第3話 夢の世界

「えっ?やっぱりここは夢の世界なの?」


「そうです…ですが個人の夢ではありません。ここは夢の集合体…多くの人間の夢がこの世界に内在しています」


「つまりその…潜在意識…みたいな?」


「まぁ…その認識でいいでしょう」


アサウェルの説明によると、この世界は多くの人の夢の集合体らしい…つまり自分だけの夢じゃないって事だけは分かった。

だから自分に有利な展開にはならなかったんだな。何てこった。

じゃあこの集合体に出てくる人間はみんな誰かの夢の化身って事?

オレは次にその疑問をアサウェルにぶつける。


「じゃあアサウェルもここではそんな人形の姿だけど本当は現実世界の誰かなの?」


「いえ、私は純粋なこの世界の住人です」


なるほど、よく分からん(汗)。

つまりこの夢の国には元々の住人と現実世界からやってきた人間がいると。

そう言う世界だから個人の夢よりリアル…なの…かな?

リアルと言う事で少し気になったオレは更にアサウェルに質問した…それは、この世界での死について。


「この世界で死んだらもしかして…」


「勿論現実世界でも死を迎える事になりますね」


あ、あはは…何と言うこのお約束的展開。

夢の世界の話だからって楽観視していたら普通にどシリアスやないですか…(汗)。


そう言えば考えてみたら父がこの世界に関わったのってどう言う経緯だったんだろう?

アサウェルはその点についても何か知っているのかな?


「どうして父はこの世界に?」


「ああ…君はタダシの事について何も知らなかったんですよね…いいでしょう、私から話しましょう」


そう言ってアサウェルは父の事について話し始める。

アサウェルの口から語られるのはオレの知らない父の姿だった。

それは余りに衝撃的過ぎて素直には信じられなかった。


「タダシは私と同じく元々この世界の住人でした」


「…へ?」


「昔この世界に迷い込んだ女性を助け、そこで二人は恋に落ち君が産まれました」


「ちょ、何?」


えっと、理解が追いつかない。いや、納得するのを心が拒んでいる。

つまり何?父がこの夢世界の住人?つまり現実の人間ではない?

いや、ファンタジーな世界の話なら夢の国の住人が現実世界に現れるのはよくある事だけど…。

まさか自分の父親がそうだと?


「じゃあ父は現実の人間じゃないって事?」


「そうです。信じられないのも無理はないですが」


オレにこの質問にアサウェルは明快にそうだと答えた。

だけどそんな話が信じられる訳がない…オレももう子供じゃないんだし…。

これを受け入れてしまえば自分と言う存在が信じられなくなってくる…。

でも、もし本当にそれが真実だったとしたら…。

オレは父と現実世界との接点を求めてアサウェルに質問を続ける。


「でもお母さんは現実の人間だよね?父が現実の世界に出て来たって事?」


「愛に奇跡はつきものですよ」


あ…何かこれ適当に誤魔化された気がする。

夢の世界から現実の世界に出て来るからくりとかきっと何かあるんだぜ…。

アニメとかのお約束展開なら夢の世界の軍団が地上世界を征服に現れるのとかテンプレだもん。

話を誤魔化されたって事はこの件は今深く突っ込んでも答えてくれそうにないな…。

別の話題にしよう。今度は父の話ついでにアサウェルの事でも聞いてみるか。


「で、アサウェルは父とどんな関係なの?」


「タダシと私は昔からの無二の親友です…夢と現実に分かれてからも…そして今も」


そう言ったアサウェルは少し寂しい顔をしていた。

あれ…これ言ったらいけない系の質問だったのかな?

でもこれでアサウェルが強い理由は分かった気がした。

あの父と親友だって言うならそうなんだろうな。


「だからあんなに強かったんだ…じゃあアサウェルが敵を倒しゃいいじゃん」


「戦いましたよ…戻って来たタダシと一緒に…そしでボスの目前まで迫って…逆に返り討ちにあいました」


あ…地雷踏んじゃった…かな?でもそこまで行ったなんてスゴイじゃん。

やっぱり見た目と違ってかなりの実力者だよこの人形。

とは言え、その強さを持ってしても敵のボスには勝てなかったんだよな…。

無敵を誇っていたあの父をもってしても…。

オレはここに至って初めてアサウェルに核心的な質問をぶつけた。


「そう言えば父さんはどこに…?無事なの?まさか…」


この質問にアサウェルはとても寂しそうな顔をしてこう答えた。


「タダシは私を逃してそこからは行方不明です…最後に私に伝言を残してね」


「もしかして…その伝言って…」


ここまで聞いてオレはその後の展開が容易に想像出来た。

出来ればこの予感がどうか当たりませんようにと願うばかりだった。

けれど…その願いはどうやら届かなかったらしい。


「息子のヒロトにこの後の事は託すと…鍛えてやってくれとも言っていました」


アサウェルはそう言って不意にオレの顔を見た。

ニヤリと笑うその顔はオレには邪悪な微笑みにしか見えなかった。

うう…な、なんて何から何までお約束通りなんだ…。


その笑顔に悪寒を感じたオレはすぐに自分のヘタレっぷりをアサウェルにPRする。

こんな訳の分からない世界で面倒事に巻き込まれるなんてゴメンなんだよ!


「いやでもさっきも見たでしょ…オレに父さんの能力は何も遺伝していないって…」


「だからこそ鍛え甲斐があると言うものです!」


ちょ、アサウェルさん?あの…その自信満々な顔がちょい怖いんですけど?

その顔、マジで漫画とかでよく見る鬼コーチの顔なんですけど?

ヤバイ…これは絶対逃れられないパターンだわ…。

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