第17話 ネットの国 後編

「誰かと思ったらホルルとは…北部支部長とは出世しましたね」


「アサウェル…俺はもう昔の俺じゃねぇ…」


どうやらアサウェルとこの支部長も何か因縁があるらしい。確かアサウェルは昔オレの両親と一緒にこの世界を救ったんだった。きっとその時の敵の残党がコイツなんだろう。

そうじゃなきゃこんな濃い会話が成立するはずがない…。


「試してみますか?」


アサウェルがホルルを挑発する…つまりこれは…合図だ!


ブチブチィ!


オレ達は同時に縛られていた拘束を力任せにぶっちぎる!その瞬間、オレ達を縛っていた安っぽい紐は簡単に弾け飛んだ。

そうしてすぐに次の行動の指示がアサウェルから飛ぶ。


「雑魚は任せました!」


「お任せあれ!」


さあ、反撃の開始だぜ!


「とうっ!たあっ!おりゃ!」


ドガ!バギ!ドゴォ!


オレは周りを固める雑魚共を千切っては投げ千切っては投げ…調子に乗って結構ハッスルしていた。


(ボスクラスには苦戦しても…雑魚なんかに負けはしないぜ…)


「うりゃあっ!」


オレの狼牙烈空拳ろうがれっくうけんが空気を切り裂く!

その拳を前に倒れないメアシアンはいなかった。


ガシッ!


「あれ?」


オレの自慢の拳を受け止めた…だと?そんな強者がこの組織の中にいるのか…。

そう思ってその拳を受け止めた相手をよく見ると…。


「中々やるじゃねーか」


そう、ソイツはこの事務所のボスだった。あ、コイツの存在をすっかり忘れていたわ…。うん、そりゃあ雑魚共に比べたら多少は強いだろうね…(汗)。

だけどオレだってね…技なら他にもあるから!ひとつ防いだくらいで偉そうにしないでくれる?


「鍛えてるからね!」


オレはそう言ってすぐに腕を掴んでいる事務所ボスの手を振り払い、しっかり間合いを取り直した。

でも実際コイツ相手にはどんな攻撃が有効なんだろう?今度は虎爪の型を試すか…?


「お前みたいなのには飛び道具が有効なんだろう?」


カチャ…


事務所ボスはそう言ってニヤリと笑い、懐から拳銃ぽいものを取り出した。

ええ…?ちょっとそれ卑怯じゃありません?

この前の戦いでも飛び道具には手も足も出なかったオレ…。いきなりのピンチなんですけど…助けてアサえもーん!


とうっ!はっ!くっ!

ビシッ!バキッ!ドゴォ!


その頃、アサウェルはホルルと激闘を繰り広げていた。あかん…これ助けは期待出来そうにないわ…(汗)。


バン!


うひぃぃぃ!


マジで撃って来たよ!これ当たったらどうなるんだろう?

夢の世界で死んだらどうなるんだろう?ああああああああ…。

やだもう…逃げ出したい…。って言うか…何とかして逃げる!


「動くなよ?どこに当たるか分からんぞ…?」


何かこの人怖い事言うし!とりあえず狙いが定まらないように高速移動だ!

予測の付かない動きで翻弄してやるっ!


シュッ!

シュッ!シュシュッ!


バンッ!

バンッ!


オレは何とか事務所ボスの銃撃を避けていた。感覚に任せて何も考えずにただ素早く移動する。きっともっとスマートな避け方もあるんだろうけどそんなのこの極限状態の中で全く閃く余裕がなかった。そしてこの方法はむっちゃ体力を消耗する。

事務所ボスももうオレが疲れて動きが鈍くなるのを待っている状態だ。ヤバイ…持久戦になったら確実に撃たれてしまう…でもどうしたらいいんだよおおおう!(涙)


ガクッ!


(ああっ!)


余りに不規則な動きで高速移動していたからかついに足が絡まってしまったっ!ふっ、不覚ッ!


「終わりだ…馬鹿め!」


事務所ボスの構えた銃の銃口がオレを見定めて引き金が引かれる…。敵にとっての絶好のチャンス、そりゃあ誰だってこの瞬間を見逃す訳はないよね…(汗)。

ああ…死を覚悟した瞬間ってどうしてこんなに時間をゆっくりと感じてしまうんだろう…。この感覚のまま身体も素早く動いたらいいのに…。


カチリ…


うああああああ…っ


バァン!


オレはその瞬間身を縮めて防御の姿勢を取っていた。そう、誰だって危険を感じたらするあのポーズだ。こんな事をしても大して意味は無いと分かってはいたけど…気が付くとそうしていたんだ。


ああ…さようなら夢の世界

ああ…さようならもしかしたらオレの人生そのもの


しかし…オレが死を覚悟したその瞬間、その銃弾がオレを貫く事はなかった。

銃弾は明後日の方向に発射され、壁に小さな穴を開けていた。


「うがあああああ!」


ドサッ!


オレは一瞬何が起こったか分からなかった。一つだけ分かったのはオレがまだ無傷だと言う事。

い、一体何が起こったって言うんだ?


叫んでいたのはオレじゃなくて事務所ボスの方だ。断末魔の叫びを上げた事務所ボスはその場に倒れ込んでいた。

致命傷かどうかは分からなかったけどしばらく戦闘不能になったのは間違いなかった。それは…つまり誰かが事務所ボスに攻撃したって事になる。

けれどアサウェルはホルルってヤツと未だに激戦中でそんな余裕はない。この場所にいない誰かがオレを助けてくれた?まさか、敵の中に裏切り者が?


オレは周りを見渡した…雑魚メアシアンは全員オレが倒している。そしてそいつらはずっと倒れたままだった。と言う事は…まさか…窓の外から?

オレはオレと事務所ボスを結んだ線上を延長する方角を確認する。


(誰かいる!)


オレは目視出来るギリギリの距離の場所に誰かがいるのを確認した。

アレは敵なのか…味方なのか?

巨大な悪の組織が一枚岩じゃないのはよくある設定ではあるけど…オレは出来ればソイツが味方であって欲しいと願っていた。


かなり遠くにいるソイツはオレに気付いたのかすぐに姿を消してしまった。

もしかしたら自分の攻撃の手応えを感じてこっちに接近して来ているのかも知れない。


「くっ!テリー!」


激闘を繰り広げていたホルルは事務所ボスが倒されているのを見て気が動転してみたいだった。ほう、あの事務所ボスの名前はテリーって言うのか…倒れた後となってはもうどうでもいいや。


「今日はここまでにしといてやる!今度出会った時がお前の最後だ!」


自分以外仲間全滅と言うこの惨状を見てお約束の悪の定番セリフを叫んでホルルはさっさと逃げていった。

アサウェルも逃げていくホルルを深追いはしなかった。きっとまたいつか会う事になると予感していたからなんだろう…。


「ふぅ…何とかなりましたね…」


「アサウェルもアレで良かったの?」


「えぇ…いいんです…ところで」


アサウェルは窓の側まで行って外を見渡していた。やっぱりオレと同じようにあの謎の助っ人が気になったんだろう。

でもアイツ、本当に一体何者だったんだ…?


「何か見える?」


「ええ…この事務所の入口で私達を待ち構えているみたいですよ…」


「え…」


「とりあえず、降りましょう」


オレ達は覚悟を決めて事務所の階段を降りていった。

さて、どんな奴が待ち構えているか…オレは期待と不安が入り混じり鼓動が早くなっていた。

いざとなればアサウェルが対処してくれるだろうしそこまで不安にならなくてもいいはずなんだけど…。


「あなた…無様ね…」


待ち構えていたのはオレと同じくらいの見た目の少女だった。

えっ?本当にこの娘がさっきの攻撃を?オレはこの状況がまるで信じられなかった。

この突然現れた助っ人の正体にオレの理解が追いつかずに呆然としている中、アサウェルが彼女に話しかける。


「初めましてお嬢さん。君がヒロトを?」


「そうよ。だって見てられなかったんですもの」


「君は?」


「私はレイ。あの人を助けるのは私よ!」


彼女、どうやら敵ではないみたいだけど…まるでオレに敵意を持っているみたいだ…。レイと名乗る少女は何故かオレを親の敵を見るみたいな目でじっと見ている。

彼女、どうやら父さんの関係者みたいだけど…何かオレうまくやっていけそうにない(汗)。


「あなた、頼りないから一緒に行ってあげるわ」


そう言う訳でこの旅のメンバーについに新しい仲間が加わった。

でもこれ、あんまり素直には喜べないかも。大体、オレに対する態度があからさまだし…そもそも彼女自身がまだまだ謎だらけだし。


「タダシの関係者なら私達の仲間です。一緒に行きましょう」


アサウェルはアサウェルで簡単に彼女の言葉を信用するし…。

トホホ…どうかこの先も何か大きなトラブルとか起こりませんように…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る