第16話 ネットの国 中編

ああ…もうすぐ日が暮れる…。

ずっと建物を張っていたものの…怪しい動きは今のところなさそうだった…オレが何も見逃していなければ…(汗)。


しかし酒場の情報収集でもきっと同じ場所に辿り着くはずなのにアサウェルの姿がまだ見えない。もしかしたらこの情報はガセだったのかも?

何にせよ夢世界の住人でないオレはずっとこの世界に留まる事は出来ない。

夜になって眠らないと…現実の世界で目覚められないからだ。


そんな訳で今日のところは何の成果も得られませんでした!と、言う成果を引っさげ落ち合う予定だったホテルへと戻った。


しばらくしてホテルには着いたもののアサウェルはまだここには来ていない御様子…。あの人形…本当に真面目に情報収集しているんだよな?

色々考えたい事もあったけど、とりあえずものすごい眠気が襲って来たのでオレは部屋に入ってすぐに眠りについた。



そうして現実世界のいつもの日常を経てまた夢の世界へ。

え?学校?本当に何のイベントもなくつまらなくも面白くもなかったよ。確か期末テストがもうすぐだって言うんで授業のペースがちょっと上がったかな?

本当、どうでもいい話。


さて、現実世界そっくりのネットの国の話の続き。

夢の世界で目覚めた後、また昨日の場所に向かうとそこにはよく見慣れた先客が。


「遅かったですね」


アサウェル先輩ちーっす。昨夜は遅かったのに今日はやたら早いご出勤ですね。

ま、そう言う事は思っても口には出さないけど。

オレは平静を装ってアサウェルに自分がここに来るまでの経過を質問する。


「何か動きは?」


「もうすぐ動くでしょう…幹部が近々ここに来ると言う情報を仕入れています」


おお、流石アサウェルさんだぜ。ネットと違い生きた情報を仕入れているじゃねぇか…。やっぱり情報は生の声を聞くのが一番だなとオレは思った。

ネットはどんなに最新のものでも時差があるよねぇ。


カチャ


「ちょっと事務所まで来てもらえるかな?」


オレ達が建物の出入口に注目しているといつの間にか組織の人間に周りを取り囲まれていた。皆さん立派な銃をお持ちで、その銃口が全てオレ達に向けられている。

あるぇ?警戒は十分していたと思ったのに…さすがに北部のメアシアンは下っ端でも質が違う。


「ちょうど良かった。今どうやって事務所に入るか考えていたところなんです…招待してくれるとは手間が省けました」


この状況でアサウェルは余裕の表情で周りを取り囲むメアシアンにそう答えた。

流石場数を踏んでいる人形は一味違うぜ…。


「ようし…丁重に御招待しろ…」


ドサッ!


オレ達は身動き取れないように縛られて事務所の3階の会議室のような部屋に通された。何て言うか、定番のパターンやね。


「今日は北部の支部長が来て下さる大事な日なんだよ…いい手土産が出来た」


「それは良かった…私も幹部に会って直接聞きたい事がありまして」


「貴様っ!俺達を舐めてると承知しないぞ!」


アサウェルとここの事務所のボスがやりあっている…。うわぁ…まるでヤクザやん…。悪の組織ってもっとエリートな感じの方々ばかりだと思ってたけど…この人達普通にヤクザやん。

オレはこのやりとりを見てテレビでやっていた安っぽいドラマを思い出していた。


で、その後の組織内の会話からどうやらその幹部は後2時間ほどで到着するらしい。オレ達、それまでは大人しく捕まっているつもりなのかな?

幸いまだ手足を縛られているだけで特に拷問もされていない…このまま体力温存と言う手もあるし。


時間がゆっくりと流れていく。


オレ一人が捕まったのならオレの単独の考えで行動したんでいいけど今回はアサウェルと一緒に捕まっている。ここはやっぱり経験豊富な先輩の行動に合わせよう。

こんな怖い場所で下手こいたらそれこそどうなるか分からない。


いや、そりゃあ本気出せば大した事ないよ、うん。

ただアサウェルに何か考えがあるみたいだからそっちを優先しようってね。

本当、こんな雑魚共だったらオレが本気出せばちょろいちょろい。

参ったなー。本気出せばこんな奴ら朝飯前なんだけどなー。

オレがそんな事を考えているとアサウェルから指示が。


「まだ動かないでくださいね…」


「分かってるって…」


オレ達はただその時を待っていた。いつでも動ける準備はしてある。

捕まった時に無駄に抵抗しなかったのは強く拘束されない為でもあった。敵は油断していたのかこの拘束は本気を出せば簡単に弾け飛ばせる程度のゆるいものだった。


ガヤガヤガヤ…

ガヤガヤガヤ…


しばらく待っているとやがて周りがやたら騒がしくなって来た。

どうやらその支部長ってヤツがここに着いたらしい。


「来たみたいですね…」


「……」


ゴクリ…。


思わずオレはつばを飲み込んだ。このエリアに来てから初めての戦いだ…。

ただ、このパターンだとアサウェルが一人で倒して終わりそうな気が…。

それはそれで今後の参考にはなるけど…あ、周りの雑魚退治って仕事があったわ。

今回は実力差から行ってこのパターンかなぁ。


ドカドカドカドカ…


この部屋に向かって何とも景気のいい足音が近付いてくる。

もうすぐだ…もうすぐこのエリアのボス的存在がここに来る。


ガチャッ!


ドアが開いた!ここの事務所のボスとこのエリアのボスが入って来た!


「支部長、今日はいい土産があるんですよ!」


事務所のボスがいやらしい笑みを浮かべながらオレ達を紹介する。


「ほう?こいつらが…」


支部長と呼ばれた男がオレ達を見下ろしながらつぶやいた。

ヤクザな事務所のボスよりは多少紳士的なその男はしかし同じくらいゲスな笑みを浮かべていた。やはり下っ端がゲスいとその上司もゲスいものなんだな…。


さてと、そろそろ行動を移すべき時かな?

役者は揃った。後はアサウェルの合図待ちだった。

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