第15話 ネットの国 前編

ヒュゴォォォォ!


北部エリアに入った途端ものすごい風がオレ達の行く手を阻む。このエリアはずっと天候が不安定な場所らしいけど…これはかなりキツイ。

あまりに強風でオレ達の歩くスピードもかなり遅くなってしまっていた。

そんな風の吹く中でオレは何とかアサウェルと会話をしようと試みていた。


「アサウェルはこの場所にも来た事あるの?」


「勿論…す…この夢の…で…私が行った…の…場所はあり…せん…」


「おお…流石…」


ビュゴォォォォ!


それからオレは今後の事についてアサウェルに話しかけたんだけど風が強すぎて側にいるのに殆ど会話は成立しなかった。やれやれ…早くこの風を凌げる場所まで行かないと…。全然収まる気配のない風に翻弄されながらそれでもオレ達は確実に一歩ずつ前に進んでいた。


強風に邪魔されながらも何とか足を動かしているとようやく何か建物らしき物が視界に見えて来た。良かった…あそこまで辿り着けば少しは休めるはず…。


この行程でオレ達がどのくらい進んだのか分からなかったけど、ほんの少ししか進めていなかったにしてもその距離を進むために費やした体力はかなりのものだった。

つまり何が言いたいかと言うとオレは今の時点で既にお腹が空いていた…。早くご飯にありつきたい…。


ゴォゴォォォォ!


そんなオレをあざ笑うかのように風はますます強く吹くのだった。

絶対この風意志を持ってオレ達を邪魔しに来てるよね!


建物が目に見えてから何時間かかっただろう?オレ達は体力を限界まで使い切りながら漸くその建物の側まで辿り着いた。そこは北部で初めて辿り着いた国だった。

きっとここも何か特徴のある国なんだろうな。

前にアサウェルと戦った敵が北部はもっと強い敵が出て来るって言ってたらしいからしっかり気合を入れて臨まないと!ここからが本当の正念場だぜ!


敵の勢力が強いと言ってもこの国はまだその敵に征服されたとか言う訳でもなく、普通の入国手続で入国する事が出来た。良かった、やっとあの凶悪な風から開放される。


「ここは…」


この国に入って驚いたのがその近代的な街並みだった。

今までの国がどちらかと言うとファンタジーな感じだったのに対してすごく現実的。

住人はみんな歩きスマホしてるし…ってスマホ?この夢の世界にも携帯あったんだ…。

この光景を見て思わずオレはアサウェルに尋ねてみた。


「アサウェルはスマホ持ってる?」


今までの旅の道中でアサウェルが携帯を使ったのを見た事がない。

だから彼は携帯とか持ってないと、オレはずっとそう信じ込んでいた。


「当然です」


アサウェルはそう言うと懐からスマホを取り出した。ええっ?そんなん知らんかったやん…。今までそれ全然使ってなかったやん…どう言う事なの?

夢の世界…あなどれん…って言うか夢の世界だからこそ逆に何でもアリか…(汗)。

落ち着いた所でオレはアサウェルにこの国の感想をつぶやいた。


「初めての北部エリアだけど…見た目は今までそんなに変わらないね」


「ですが…警戒は怠ってはいけません」


「それは分かってるよ」


目の前に広がる現代過ぎる雰囲気はまるで夢から覚めて現実の世界に戻ったみたいで何だかすごく心を不安定にさせていた。


「何か、逆にリアル過ぎてその内知り合いに出会いそうで怖い」


「安心してください、それはありません」


「分かってるよ…」


知り合いに会う事はなくても敵に会う可能性は十分にある。ここはまだ敵の本拠地じゃない…けど、敵勢力地にかなり接近している。街を行く通行人に複数の敵が紛れ込んでいても不思議じゃない。気をつけないと…。

オレは街の様子をキョロキョロと見回しながらアサウェルに今後の事を聞いてみた。


「で?この国もやっぱり素通り?それとも…」


「久しぶりの北部エリアです…まずは情報収集でしょうね」


そう、アサウェルはお約束の酒場巡りだ。考えたら彼は今までも殆ど新しい国に入る度にそうしている。もしかしてただ単純にお酒が好きなんじゃないかこの人形。


「それじゃ、オレは自分なりの方法で情報を集めるわ…」


「そうですか…気をつけてくださいね」


東部エリアより危険なはずの北部エリアで単独行動なんていいんだろうか?

でも止められなかったって事はつまりアサウェルはオレの力を信用しているって事でいいのかな?何にせよ何が起こるか分からないし行動は慎重にしないと…。


取り敢えずオレはさっきちらっと目に入ったネットカフェらしき場所に入った。

ここが現実世界と同じような場所なら多分ここで色んな情報が手に入るだろう。

建物の外観もそうだったけど店内も現実のネットカフェと似た雰囲気だった。

大量の漫画とネットPC 、ドリンクバー。ねぇここ本当に夢の世界?


さてと…


現実世界と同じように料金を支払ってカードを作って適当な開いている席に座って夢の世界でPCを操作する…何だか変な感じだなぁ。適当にポチポチと検索してみるけど…悪夢帝とか言う言葉では核心的な情報は何も引き出せなかった。


(検閲でも入っているのかな?)


じゃあ今度はこの国の日常的なニュースを調べてみよう。

もしかしたらそこから何か浮かび上がるものがあるかも知れない。


(えーと、ニュース、事件っと…)


ッターン!


っべー!

またついいつもの癖でエンター強く押しちゃったー!

ついいつもの癖でー!

っべー!


(ふむ…ふむふむふむ…)


うーん、どこの国でも事件は起こるものだけど…この国って意外と大きな事件はないみたい…確か北部地方って敵の勢力が強いはずなんだけど…って…ん?


ポチ、ポチポチ…


オレは些細な事件のコメント欄からこの世界の2ちゃんっぽい匿名掲示板へと飛んだ。そこに書かれているものはほとんどが信用出来ないようなガセネタばかりだったけど…


(これは…?メアシアンの事務所らしき住所…?)


気になる情報を仕入れたのでオレはまずこの情報の真偽を確かめる事にした。

ただ、このまま一人で行っていいものかと若干戸惑ったけど…。

真相を知る為にここは行くしかない!と気合を入れてこのネットカフェを後にした。


「この世界のスマホってどうやって手に入れるんだろう?アサウェルに聞いておけば良かったなぁ…」


スマホさえあればどこからでも連絡出来るし便利だ。しかしこの世界のスマホって電波やら電池やらどんな仕組みになっているだろう?って言うか夢の世界だからそんな細かい事なんてどうでもいいか…。


などと色々考え事をしている間にオレはその怪しい事務所前に到着した。

あの情報が事実だとしてやっぱり組織的に大きくやっているんだなぁ。

でも周りに特に警戒されている様子もない…もしかして表向きは別の会社を装っている…とか…?


ここで張っていれば何か奴らのしっぽを掴めるかも知れない。

オレはしばらく張り込み中の刑事よろしく物陰でじっとその建物を観察していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る