第14話 植物の国 後編
しかもかなり登って来ていたのでこれがまたすごく揺れる揺れる。
グラン…グラン…
この状態でジャンプして上に登って行くなんてちょっと今の自分の技量では危険過ぎる…。葉っぱの上に立っている今の状態を維持するだけでもかなりのバランス感覚を必要としていた。
「やっぱり地道に幹を登って行こ…」
オレは自分のヘタレ具合を慎重派と言う事にして誤魔化してちまちまと登って行く道を選んだ。トホホ…これじゃ敵のいる場所に辿り着くまで後どれぐらいかかるんだよ…。
「やはり貴様が最初だったな…もう一人のヤツは…ここにつくまでまだまだ時間がかかりそうだ…」
「クニル…君が私に勝てるとでも?」
オレが必死でヒーコラ植物を真面目に登っている頃、クニルとアサウェルはついに対峙していた。この二人、何やら過去に浅からぬ因縁があるみたいだ…。
「この力を見ろ!昔とは違うんだ!」
「そんな力を得たとしても君は君です…」
二人の間に緊張感が走る。くそっ!オレがその場にいない事が悔しくてたまらないぜ。この二人の戦いを見られたならどれだけ興奮するだろう…。
「って言うか…ハァハァ…オレが辿り着く前に戦いが終わってない事を願うばかり…ハァハァ…」
ちまちま登っていると言ってももう地上から500m程は登っている。多分主戦場になっているであろうこの植物の頂上まで…後更に500mは…あるのかな…(汗)。
うう…ここでくじけたらあかんぞ、自分。
「貴様の連れ、アレだろ?タダシの息子だろ?貴様から見てどうだ?」
「まだまだですが…見込みはあると今は見ています…」
「かーっ!見込みはある…か!」
クニルはアサウェルの言葉に顔を手で抑えながら笑った。
それはからすぐに態度を切り替えて凄みを見せると冷静な声でつぶやいた。
「ならば…今の内にしっかり始末しないとな!」
一瞬の内にシリアスモードになったクニルが自慢のスピードでアサウェルに迫る。アサウェルも紙一重でそれをかわす。足場の不安定なこの巨大植物の葉っぱの上でついに二人の戦いは始まった。
この時、オレはまだ地上700m付近。まだまだ先は長い。
ヒュオオオオ!
上空の風もまた強い。段々寒くなって来た…。
グオオン!グオオン!
その強風で植物が大きく揺れている。もうヤダ、こんな場所…(泣)。
「君はタダシの事について何か御存知で?」
アサウェルは攻撃しながらクニルに問い掛ける。
ビシュッ!
その攻撃をクニルは紙一重で避ける。
「はぁ?アイツは悪夢帝様が葬ったはずだ!貴様も一緒にいたのだろう?」
アサウェルの攻撃を避けながらクニルは律儀に彼の質問に答えていた。
そして質問に答えながら今度はクニルがアサウェルに対して攻撃を繰り出す!
スッ!
その攻撃を今度はアサウェルがあっさりかわす。このまま行けばこの戦いは膠着状態になりそうにすら見えた。
「私は事前に逃がされました…その後の事は何も知らないのです!」
そう言いつつ、アサウェルの拳がクニルを捉える!
ビシュッ!
その攻撃をかわしながらクニルは不敵に笑う。
「それは不憫な事で…タダシを探しているなら無駄な努力だぞ」
クニルはそう言いながらアサウェルに必殺の一撃を打ち込んだ。
ガシッ!
そのクニルの必殺の拳を受け軽く受け止めるアサウェル。もしかしてアサウェルは…。
「クニル…君が私の知りたい事を何一つ知らない事が今分かりました」
「だから…?」
アサウェルの言葉にニヤリと笑い応戦するクニル。この戦い、二人のどちらも一歩も引かない。二人の瞳から強烈な火花が散る!実力者同士の戦いは長期化するものだけど…この戦いの場合は?
ドガァッ!
オレがようやくその戦いの舞台まで後数mのところまで登り詰めた頃…急に植物が収縮を始めた。あ、これってつまり…決着がついたって事だよね。
そんな…ここまで登りついてこの仕打ちはないよ…アサウェルもちゃんと空気読んでよ…(泣)。
シュルシュルシュル…。
恐ろしい勢いで植物が元に戻っていく。オレはこの収縮の間、振り落とされないように必死にこの植物の幹に抱きついていた。
それから驚くほど短時間で植物は元の大きさに変わり…更に人間の姿に戻った。
オレ達が悪戦苦闘していたこの植物に姿を変えられていたのはこの国の国王だった。
ドサッ!
それから間もなくしてアサウェルに倒されたクニルが空から落ちて来た。当然のようにヤツは気絶している。此処から先はこの国の警察に任せる事になった。
「何か収穫あった?」
戦いを見られなかったオレはアサウェルに質問した。
彼は少し考え事をしていたようだけどすぐに振り返ってオレに答えた。
「いえ…有力な情報を掴むにはもっと先へ進むしかないと言う事は分かりましたが」
「そっか…」
そう答えるアサウェルの淋しそうな顔を見たらオレはこれ以上の言葉が出なかった。
きっと色々あったんだろうなと勝手に想像するのみ…。うん、オレはちゃんと空気を読むからね。
アサウェルがクニルを倒した事で街は次第に元の状態に戻っていった。奴によって植物にされた住人達もみんなちゃんと元通りになった。いつの間にか目の前には緑に溢れた美しい街並みが広がっていた。
「これが本来のこの国の景観だったんだ…綺麗だね」
「ああ…そして此処から先はもっと厳しくなります」
アサウェルのこの言葉にオレは緊張を覚えた。
オレはまだまだ未熟だ…今回もアサウェルに追いつけなかった。
もっともっと鍛えてせめてアサウェルの足手まといにはならないようにしないと…。
境界の門が開く。
東部エリアの旅はここで終わり、未知の北部エリアへとオレ達は足を踏み入れていく。
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