第12話 おさるの国 後編

シュッシュッ!


オレのパンチが空を切る。間合いに入り込んだとは言え敵もかなりの手練…オレの攻撃は紙一重で交わされていた。


「やるねぇ、おじさん」


「おじさんか…この悪夢帝東方部特殊隊長ザクォルも舐められたものだ」


ザクォルと名乗る敵はオレの攻撃を交わしながら様子を窺っているようだった。

オレは攻撃を続けつつそのザクォルの反撃の芽を潰していく。

この勝負、多分どちらか冷静さを欠いた方が負ける。


そしてオレをここまで連れてきた猿達はずっとこの戦いを見守っている。

よく訓練されているとも言えるけど今は逆にこの静けさが怖い。

隙を見せたらこの猿達が襲って来る可能性を常に警戒していないと…。


「ふふ…我が友たちを警戒してるね」


「くっ…」


ザクォルは周りのこの猿達が攻撃するともしないとも言わない。

それが作戦だと分かっていながらオレは攻撃に集中出来ないでいた。


ニヤッ!


次の瞬間、ザクォルはいやらしい笑みを浮かべたかと思うとどこからともなく取り出した武器を振り回し始めた。


シャッ!


「ぅおっと!」


オレはバランスを崩しながらも何とかその攻撃を避ける。鋭い風が空を切った。


「ふぅ、武器ね…」


武器の使用に関してオレが少し顔をしかめて不満めいた言い方をするとザクォルはすぐにその言葉に反応した。


「ここは武闘会の会場じゃないんだよ」


オレは何とか体勢を整えるものの…武器を警戒して間合いはかなり遠くなってしまった。ザクォルの手にしている武器は長い棒状のもので刃物でないのが幸いしている。


ブン!

ブン!ブン!ブン!


そこからザクォルの猛攻が始まった。形勢逆転だ。

今は何とかその攻撃を避けられているものの、このままでは敵の攻撃に当たってしまうのも時間の問題だった。


「どうしたどうした!さっきまでの勢いはっ!」


ザクォルの武器での攻撃を腕で受け止めている内に痛みが限界に近付いてくる…。

うう…せめてこっちにも何か武器があれば…。


ハッ!


次にザクォルは棒を床に突き立ててそれを支点にしてオレに向かって蹴りを入れてくる!


ドゴォ!


「ぐふっ!」


その攻撃はオレにクリーンヒット!

オレの身体は軽く吹き飛びそのまま壁に激突してしまった。


「これで終わりかい?」


「冗談!」


オレはすぐには起き上がれなかったけど…ダメージはそこまで大きくなく、追撃をかけて来たザクォルを何とかかわした。


「ほう…」


そうしてまた体勢を整える…でもこっちは素手…相手の武器攻撃に対してせめて何か飛び道具的な攻撃手段があれば…そうだ!ここは夢の世界なんだ…想像が全て…。

何とかならないかオレはダメ元で手にエネルギーを溜めるイメージを強く念じた。


ハァァァァ…!


うん、気合を入れたら何だか力が高まってきたような…気がする。

頼む!どうかこれでうまく行ってくれっ!


「波動拳!」


某ゲームでお馴染みのこの攻撃、飛び道具的な攻撃と言えばやっぱりコレだよね。

しっかり構えた手に力を溜めてこの叫び声と共に手を前につき出す。その瞬間、オレの手から特大の気のエネルギーが…放たれなかった。


スカッ!


オレの攻撃は相手に向かってただ手を突き出しただけに終わった。

うひぃぃぃ!恥ずかしぃー。


「カハハッ!ざーんねん」


オレのこの動作を見てザクォルはそう言いながら顔に手を当てて笑った。


ウッキキーwww

ウキキーwww

ウキウキッキーwww


オレ達の戦いを見物していた猿共もこの見事なスカシっぷりに大爆笑だった。

くそっ!オレが芸人だったらこの状況を美味しいって思えるんだけどっ!

オレは猿達にまで派手に笑われて頭がフットーしそうだった。


「そろそろ遊びは終わりだよ…」


ひと通り笑った後、声のトーンを落としてザクウェルの眼光が鋭く光る。

オレはその瞬間、思わず負けを意識してしまった。ヤバイ!このままでは本当に負けてしまう!何か、何か突破口的な作戦を考えないと!


「本当、滑稽ですねぇ」


突然の聞き覚えのある声に振り向くとそこにはアサウェルがいた。


「不穏分子の噂を辿って来て見たら何だか面白い事になっているじゃないですか」


アサウェルはそう言いながらうっすらと笑っていた。

この反応…彼はどうもこの戦いに参加してくれそうにもないな…。

アサウェルはこの戦闘を多分訓練か何かみたいな捉え方をしている…オレにはそう見えていた。


「では、外野は片付けておきますから本気で戦ってみてください」


ウキーッ!

ウキッ!ウキッ!

ウキキー!


アサウェルによって鮮やかな手並みで一箇所にまとめられる猿達。

彼はその猿達を一気に太いロープでグルグル巻きにしてしまった。


「これで多少は集中して戦えるでしょう?」


「貴様っ!我が友を!」


手下の猿達が捉えられて動揺するザクォル。さっきまで余裕たっぷりだった奴が今では隙だらけになっていた。この千載一遇のチャンスをオレが見逃す訳もなく。


「必殺!」


「何ィ!」


素早くザクォルの懐に飛び込んだオレは渾身の一撃を奴に向かって叩き込んだ。


狼牙虚空拳ろうがこくうけん!」


バキィ!


「ぐあああぁぁぁぁぁ…!」


オレの一撃で宙を飛ぶザクォル。この一撃で呆気無く勝負は決した。


ドサッ!


オレの一撃をまともに受けたザクォルはその場で気絶していた。

念の為にオレは奴をアサウェルが使っていたロープでぐるぐる巻にする。

うん、猿達と同じ扱いでこれでこいつもきっと満足だろう。


「私が来なかったら負けていましたね」


勝負の結果を見守っていたアサウェルはそう言って笑った。


「結果的には勝ったし!今度はもっと楽勝で勝つし!」


その彼の言葉にオレは素直になれなくて強がりを言った。

けれどアサウェルが来たおかげで勝てたのは間違いないし、彼の登場に感謝してもいた。

戦いが終わり、その興奮が落ち着いて冷静になるとアサウェルの警告を無視した結果こうなってしまった事をオレは思い出していた。

なので、ちょっとバツが悪くて言い辛らかったけど素直にその事を彼に謝罪する。


「はぐれて…ごめん」


「まぁいいです、いい経験も詰めたようですし…先を急ぎましょう」


オレがこの国で学んだのは自分の無力さだった。

もっと強くならなければこの先の強敵にはきっと手も足も出ない。

そして二人っきりのこの旅の心細さも…。

この先旅を続けるにあたってせめて後何人か強力な助っ人が欲しい、そう強く思うオレだった。

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