って入って来た。彼の話によるとどうやらこの破壊は近代兵器のよるものではないらしい。だとしたらこの破壊は一体何が原因で?


「それは数人の精鋭の力です」


「たった数人がこのレベルの破壊を?」


「ええ…四天王です」


「やっぱりそんな存在がいるんだ…」


アサウェルは過去にオレの父さんと一緒にその四天王と対峙し、見事彼らを退けたらしい。街を破壊し尽くすその四天王もすごいけどそれより強い父さんとアサウェルって一体…(汗)。


「つまりその時の腹いせって部分もあったのでしょう」


「近代兵器レベルの破壊力を持つ四天王なんて太刀打ち出来そうにないよ…」


「大丈夫、君は父親の力を受け継いでいます」


アサウェルはそう言ってにっこり笑ってオレの方を見た。逆にオレはこれまで以上の修行メニューの強化を想像して顔が青くなっていった。


「良かったね!期待されてるじゃん」


その様子を見てレイが嬉しそうに茶々を入れる。こいつ…人事だと思って…。


「それでアサウェルはどこに向かっているの?思い出の小学校とか?」


「きっとここにはまだヤツラが潜んでいます…それを確認しているんです」


「えっ?」


アサウェルの言葉を聞いてオレは急に不安になって周りを見渡した。

しかし周りを注意深く見渡してもそこには破壊された瓦礫の街並みしか確認出来なかった。人気ひとけがない事を確認してオレはほっと胸をなでおろした。


「あらぁ?敵がいないのを確認して安心した?」


「そ、そんな事は…っ?」


その様子を見てレイがまた同じように茶々を入れる。いちいちオレの行動を突っ込まないでくれよ…。…図星だけどさ。


ここでアサウェルは放棄された敵北部支部に向かっていた。そこにもしかしたら父の手がかりがあるかも知れない。オレ達もその行動に異存はなかった。


「でも、思い出の場所とか見ておかなくていいの?」


「それはこの世界に平和が戻ってからで構いません」


「そっか」


そんなアサウェルとオレの会話を聞いていたレイがふと恐ろしい事を口走った。

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