第11話 おさるの国 前編

ウキー!

ウッキッキー!

ウキキキキー!


うーん、困ったぞ。アサウェルとはぐれてしまった。

一体ここはどこなんだろう?



「おさるの国?」


「そうです」


「って事は猿が支配している国?」


「住人が猿と言う訳ではないですが…まぁ…行けば分かります」


何て言うか今まで行った○○の国って全部国って言うかまるでテーマパークみたいだったんだよね。

イチゴのテーマパーク、バナナのテーマパークみたいに。

だからこれから行く国はおさるのテーマパークだと思えば多分そんなに間違いはないんだろうな。


と、オレがそう考えている内に段々その国らしい建物が見えて来た。

巨大な猿のオブジェがお出迎え…うん、確かにここはおさるのテーマパークだわ。


オレ達がおさるの国に入ると猿と一緒に行動する住人達が目に入る。

それどころか街のあちこちで野良猿達もたくさん目に入る。

アレは放置なのか全くの野生なのか…どうなんだろう…毛並みはいいみたいだけど。


ウキキー!


歩いているとオレと目が合った野良猿がそう言って通り過ぎていく。

歓迎されているのかそうでないのか…イマイチ判断が難しいな…うん…。


「気をつけてくださいね…ここでは油断すると必ず何かを持ち去られます」


「な…なんと…」


夢の世界は想像の世界。現実の世界みたいにギッチギチに物理の法則で縛られてはいない。お金だってあると思えばあるのだ…何て便利。


ただ、そんな世界でも失ってしまうと後々面倒になるものもある。

レアなものになるに従って詳細に想像しなければ再現が難しいのだ。

例えば…そう、身につけているものは結構再現が難しい。


ウッキッキィー!


「あっ!」


しまった!ちょっと考え事をしている間にオレは猿の接近を許してしまった。

しかもお金はともかく、大事な財布を盗まれちまった!

このっ!スリザルめ!許さん!


「財布返せーッ!」


オレは反射的に自分から財布をすったこのスリザルを追いかけてしまった。

本来ならここはアサウェルと一緒に行動するべきだったのに。

この時は頭がパニックになって財布の奪還以外何も考えられなくなってしまっていたんだ。

それにこのスリザル、事あるごとにオレを挑発してくる。


ウッキウッキー!


まずは何より…財布の奪還だ。財布を取り戻してから後の事は考えよう。

連日の修行で鍛えたオレの足は身軽な猿にも対応出来るほどになっていた。

スリザルを追いかけてどんどん街の外れへと走って行く。

やがてスリザルもオレの実力に気付き、逃げられないと悟ったようだった。


「さあ、大人しくしてもらおうか!」


オレはスリザルとの距離をじわりじわりと詰めていく。

スリザルから余裕の表情は消え、どこか怯えた素振りも見せ始めていた。


とおっ!


一瞬の隙を逃さずオレはスリザルを押さえつけた。

そして謎の気迫でスリザルに恐怖を植えつける。

こう言う事を二度と起こさせないようにするために!


オ・レ・の・モ・ノ・に・手・を・出・す・ん・じゃ・な・い・!(気迫)


ウ…ウキキ…(汗)


どうやらこの教育は成功したようでオレは何とかすられた財布を取り戻した。

しかしこの時点で気付くべきだった…。猿は群れで行動する生き物だと言う事に…。


ウキキィー!


財布を取られ、オレから開放されたスリザルは泣きながらどこかへ逃げ帰っていった。


「さて、オレも帰るか」


そう思って周りを見渡すと…ヤバイ…全然見覚えのある景色がない。

自分が一体どこの道を走ってここまで来たのか全く見当がつかなかった。


「とりあえず…歩くか」


ザッザッ…。


仕方がないのでオレは自分の勘だけを頼りにとりあえず市街地に出る事だけを目的に歩いて行く。

多分この方角から来たんだろうなと言う道を見当をつけて歩いているんだけど…一向に思い通りの道には出られなかった。


おかしい…まるで何処かで道が繋がっているみたいだ…。

もしかしてもしなくてもこれ、普通に道に迷ってしまっている。


「ちょっと休むか…」


そうしてオレが歩き疲れて適当な場所に座り込んでいると、どこからか猿の鳴き声が聞こえて来た。

しかもこれ、一匹や二匹どころじゃないぞ…。


ウキー!

ウッキッキー!

ウキキキキー!


「うわーっ!」


複数の猿の鳴き声に異変を感じて辺りを見回すと、いつの間にかオレは大勢の猿達に周りを取り囲まれてしまっていた。

そしてそのサル達が思い思いにオレの身体を掴んで…。


ウッキッキ!

ウッキッキ!

ウッキッキ!


大勢の猿に担がれてオレはどこかへと連れられて行く。

ええ…何だこれ…どうなっちゃうんだオレ…。


ウッキッキ!

ウッキッキ!

ウッキッキ!


猿の団体が向かう先…あれ?どうやら市街地まで降りて行くようだ。

折角だから取り敢えずこのままこの流れに任せてみる…かな?


ウッキッキ!

ウッキッキ!

ウッキッキ!


「よーしよくここまで連れてきた!いい子達だ」


オレが猿達に担がれて連れて来られたのはとあるビルの一室。

その部屋まで来るとオレはいきなり猿達に放り投げられた。


ドサッ!


「いってぇ!こら猿共!もっと丁寧に扱え!」


オレは猿達に文句を言ったけど…肝心の猿達は一匹としてこの言葉を聞き入れた様子はなかった。全く、この猿達全然躾がないってないな。

そしてその部屋にいたのは猿の飼い主らしき一人の男…。

このシチュエーションからしてコイツが敵なのは間違いなかった。

大体、よく見ると悪そうな顔してるし…あのピエロのお仲間って雰囲気がぷんぷんと漂っている。

オレは敵の様子をじいっと眺めながら挑発してみる。


「へぇぇ…猿使いとは中々…」


「貴様、オレの仲間達を侮辱するのか!」


「とんでもない…ただ、回りくどいかなって思っただけだよ」


ブゥン!


オレがまだ穏やかに話をしているって言うのにいきなり敵が殴りかかって来た!

そのパンチを紙一重で交わすとオレも素早く臨戦態勢を取る。

その構えを見て敵もまたオレに挑発的な態度を取る。 


「折角だ…せめて楽しませてくれよ…」


「そのセリフ、そっくりそのままお前に返すぜ…」


オレは狼牙ろうがの構えを取る…この構えは接近打撃戦に特化した型だ。

獲物を狩る狼の牙をイメージしたその構えを取ったオレは狼になりきった。

精神の動きが体の動きに直結するこの世界ではイメージが全て。


ウォォォォー!


そう叫びながらオレは一瞬で敵の間合いに入り込む。

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