第2話 父親の真実

「この世界は今滅亡の危機にあるんです」


「あ…そうなんだ」


夢だって分かっているからね。うん。

しかしこんな夢を見るなんて…とうとうアレになってしまったか…。


「君はお父さんの力を受け継いでいる…君ならば」


「え?父さんが何?」


オレが事態を理解していない風な反応を示した事で人形はどうやら落胆してしまったようだった。


「そうですか、君はお父さんの事を知らないのですね」


しかしオレの夢にここで父が出てくるとは思わなかった。

何だ?この夢の中でも父さんは有名人なのか?

現実世界でも有名なのに夢の中まで、しかもオレの夢の中だぞ…いや、むしろオレの夢だからか…。

有名人の父さんに嫉妬している部分がオレの中にあるからこんな展開なんだろうな…多分。


オレがそんな自己分析をしているとその人形は話を続けた。


「君のお父さん、タダシは私の親友でこの世界でも敵なしのヒーローでした」


「へー」


ここまで聞いたところでのオレの感想はまぁ夢の中の話だし?そう言う設定なんだなって感じ。

それよりこの夢がそんな設定なら長い話なんて終わりにしてすぐにでも敵と戦ってみたいとすら思っていた。

だってこれは夢の中だから…しかも今回は覚醒夢、チートな能力も使えたりしそうだし。


「タダシはこの世界にはびこる悪を倒して倒して倒し尽くして世界を平和に導きました」


「ほうほう」


倒して倒して倒し尽くすとか…表現が本当にあの父さんらしいや。

現役時代の父さんはリングの上でも本当に無敵だったからなぁ…(遠い目)。

僕はそんな人形の表現に感心したりしていた。


「それが最近また強い悪が現れタダシは帰って来ました…またこの世界を救うために!」


…うーん、夢とは言え何てありがちな設定なんだ。

オレ、夢って普通もっとシュールなものだとばかり思っていたわ。


「で?父さんがその悪にやられたんで今度は息子のオレに助けを求めたと」


話がテンプレ過ぎるんで今度は逆にオレから人形に話しかけてみた。

大抵この手の話ってこう言うパターンだろ?って言うね。


「そうです、その通り…さすがタダシの息子ですね!」


このオレの答えにその人形はとても嬉しそうな顔をしてそう答えた。

オレはこの夢の中なら現実とは違う自分でいられるんじゃないかと、そんな気がしていた。


「じゃあ早くやろーぜ…で、敵どこよ?」


この時、オレはここが夢の世界だからって事で気が大きくなっていた。

夢だからって必ずしも自分が無敵な訳じゃない事をこの時はすっかり忘れてしまっていたんだ。


人気のない暗闇の街に不穏な影がうごめく…。

どうやら敵はすぐ近くまで来ているようだった。


(予想通りだ…人の気配を感じる…現実じゃこんなの絶対分からなかった)


オレは早速見様見真似でファイティングポーズを取る。

それは幼い頃に父が教えてくれた構えだ。

構えだけは一人前だとその頃から褒められていたっけ…(遠い目)。


「来いよ?相手してやんぜ?」


オレはまだはっきり分からない相手に対していっちょまえに挑発していた。

本当、今考えれば敵の実力も知らずに馬鹿だよね。


オレの挑発を受けてその敵らしき影がやっぱりそれっぽいセリフを喋った。


「お前もアサウェルの仲間か…なら死ね!」


「へー、人形のおっさんアサウェルって言うんだ。かっこいい名前じゃん」


オレは敵の言葉につい人形のいる方向を向いてしまった。

勿論アニメとかのお約束じゃこの隙を敵がつく事はない。

この時、これは自分の夢だから自分が自由に行動出来ると思って油断していたんだ。


「いけません!敵から目をそらしては!」


「へ…?」


ドゴオッ!


へぶしっ!


不意打ち…隙を見せたオレは敵の攻撃を受けてふっとばされてしまった。

な、なんて重い蹴りなんだ…って言うか普通に衝撃を感じたんだけど…えっと…これ本当に夢なの?


「何だ雑魚か」


攻撃をまともに食らって倒れているオレに向かって敵が吐き捨てるように言う。

この言葉にオレはカチンと来たね!この夢の主人公の力を舐めないで頂こうか!


…って意気込んでは見たけど…アレ、体が動かない…非常に体中が痛い。

何これ?ちょっとダメージ半端ないんですけど?本当に夢…なんだよね?


お、お、お…


おええええ…


オレは敵の一撃を食らって動けなくなったどころかついに吐いてしまった。

何だこれ…夢の中とは言えちょっとリアル過ぎだろ…。

しかし何て情けないんだ…トホホ…まさか夢の中でも役立たずだなんて。


「この程度なら我らの敵ではないな…」


「ヒロト!」


何だよ人形のおっさん…おっさんまでそんな目で見るのかよ…。

そうだよどうせオレは夢の中でもヘタレだよ。

それでこのまま意識がフェードアウトして夢から覚めるんだよ…お約束じゃん。


「安心しろ…次の一撃で楽に地獄に送ってやる」


あれ?敵のオニーサンがゆっくり…近付いて…くるよ?

そんでもって一向に夢から覚めませんよ?これは何事?まさかまだ続くって事?

って事は…もしかしてオレ…もっと痛い目を見ちゃうって事?


「うぐ…ちょっ…待っ…」


敵のオニーサンはオレに向けて容赦なく拳を振り上げている。

それのためらいのない流れるような動作はまさに殺し慣れたそれだった。

その敵の動きを見た時、ああ、ここで死ぬんだなとオレは思った。夢の中なのに。


って言うかここまでリアルって事はもしかしてここは実は夢の中じゃない?

夢の中に見せかけた異世界?…もしそうだとしたらここでの死は本物の死っ?嘘…だろ…?


「フゥンッ!」


敵の腰の入った重厚な拳がオレに迫る!

オレはただうずくまり自分の身を守るしかなかった。


バキッ!


死んだ!オレここで死んだ!

はい!オレの人生ここで終わりましたー!


…ってあれ?


「…え?」


死んでない!死んでないよ兄さん!(誰?)

これってやっぱりオレの夢だから主人公補正かな?


って状況をよく見ると違っていた。


ドゴォッ!


ふっとばされたのは敵の方だった。

え?何が起こったかだって?

そう、敵に追われていたはずのあの人形のおっさんが逆に敵を倒したんだ。

えーと確か名前はアルベルト…じゃなかった?アサ何とか!


「おおぅ…おっさん、すごいな…」


「おっさんではありません、アサウェルです…しかし君がここまで使えないとは…正直失望しました」


オレは人形のおっさん…もといアサウェルに思いっきり悲観されてしまった。

えぇ…夢の中でもこんな扱いだなんて…何てついてないんだ…。

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