第5話 やっぱ現実は最高だな!
チチチ…チチチ…
気が付くと朝になっていた。あ…ちゃんと目が覚めるんだ。
う~ん、たっぷり寝たはずなのにこの疲労感は何なんだろう?
つまりさっきの夢が普通の夢じゃなかったって事…その証明だった。
普段の夢なら起きた瞬間にすぐに忘れるのに未だに夢の記憶が鮮明に残っているのもきっとそのせいなんだろうな…。
目覚ましを見ると目覚ましが鳴る5分前だった。何だ、ちょうどいいじゃないか。
「ふぁ~あ…」
精神的に疲労感は残るものの身体は完全に覚醒していて目覚めはスッキリしている。
いつもは目覚ましで起きてしかも眠気がひどくて二度目モードに入らざるを得ないって言うのに…。
これはあのキツイ夢の世界での出来事の嬉しい副作用のような気がしていた。
ジリリリリリリリ…!
…ッターン!
オレはいきなり鳴り始めた目覚ましを景気良く止めて出かける準備を始めた。
しかし目覚ましが鳴る前に起きるって言うのは何て言うか目覚ましに勝ったみたいで気分がイイね!
「あら!今日は余裕があるのね!」
学校に行く準備を済ませて朝食をとる為にテーブルに付くオレを見て母さんの一言。
まるでいつも余裕がないみたいな言い方だけどこれが本当だから言い返せない。
早速オレは昨日の夢の事を聞こうかとちょっと悩んだけど…言い出せなかった。
って言うか普通に考えて朝は時間もないしそれは仕方ないよね。
そんな訳でオレは誤魔化すように母さんに軽口を言った。
「たまには調子のいい時もあるんだよ」
「ふふ…毎日そうだと嬉しいんだけど」
母さんが見守る中での朝食はちょっと気恥ずかしい。
子供の頃はそれが嬉しかったのに…多分それが思春期ってヤツなんだろうな…。
朝食を済ませたオレは鞄を持って学校に向かう。
あんな夢を見たからって現実は余りに何も変わりがなかった。
「オレが世界を救う戦いを始めたって言ったらみんな引くだろうな…」
そうなる事が100%分かりきっていたので夢の事は絶対に秘密にしようとオレは固く心に誓った。
学校に着いたオレに今日もありたきりな学校生活がなし崩しに過ぎ去って行く。
現実世界は拍子抜けするほど何も変わっておらず平穏の意味を実感していた。
友達との何気ない会話や教科書通りの授業。時間はあっと言う間に過ぎていった。
あ、そうだった、普段からオレは無気力第一主義だったわ。
関心がないと心に何も引っかからずにすぐに時間を消費してしまう。
学校生活と言うと楽しみの一つとして学校行事とかあるけどオレはそこにあんまり興味を抱けなかった。
強いて言えば一ヶ月後に中間テストがあるなぁ…とか、そんな程度。
多くの生徒が実感しているかも知らない青春ってヤツも全く実感がない。
(青春って…何かね?)
…って、自問自答しても仕方ないか。
普通は青春って言ったらやっぱり恋愛なんだろうなぁ…(遠い目)。
格闘王タダシの息子って魔法が効いている内は多少言い寄る女子もいたけど実際は何も出来なヘタレだってメッキが剥がれたらみんなすぐに去っていってしまった。
結局オレは所詮その程度だったんだよ。自分自身の魅力の無さに愕然とするよ。
だから普段つるむのも自分と同じモテない同士。
いつの間にかオレはマニアックな話題で盛り上がるはぐれものグループの一員になってしまっていた。
こいつらと話のもそれなりに楽しいけど…こんなんでいいのかなぁ…(遠い目)。
(でも流石にあの夢の話はな…)
そんな訳で部活は体力関係ない部活を選んでいる。
囲碁部の…幽霊部員。今はもう部に籍があるかどうかも不明だ。
部的にもオレはもう辞めたって事になってるんだろうな…(遠い目)。
もし囲碁部に可愛い子がいたら続けていたんだろうけど…現実はそんなに甘くはない訳で。
そんな訳で今日もオレは学校が終わるとすぐに帰宅。
帰って好きなアニメの動画を見るのだ。ああ…何でもない日常最高!
「おかえり。ホットケーキ作ったから適当に食べてね」
家に帰ったら母さんがおやつを作ってくれていた。ナイスタイミング!
この母さん特製のホットケーキ、実は結構好きなんだよね。
ハムッ!
ムグムグ…
「美味い!」
じっと見ている母さんの前でオレは素直に味の感想を述べた。
このホットケーキ、何て事はない味なんだけど妙に癖になる美味しさがあるんだよね。
きっとこう言うのもおふくろの味、なんだろうな。
「そう?良かった」
このオレの感想には母さんはにこっと笑っている。
その話の流れでつい母さんに今日の夢の事を質問していた。
「そう言えば今日変な夢を見たよ」
「あ、その夢のせいで今日は早起きだったのね」
「そうなんだけど…変なオモチャが出て来てさ…そいつが父さんの親友だって言うんだ」
「え…」
今までニコニコ話を聞いていた母さんがこの一言で急に真面目な顔になった。
アレ…?もしかして母さんもアサウェルの事を知っている?
オレは母さんの表情の変化に気を付けながら話を続けた。
「変な夢でさ…その中で父さんが世界を救う為に戦っているって設定なんだ」
「それで父さんはどうだって?」
オレの話に母さんは身を乗り出して食い気味に質問を返して来た。
それは少なくともただの夢の話に対する反応じゃなかった。
この反応…オレは自分の中の疑問が確信に変わって行くのを感じながら話を続ける。
「それが…そいつが言うには悪のボスに返り討ちにあって行方不明になっちゃったんだってさ」
「…そうなの」
このオレの返事を聞いて一気に落胆する母さん。た、ただの夢の話ですよ?
なのに何でそんなにショックを受けるの?もしかして本当にアサウェルの話は…。
この様子が気になったオレはついに母さんに核心に迫る質問をしてみた。
「母さん、まさか夢の世界に行った事があるの?」
「アサウェルに聞いたんでしょ…そうね、私も昔はそうだったの」
まだオレが口に出してないのに母さんの口からアサウェルの言葉が…それはつまりあの夢の話は本当だと言う事を証明していた。
その後はこっちが質問しなくても母さんが自分から夢の話を続けてくれた。
その話は普通の人が聞いても素直に納得出来ないような話だった。
自分が当事者になっちゃったからオレはちゃんと聞けるけど…。
「初めてあの夢の世界に私が迷い込んだのは15歳の頃ね。初めは右も左も分からなくて…」
「…」
15歳と言うと今のオレよりもっと若い頃になる。
そんな時にあんな訳の分からない世界に迷い込んじゃったら相当パニクっただろうな…。
オレは母さんの話を聞きながらそれを自分の姿と重ね合わせていた。
「それで困っているところを父さんに助けられたの。私は一瞬で恋に落ちた…」
「みんな本当の事だったんだ」
「きっと誰も信じてくれないわよね」
そう言って母さんは笑った。その笑顔はどこか寂しげなものだった。
ネットで父の経歴が謎だって話題になった事があったけど真実は更にとんでもない…こんな話きっと誰も信じないだろうな。
「あの人が現実世界に現れた時はびっくりしたわ…まさか夢が現実になるなんて」
「不思議な話だよね…でもそのお陰でオレがいる訳だし…」
しかしまさか自分の父と母の馴れ初めが夢の世界だっただなんて…。
こんな漫画みたいな話が自分のルーツだとか世の中何が起こるか分からないね。
「多分お母さんね…その時に力を使い果たしちゃったと思うんだ…それからもうあの夢の世界に行けなくなっちゃった」
母さんの話によると母さんの力で父さんを現実世界に連れて来たらしい。
母さん自身どんな理屈でそんな事が出来たのかよく分からないらしいんだけど…。
取り敢えずこれで謎は全て解けた…かな?
それから母さんは自分が夢の世界でどうしていたのかを話し始めた。
「母さんこう見えて夢の中じゃ結構強かったんだから」
「そう…なんだ?」
「お父さんとアサウェルと3人であの世界の悪を倒しまくったの…懐かしいな」
現実世界では天然の母さんも夢の中では結構武闘派だったらしい。
まるで普通の青春時代の事みたいに夢の世界の武勇伝をオレに話す母さんはとても楽しそうだった。
その様子を見ているだけでこの話が作り話じゃない事はしっかりオレに伝わって来た。
今明かされた我が家の真実は本当にとんでもないものだった。
そんな血を引いているからこそオレはあの世界に導かれたのか…。
母さんの話聞いている内にオレが父の敵を討つ流れは必然のようにすら思えて来た。
でも夢の中でさえヘタレだったオレにそんな大それた事は出来るだろうか…。
「もうあなたはあの夢の世界に行けるようになったんでしょ?アサウェルによろしくね!」
「あ…うん」
「しっかり彼に鍛えてもらいなさいよ!」
母さんはそう言ってオレの背中を軽く叩いた。
その応援にこれからもしっかり頑張らなくちゃなって思ったりして…。
うーん、単純だな…オレって(汗)。
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