第13話 植物の国 前編
メキ、メキメキメキ…!
目の前の植物がどんどん成長していく。
「フハハハハ!ならば私を倒してみるんだな!」
「うわぁ…」
オレは見上げながら呆気にとられていた。
「これじゃあまるで昔読んだ童話だよ」
「じゃあセオリー通りに行きましょうか」
退路を断たれたオレ達は仕方なくこの巨大植物を登る事にした。
植物の成長は止まる事なく遥か天空を目指して伸び続けていく。
「これは…先が思いやられるなぁ」
数時間前、オレ達は雑談しながら次のエリアを目指していた。
今のオレ達の現在位置は夢の世界の東部エリア。今までに集めた情報をまとめると父さんを探し出す為にはこの世界の北部方面へと向かわなければならないらしい。
なので当然、進路はその北部方面へと向かうルートを辿る事になる。
次の国を抜ければ北部方面だ。そんな訳でこの時点でオレ達はかなり目的の場所に近付いて来ていた。
オレはその道中でアサウェルに質問していた。
「あのさ…」
「はい?」
「えっと、こう…エネルギー弾的なものって出せないのかな?」
「はい?」
オレは前回の戦いで素手での戦闘の限界を悟った。相手が武器、飛び道具を持っている場合に素手での戦闘は思いっきり不利。…って、そんな事は最初から分かっていたはずだったんだけど…。
で、格闘漫画やゲームでお馴染みのアレ、アレが出来ないかなと。
現実世界ではただの妄想でもここなら何でもありの夢の世界なんだし。
「出せますよ」
アサウェルはオレの質問にあっさりとそう答えた。その瞬間、オレの次の修行の目的が自動的に決まった。
「それってオレにも出せる?」
「それは無理でしょうか」
アサウェルはそんなオレの期待を軽く打ち砕いた。
何だよそれ!じゃあ最初から期待させるなって話だよ!
「人には適正って言うものがあります。君にそれは向いていない気がします」
このアサウェルの答えにオレは憤慨した。彼のその言い方は馬鹿にされているようにも聞こえたからだ。
「じゃあオレは何が向いてるんだよ」
「今まで通りです。今後も今までに身に付けたその技を磨いていれば構いません」
アサウェルは淡々と冷静にオレの能力を分析する。実のところやっぱりそれが一番正しいんだろうか…でも…。
「でも飛び道具や武器を使う相手にこのままじゃ…」
「極めれば対処は可能ですよ」
うーん、これじゃあ話にならないな。やっぱり適正がないかどうかは試してみないと分からないじゃないか。大体、そう言うアサウェルはどうなんだ?
疑問に思ったオレは逆にアサウェルに聞いてみる。
「じゃあアサウェルは出せるの?ビーム的なヤツ」
「勿論です」
「じゃあやって見せてよ」
この挑発じみたオレの言葉にアサウェルはすっと手を前に突き出して…。
ちゅどーん!
アサウェルは特に気合とかを込める事もなく、ただ構えただけでその手のひらからビーム的な何かを発射して前方の岩を軽々と破壊した。
おうふ…アサウェル氏、まだまだ本気を出していなかったのか…(汗)。
「すごい…何か出せるコツとかないの?」
「これくらい勘で出来ないようじゃ無理ですよ」
「むむ…」
オレはおさるの国での戦いを思い出していた。
あの時は全く何も出なかった。つまりオレに才能がないってそう言う事か。
でもこのまま簡単に引き下がる訳にもいかない。多少は努力して自分の限界を知ってからじゃないと…。
「ハァァー!」
エネルギー弾を出す為にまず例の技の構えをするオレ。重なった両手のひらに力が溜まるイメージをして…集中&気合!よぉし!来た来た来た来たァ!
「ハアァァーッ!」
むむ!強くイメージしたおかげで何か力が溜まってきたような気が…。
気が…する!
「ハアアアアアアァァァーッ!」
「出来ないでしょう?」
オレの気合の集中をアサウェルのその一言が削ぎ落とした。
確かに力が溜まった気がしただけで実際にはエネルギーも何も溜まっていなかった。
「うわーもう!やってらんねぇぇぇ!」
「だから自分に合った技を磨くしかないんです」
あそこでアサウェルが邪魔さえしなければもしかしたらもしかしたかも知れない…けど、多分オレの思い通りの結果にはならなかったんだろう…。
悔しいけどやっぱりアサウェルの分析は正しいんだ…。
でもそうなると今後敵が強くなった時にオレ達二人だけじゃ不安になって来る。
ここは頼りになる仲間を増やした方がいいに決まってる。
「こうなったらさ!仲間を募ろうよ!アサウェルくらい強いのを!」
「出来れば私もそうしたいです…ですが、敵の強さを知る者ほど怯えているんです」
どうやらオレが言うまでもなくアサウェルは行く先々で仲間を募っていたらしい。
けれど…アサウェルが認める力の強い者ほど敵との力の差に怯え旅の同行を拒否されていたのだった。
「これからそんなに強い敵がどんどん出て来るんだったらオレなんか何の役にも立てそうにもないよ…」
「安心してください…君は鍛えればまだまだ伸びます!」
「そ…そう?」
オレはアサウェルにそう言われて悪い気はしなかった。伸びるって言われて今後も鍛錬を続けなくちゃなって気にもなったし…。むぅ、この人形、何げに人心掌握術に長けてるな…。
「それに…仲間集めもまだ諦めた訳ではないです」
アサウェルもまた現状打破に強い信念を抱いていた。本当、出来るだけ早く強い使える仲間が見つかって欲しいなぁ…。
そうこうしている内に目の前に街らしき建物郡が見えて来た。
それが東部エリアと北部エリアの境界に位置する植物の国だ。
「おお~巨大植物が目立つなー」
オレが遠くに見える街の特徴を口にするとアサウェルは途端に怪訝な顔になった。
「おかしいですね…あの国は前はこうじゃありませんでした…」
「え…?」
「あんな巨大な植物なんて初めて見ました…」
それはこの後に訪れる出来事を予感させるような光景だった。後で考えてみればどう見ても罠にしか見えないその国を迂回すると言う手もあったかも知れない。
「どうするの?」
「行きましょう!」
けれど、その挑発にあえて乗るところにもこの旅の意義があった。
夢の世界の住民に力を合わせれば敵を打ち倒せると言うメッセージを伝える意義が。
「ここで迂回して時間を無駄にする訳には行きません。それに…こうなっている以上多分この国の住民も困っている事でしょうしね」
アサウェルはそう言って笑った。勿論オレもその意見に賛成だった。
そんな訳でオレ達は躊躇せずにこの植物の国に入って行く。
案の定国内は巨大植物に蹂躙された後で…住人は誰一人見当たらなかった。
オレはこの状況を見て不安になって思わず一言漏らしていた。
「みんな避難した後なのかな?」
「人質にされていなければいいのですが…」
取り敢えずオレ達は街の住人を探しつつ慎重に道を進んだ。
街の姿がここまで変貌していると言うのにここは恐ろしいほどに静かだった。
もしここに敵がいるのなら…もうとっくに出会っていてもいいはずなのに。
それからオレ達は敵を警戒しながらも何の障害にも遭わずにそのまま国の外れの境界エリアの近くまでやって来ていた。ここまで敵の動きがないと言うのは逆に不気味だった。
そうして境界エリアまで進んだ時、ようやく話が進み始める事になる。
「よく来たな貴様ら!」
「ようやくお出ましか…」
お約束のような敵の出現にオレは少し呆れたようにつぶやいた。
お約束と言えばお約束なんだけど…あまりにもテンプレ過ぎて。
「私こそは悪夢帝東部支部長クニル!ここで貴様らの旅は終わりを告げる!」
「クニル!この国の住人達はどうした!」
オレはクニルに向かってそう大声で叫んだ。奴はきっとこの国の住人の事を知っている。もし住人に酷い事をしていたなら絶対に許せない。
このオレのこの問い掛けにクニルはニヤリといやらしい笑みを浮かべながら答える。
「住人達だと?貴様らには見えないのか…この素晴らしい景色が」
「はぁ?」
オレはこのクニルの言う言葉の意味がさっぱり分からなかった。
でも、どうやらアサウェルはこの言葉だけでピンと来たらしい。
「まさか…この植物達は…」
「そうとも!私を倒さねば元には戻らんぞ?」
そう…敵の力によってこの国の住人達そのものが植物にされていたのだ。
そんな事が出来るなんて一体どんな魔法を使ったって言うんだ…。
「貴様らはこの国を抜けて北部方面へ向かうのだろう?だがそうはさせん!」
メキ、メキメキメキメキ!
クニルのその一言で周りの植物達が更に成長し街の出口を完全に封じてしまった。
そのテンプレ通りの展開を見ながらオレはクニルに問いかける。
「どうせお前を倒したらこの植物達は元に戻るんだろ?」
「フッ…貴様らにこの私が倒せるものか!」
「倒してやるさ!行き掛けの駄賃だ!」
オレはクニルに向かって大声で叫んだ。今度こそこの戦いに楽勝で勝ってアサウェルの鼻を明かしてやるんだ。
「フハハハハ!ならば私を倒してみるんだな!」
伸び続ける植物を登るオレ達。ここまででどれだけの高さまで登った事だろう。それでもまだクニルの姿は全然見えて来ない。
アイツ…一体どこまで登って行ったって言うんだよ…(汗)。
「登って来い…登って来い…フハハハハ!」
クニルはヒロト達を見下ろしながら高笑い。実際、奴は登場時からこの植物の高い位置にいて植物をそのまま成長させたからコイツ自身は全然動いてなかったりする。
ちなみにコイツの特殊能力が人間の植物化とそしてその植物を操る能力なんだけど、その能力を直接攻撃相手に使って攻撃をしないのが彼の紳士的でアホな部分だった。
もっと狡猾になれば支部長より上のランクも狙える気がするんだけど…。
実際対峙してみてこいつがそんな奴で良かったと心底そう思った。
「それじゃあ先に行っていますね」
ぴょーん♪
アサウェルはそう言ってこの巨大植物の葉っぱに飛び乗った。
そしてその勢いを利用して更に上空の葉っぱに向かって大ジャンプ!
忍者の
「おうふ…その手があったか」
アサウェルのその行動に感心したオレも勿論真似してまず葉っぱに飛び乗った。
「う…うあああ!」
グラァ…!
足場が不安定なこの葉っぱの上はとても居心地が悪い。
この状態での八艘飛びはかなり難易度が高いと言わざるを得なかった。
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