第6話
朝五時に起き出して、赤い電車に乗り、今朝は横浜駅で乗り換えして、緑色の横浜線で、七時前に中山駅に着いた。
今日は島田と僕で休みをあわせて、王禅寺の管理釣り場に行く日。まだ朝のうちなので、太陽が低くて空気が冷たい。
駅から少し離れたコンビニでの待ち合わせだったが、島田はすでにワンボックスカーで待っていた。おはようの挨拶をして、僕は島田の車に乗り込む。
「今日はどれくらいお客さんいますかねぇ」
「お天気良さそうだから、それなりにいるんじゃないっすかね」
ハンドルを握る島田はそう言いつつ、楽しみにしているのが顔からにじみ出している感じだ。
「あ、そういえば、王禅寺の管理会社が変わったんですよ。だから前みたいにバンバン釣れるかどうかは、分からないですよ」
「そうなの?まあ五匹くらい釣れればいいかな」
島田は笑って
「それは控えめすぎますよ、二十匹は釣りましょうよ!」
と強気な意見だった。
一時間くらいのドライブで王禅寺に着いて、まず入場料を払う。今日は半日券にした。釣り具をセットし終えたら、釣りの時間開始だ。管理釣り場には風を遮るものがないので、風も少し吹くだけで寒い。
今日のお客さんはそれほど多くなくて、十メートルくらいの間隔で立っている。狭くなるときは、二メートルくらいの時もあるくらいだから、今日は空いている方なのだろう。
島田と同じポンド(池)の岸に立っているものの、お互い気に入った場所でルアーを投げ始める。釣りの時間に入ったら、たまにお互いの場所を確認するけれど、基本的には自分の世界に集中してしまう。
管理釣り場の管理会社が変わって、ポンドに放流するニジマスの数が減っていたら、なかなか釣りづらい、つまり渋い状態になってしまうが、どうだろうと思いながら、十分もしない内にコツコツとルアーに当たる何かがあった。これをアタリがあったと呼んでいる。今は赤いメタリックのスプーンルアーなので、暖色系のルアーに魚が反応があるのかもしれない。
赤いルアーを使っていて、釣れるならそのまま続けるのが基本だ。アタリがあって、しばらく赤いルアーを泳がせる深さを変えていったところで、今日最初のニジマスがヒットした。魚がびっくりして、ヒューッと釣り糸が水面を走っていく。
最初のニジマスを釣り上げてからも、それなりの時間間隔で釣れるのが続いていたところに、島田が近づいてきた。
「今は赤がいいですね。何匹くらい釣れました?」
「そうみたいですね。とりあえず目標の五匹は釣れました」
「ちょっと一服しません?」
時間は午前十時を回っていた。太陽に当たっていると、寒さは和らぐけれど、それでも冬らしい寒さだ。自販機であたたかい缶コーヒーを買ってから、灰皿のそばで島田と話し始める。
「今日、終わって昼飯どうします?」
「特に考えてなかったんですけど... 」
「じゃあラーメンでいいっすか?」
「いいですよ。あ、もしかしてラーメン博の下見ですか?」
島田がニヤリと笑った。
「けっこう人気のある店らしいので、行ってみたいんすよ」
僕もラーメンは好きなので、断る理由がなかった。ラーメンまでは、缶コーヒーであたたかさを補給するかと思いつつ、聞いてみた。
「もう島田さんは企画書、けっこう書けてるんですか?」
「まだドラフトですよ。出展をお願いしたい店の選定とか、細かいところはこれからです。本田さんは?」
「僕もドラフトですけど、どれだけアイデアを盛り込んでいいいのか。そもそも蝶を生態展示できるか、専門家に今度、話を聞きに行くんですよ」
「アイデアの判断はチームプレイでするから、気にせず全部盛り込んじゃえばいいんですよ。後は、実際に蝶を飛ばせるかどうか...。 それは専門家じゃないと、なんとも言えないでしょうね」
やっぱり周りのアイデアを埋めるよりも、蝶が飛んでいる生態展示ができるかどうかを、早く聞きに行った方がよさそうだ。
島田がたばこを消して、釣り竿を持った。
「じゃあ、もういっちょいきますか」
「そうですね。あと五匹は釣ろう」
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