第4話 アサウェルコーチ
「もう一度!スクワットから!」
ああ…このセット何度目だろう?
オレはアサウェルに捕まって強制的にトレーニングをさせられている…。
ど、どうしてこうなった…(涙)。
夢なのに…ここは夢の世界のはずなのに体力を消耗するわ…汗は出るわ…どう言う事よ?本当の夢の世界なのかここは…。
アサウェルの指導するセットメニューは腕立て伏せ&腹筋100回にスクワット300回。これを1セットにして現在3セット目。死ぬ…。
でも現実だとここまで出来ないからね…やっぱり夢補正がかかってるんだなってそれは思う。
って言うか…何とか早くこの夢醒めて(切実)。
オレはこの行為に全く意味を見出せずに思わずアサウェルに質問した。
この質問に対してアサウェルは何でそんな事を聞く必要があるの?って雰囲気を出していた。
「これって、本当に体力ついてるの?夢なのに?」
「勿論ですとも!夢の世界は精神の世界!想いが強くなればそのまま強くなります!」
アサウェルの言う謎理論はオレにとってまるで理解不能の領域だった。
でもきっとそれはこの夢世界では常識なんだろうな…。
「はぁ…そーすか…」
バタリ…。
度重なるセットの強要で体力の限界だったオレは流石に体力の限界を感じ、その場に倒れこんだ。
キツイ…。
ダメだ…。
喉乾いた…。
「どうぞ」
倒れたオレにアサウェルがペットボトルの水を差し出した。
お…おう。今すごくのどが渇いていたしこれは助かるなぁ。
オレはアサウェルにお礼を言いながらそのペットボトルを受け取った。
「あ、ありがと…」
しかし夢の中なのにこう言うのは現実感たっぷりだなぁ…。
って言うかペットボトル…?えっ?どう言う事?
「この水はどこから…?」
「普通に売ってますよ…ここは現実世界と深くリンクしていますから」
まさかと思ってよく見るとそこには自販機があった。
…この事についてはあまり深く考えない方が良さそうだ。
「あのさ…」
オレは渡された水をガブガブと飲みながらアサウェルに質問した。
「この世界って個人の夢とは違うんだよね?何でオレここに迷い込んだんだろ?」
「多分母親に似たんじゃないでしょうか?」
「は?」
似てるとしたら父さんの才能の方じゃないかとも思ったけどよく考えたら父さんと母さんの出会いは母さんがこの夢に迷い込んだからだったっけ。
じゃあやっぱりこの夢に迷い込めるのは特殊な才能なのか。
って言うか…母さんの才能…って何だ?
「個人の夢は表層意識のようなもので浅いものなんです…ここはそれより深い所なんです」
「えぇと…それはつまりここへは普通の人は来られない?」
「昔はこの世界まで潜れる人間は夢見の者として重宝されたと聞いています」
オレの母さんは言っちゃ何だけどどこにでもいるごく普通の母親だ。
特別な才能なんてオレが生きて来て今までに一度も目にした事もない。
言動は天然なところが多いしうっかりミスだって結構多い。
そんな母さんに…いやもしかしたらそんな母さんだからなのか?
うーん、この夢が覚めてもしこの事を覚えていたらちょっと聞いてみよう。
…答えてくれるかどうかは分からないけど(汗)。
「そう言えば今更根本的な事を聞くけどさ…この世界がその悪の親玉に支配されたらどうなるんだ?」
「ああ…この世界の重要性を君はまだ知らないのでしたね…」
ゴクリ…。
オレに質問にアサウェルは急にすごくシリアスな顔をして話し始めた。
それから話す話は目の前の人形の気迫が恐ろしいほど伝わってくるようだった。
「この夢は深層意識に影響を与えます…この世界が悪意に染まれば現実世界もそうなるんです」
「じゃあ…例えば訳もなくムカついたりとかって…もしかしてこの世界が原因?」
「そうです、例えば無闇に疑心暗鬼になって全く人が信用出来なくなったり…悪意に染まっていけばやがて争いが終わらなくなります」
オレはこの話を聞いて憎しみの連鎖を想像した。
紛争地域の心の乱れの根本は深層意識の乱れが原因なのかも知れない…。
つまりこの夢世界を守る事は大袈裟に言えば世界を守る事なの…かも…。
そこまで想像してしまうと自分の肩にかかっているものの重みがズシンとのしかかって来た。
「やっぱ荷が重過ぎるよ…オレにそんな大それた事なんて出来っこない」
「いえ、やる前から諦めてはいけません!君にはまだ十分可能性があります!」
アサウェルにこう言われるとこんなオレでもちょっとだけ出来そうな気がしていた。
人(人形だけど)に認められるってここまで勇気をもらえるものなんだな。
「出来るだけ…やってみようかな?」
このオレの返事を聞いてアサウェルはにっこり笑って更に重い試練を課すのだった。
「良い返事です!じゃあ後3セット連続でやってみましょう!」
「うひぅぃぃ!」
ああ…こんな事になるならやる気なんて出さなきゃ良かったよ…。
オレはこんな夢は早く覚めて欲しいと切実に願った。
けれど悲しいかな…このアサウェルの地獄の特訓が終わるまでこの悪夢が覚める気配は全く感じられなかった。
もしかしたらこの夢の世界にハマってもう二度と現実世界に戻れないのかもとすら思ってしまった。
そこまでこの夢の世界は現実世界と変わらないリアルさを持っていた。
それからオレは何とかアサウェルに言われたセットを体力ギリギリで完遂させる。
うおおお…もうダメ…今度こそマジで身体動かない。
そんなオレの勇姿を見てアサウェルはとても上機嫌だった。
「よく頑張りました!休憩挟んで後2セット行ってみましょう!」
「ちょ、もう終わってください…」
鬼コーチの特訓はまだ始まったばかり。
もうやめたい。助けて…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます