第5話 学級《ジャンル》によって人生のモードが違いすぎる気がするのは俺だけだろうか?



盛大に鳴り響く目覚ましの音を聞きながら、布団の中に潜り込む。


一つ忘れていたことがある。


俺は朝が弱い。すこぶる弱い。とにかく弱い。死ぬほど弱い。

何故人間は朝起きなければならないのだろう。

端的に言えば、気が済むまで寝ていたい。

気が済まないから土日を寝て過ごすことも間々あった。


と。


不意打ち気味な壁ドン。


もちろん、恋愛的なアレじゃなくて、本来の意味の壁ドン――隣の部屋の住人に思い切り壁を殴られたようだ。


たぶんおそらくきっと間違いなく、目覚ましの音のせいだろう。


でも、眠いんだから仕方がないじゃないか。

どうせあと10分くらい放っておけば、勝手に止ま


ドンッ


ドンッ


ドンッ


メキャッ


「!?」


聞きたくない音が聞こえた気がして慌てて布団から顔を出すと、


「!?」


のむこうに、どこかで見たことのあるような少女が驚愕の表情と共にあった。


まだ寝ぼけた頭をフル回転して思考する。


何だっけ、こいつ。


平凡な顔。平凡な髪色。平凡な髪の長さに、平凡な体型。

平凡が服を着て立っているような少女が――


「ああ! あの時の《予約投稿》娘!」

「は!? その言い方ひどくない!?」

「じゃあ、量産型汎用兵器?」

「ちゃんとオンリーワンの人間です!」


お、会話してたら目が覚めてきた。


「ってか、ここ、男子寮だろ。なんでこんなとこに……はっ!? もしやお前、男の娘……?」

「違うし! 女だし! しっかり女の子だし! 遺伝子レベルで女の子だし!」

「いや、信じられないね。何より、お前は胸が無い。つまり、男の娘である可能性を否定できない」

「え、ちょっとひどくない!?」

「きょとん?」

「その流れは前もやったでしょ!」

「しゅん……」


案外話しやすいなこいつ。


「わかったわかった、とりあえずお前は女だとして、じゃあ、なんで男子寮にいるわけ?」

「それ、あたしのセリフなんだけど!? なんでにあんたがいるわけ!?」

「いや、何言って」

「もしかして忍び込んだの!? この変態犯罪者! 今すぐ死ね!」

「だから違うってここは俺の部屋。ほら、ちゃんと俺の荷物だって運びこまれて……」


不意に目覚まし時計が目に入る。

時刻は8時15分。

始業式は、8時30分開始。

寮から学校までは徒歩10分で……


「「遅刻するじゃん!?」」


思わずハモる。


いや、ヤバイって。さすがに初日遅刻はヤバイ。

とりあえずさっさと制服に着替えて


「ちょ! あんた! いきなり脱がないでよ! 変態!」

「うるせえ今それどころじゃねーだろ!」


慌てて制服を着て、部屋の扉を開く。

角の部屋だから右手側は壁だ。

迷わず廊下を進んで外に出る。


ここまでの時間、わずか3分。

いまから走ればギリギリ――


「ちょ、ちょっと、あんた、待ちなさいよ!」


予約投稿女がこちらに向かって駆けてくる。

でも、特に待ってやる義理も無いし、無視して学院へ向けて走り出す。


「えー、ちょ、その、ひどく、ない?」


少女の徐々に小さくなる声だけが、虚しく空気に溶けていった。






さて、その後は特にトラブルも無く、無事学校に到着。

そのまままっすぐ体育館に直行し、適当な椅子に座る。

さっきの予約女はまだ来ていないみたいだけど、まあ、なんとかなるでしょ。


時計は8時28分を指し、ようやくほっと息をつき、周囲を見渡したところで、俺はようやくこの空間の異質さを実感することになる。


たとえば、すぐ前の席に座っている少女。

華奢な身体つきで黒髪は腰まで伸びている。

後ろ姿しか見えないけれど、大和撫子って感じだ。


これはまだいい。


その右隣に座る少女。

ボブカットで色素の薄い髪と、既にフリルで改造を施された制服。

そして、――。


左隣は、少女。だと、思う。

だって、なのだ。

正確にはアンドロイド? ガイノイド?

よくわかんないけど、とにかくどう見ても、人間じゃ無い。


その前にはもはや人間ですらなくて、

タコみたいな頭に、無数の触手。

ぬらぬらと光る鱗に、小さな翼――。

明らかに触れちゃ行けない感じの奴がいるわけで。


(なんだこれ、来る場所間違えたか? ここ、コスプレ会場か?)


などと自分を疑う方が楽だし早いでしょってことで、現実逃避をすることにする。

いや、もしかしたらこれは夢で、今はまだ布団の中にいるんじゃないか?

そもそも男子寮に女がいる時点で――


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ふぅ……あんた、女の子1人、置いてくとか、ひどくない?」


そんな望みはあっけなく崩され、隣に予約が座る。


「予約って……さすがにひどいでしょ……あたしにはちゃんと名前が――」


ザ……ザザザ――ザザザ――


不意にスピーカーからノイズが起こり、暗転。

時計を見れば30分ちょうど。

どうやら式が始まるらしい。

とりあえず背もたれに寄りかかって、話だけでも聞くことにした。




「……で、開始3分で寝てた、と」

「仕方ないだろ。朝苦手なんだよ」


気づいたら式が終わっていて、どうやら完全に寝落ちしていたらしい。

律儀に起こしてくれるし、こいついい奴だなー。

と思いながら、廊下をとぼとぼ歩く。


「で、これ、どこ向かってんの?」

「ホントに爆睡してたのね……」


ため息交じりに言われても困る。眠いんだから仕方が無い。

文句があるなら寝ないと駄目なように生物を設計した神様に言ってほしい。


たぶん右上の自分のIDが書かれたタブをプルダウンしたら

「要望を送る」

っていう項目が出るから、そこに言えばいいと思うよ。


とりあえず俺も神様に



====== 引用ここから ======


・作者がフォローされた

・作品がフォローされた

・☆がついた

・レビューされた


という、読んでくれた人からの何らかのアクションがあったときに、それを通知してくれる仕組みがほしいです。

イメージとしては、pixivの「フォローされた」「点数が入った」「ブクマされた」時に上部でアイコンが表示されるような形式。


あるいはtwitterでリプライを通知するドットを表示する形式のような、単純なもので構いません。


同様に、自分のフォローしている作家さん/作品が更新された時も、マイページのタブにドットを表示させて更新されたことを視覚的にわかりやすくして欲しいです。


我々アマチュアのモチベーションは、自分の作品に対して他の人からのアクションがあることなので、それが無いと徒労感があります。


表示非表示を自分たちで設定できるようにすれば、通知がひっきりなしでウザイという上位の人たちにも受け入れられるのではと思います。


ご検討、よろしくおねがいいたします。


====== 引用ここまで ======



って伝えておいたから。



閑話休題。



予子予約投稿子が言うには

「だからその略ひどくない!?」

これから俺たちの学級ジャンル分けが行われるらしい。


要するに、クラス分けを行うってわけだ。


学級ジャンルは全部で10個あって、


以組ファンタジー

呂組SF

波組ホラー

仁組現代ドラマ

保組現代アクション

部組恋愛・ラブコメ

止組ミステリー

知組歴史・時代

利組エッセイ・ノンフィクション

奴組その他(実用・ビジネス・詩・童話など)


に別れているらしい。


そして、それぞれの能力に合わせてジャンルが自動で決定して、在籍することになるとのことだ。


実際、さっきの黒髪ロングは部組恋愛・ラブコメにいるし、ケモミミは以組ファンタジー

アンドロイドは呂組SFで、謎の生物は波組ホラーに振り分けられたらしい。


そのほかのジャンルも個性豊かで、なるほど、確かに能力の適性を見ているのは本当らしい。

しかも、既にジャンル毎に順位があって、対応の格差も出ているようだ。



中でも波組ホラーのトップは明らかに1人だけオーラが違う。

持っている力の差が一目で分かるほど、抜きんでている。

他にも、別の有力な学院からダブルスクールで通ってそうな人や、

既に歴戦の強者の空気を醸し出す人間、

増殖し続ける横浜駅など、数え切れないほどの役者が既にそこには揃っていた。


何ともわくわくする、おもしろそうな学院だ。


ただ一つ気になるとすれば……ジャンルの偏りだろうか。



ざっと見ていくと、上位陣の分布は


波組ホラー以組ファンタジー以組ファンタジー呂組SF以組ファンタジー

以組ファンタジー止組ミステリー以組ファンタジー波組ホラー以組ファンタジー


だ(2016年3月4日02:00現在/アクセス数順)。


……明らかに偏りがある。


試しに上位100人の分布を見ると


以組ファンタジー:48

呂組SF:8

波組ホラー:8

仁組現代ドラマ:4

保組現代アクション:4

部組恋愛・ラブコメ:20

止組ミステリー:3

知組歴史・時代:0

利組エッセイ・ノンフィクション:3

奴組その他(実用・ビジネス・詩・童話など):2


で、その差は歴然だ(2016年3月4日02:00現在/アクセス数順)。


もう、この時点で知組歴史・時代には俺は行きたくないね……。

いや、逆に、知組歴史・時代でトップを取ればそれだけ倍率が低いとも言えるけど。

生憎だけど俺には知組歴史・時代の知識もないし、恐らく選ばれることは無いだろう。


それに、せっかく身を置くなら、人が多い以組ファンタジーか、

かわいい女の子が多そうな部組恋愛・ラブコメに所属したい。


そもそも今の俺の目標はことだからな。



ちなみに予子ヨーコはファンタジー所属だったらしい。

予約投稿だったらSFっぽいなと思ってたんだけど、まあ、ある程度幅はあるってことか。



で、ようやく俺の番が来た。


ジャンルの決定は、個室で1人ずつ行われるらしい。


扉をノックして常識人をアピールしつつ、部屋の中に入る。



――幼女だった。



背の高さは120cmくらいだろうか?

椅子にちょこんと座るその姿は庇護欲をそそるし、小さくて柔らかそうな手や、少し赤みがかった頬。

肩の辺りで切りそろえられた、少し桃色がかった髪と、犬を思わせるケモミミ。

完全に迷子の幼女がそこにいた。


こう見えて俺は、子供には優しいのだ。


もちろん性的な意味ではない。

もちろん性的な意味ではない。


さて、どうしたもんか。とりあえず他の教師でも呼んできて――


「おい、ガキ、お前で最後なんだからさっさと座れ」


妙に渋い声が部屋に響く。


はて、どこか見えてないところに教師がいるのだろうか。


手前テメエだ、そこのアホ面。さっさと中に入って椅子に座れ。殺すぞガキが」


なにやらえらく腹を立ててるっぽい。

慌てて部屋の奥に進み、幼女の隣の席に座る。


ついでに部屋の中を見渡すが、どう見ても幼女しかいない。

いや、待てよ。さては呂組SFの教師で光学迷彩を使ってるとか、波組ホラーの教師で実は幽霊とかそういうオチだろ。

ははーん、読めた。これは読めたわ。

ネタが分かってしまえばしめたもんだ。恐れるにも値しない。


「んで、俺のジャンルもいいけど、まずはこの幼女、ちゃんと返してやれよ」

「いきなりタメ口とはいい度胸だな手前テメエ。誰に向かって口きいてんだ? あ?」

「いや、先生こそさすがに脅しすぎでしょ。もっと友好的に行きましょうよ友好的に。ほら、まずは姿ちゃんと見せてくださいよ」

「あ? 何言ってんだ手前テメエ。ちゃんと手前テメエの目の前にいるだろうが。その目は腐ってんのか?」

「そっちこそ、光学迷彩だか幽霊だかわかんねーけど、ちゃんと姿くらい現すのが礼儀ってもんじゃないんですかー? いい加減にしてくださいよー」


あえて煽ってみる。どうせジャンルが決まればおさらばの関係だ。俺は呂組SFでも波組ホラーでも無いだろうからな。


とんとん


不意に膝が叩かれる。

視線を向けると、いつの間にか幼女が立ち上がり、俺の膝を叩いていた。


……なんだこのかわいい生物は。


しかもこちらに向かって両手を伸ばし、まるで抱え上げて欲しそうにこちらを見上げているのだ。


繰り返して言うが、こう見えて俺は、子供には優しいのだ。


もちろん性的な意味ではない。

もちろん性的な意味ではない。

もちろん性的な意味ではない。


これは幼女の方から求めてきた行為だから合法なんだ。大丈夫。俺は悪くない。まだ何もやってないんですおまわりさん!


そう心の中で唱えながら、幼女を抱え上げる。


想像以上に軽い。そして、やわらかい。いい匂いもする。なんだこれ。生物兵器?


とりあえずそのまま抱きかかえ、膝の上にのせる。


幼女は嬉しいのかこちらを見て、天使のような微笑みで笑いかけてくる。

そして小さく口を動かして――


「おい、目は覚めたかガキ。目の前にいるって言ってんだろ、殺すぞ」


俺は意識を失った。







いや、失ってない。失ってないよ。大丈夫。

ちょっとびっくりしただけだから、大丈夫。

うん、大丈夫。うん。


なんとか心を落ち着けようと深呼吸。


オーケー。オーケー。

状況を整理しよう。


つまり、今この膝の上にいる幼女は飛び級教師で、口が悪いのはそういう教育を受けたから。

うん。これだ、この設定でいこう。この設定なら大丈夫。この設定ならまだ舞える。


「400超えた男を捕まえて何言ってんだ手前テメエ。殺すぞ」


はい。男の娘でした。ショタジジイでした。

こんなところで朝の伏線回収いらないんだけど……。



「てかよ、さっさと終わらしてえんだわ手前テメエジャンル決め。無駄に5000文字近く使いやがって」

「はい、すみません」

「んだ? いきなりしおらしくなりやがって。さっきまでの覇気はどうしたよ」

「はい、すみません」

「……」

「はい、すみません」


ダメだなこりゃ。と幼女(そう思い続けないと精神が崩壊しかねない)はため息を吐き、


「ま、お前の能力だったら、利組エッセイ・ノンフィクションじゃねーの」

「はい、すみま……は!? え、ちょ、ま、利組エッセイ・ノンフィクション!?」

「んだよ、文句あんのかガキが」

「いやいやいやいや、ちょっと待って、どう考えても俺は利組エッセイ・ノンフィクションじゃないでしょ」

「あ?」

「だって、え、利組エッセイ・ノンフィクションの要素無くないっすか? ほら、俺、異能バトルとかしたし、完全に以組ファンタジーでしょ!?」

「おい、手前テメエ、とりあえず、ここまでの、転生してからの生活を思い出して見ろよ」


思い出すったって……


稿。しまいにゃ稿?」


ぴょんと膝から幼女が飛び降り、


手前テメエ、どっからどう見ても、利組エッセイ・ノンフィクションじゃねえか」

「いやだあああああああああああああああああああああああああああああ」


確かに、確かに、確かにその可能性は感じていた。

別にエッセイが嫌いなわけでも、見下しているわけでもない。

実際に日本にいた頃は、エッセイやブログを読んで、すげーなとか、憧れたり、羨ましかったり、爆笑したりしてた。

実際こっちに来てからの生活は、明らかにファンタジーとかじゃなくて、エッセイというかブログというか、そういうもんじゃないかっていう疑惑を持ってはいた。


でも、

でも、

でも、それを他人に言われるのは。

それを他人に指摘されるのは。

他人にジャンルを決めつけられるのは、

それを押しつけられるのは、


「それだけは絶対に嫌だ!!!!!!!!」


気づいたら立ち上がっていた。

強く握りしめた拳が痛いのも、気づかないふりをした。


「俺の物語人生は俺のものだ! それは他人にどうこう言われて変わるもんじゃねえ! 俺は俺が決めた道を信じる! 俺は俺が切り開く未来を信じる! 未来に綴られるであろう物語を信じる!」


だから


「だから、俺の物語ジャンルはファンタジーだ! 未来に繋がる無限の可能性だ! 俺の人生ジャンルをお前らが勝手に決めるな! 俺の人生ジャンルをお前らが勝手に規定するな!」


俺は、俺は、


「俺は、んだ――――!!!」


叫びきって、肩で息をする。

この前のバトルなんて相手にならないほど、疲労を感じていた。

自分の存在を消されるかのような、恐怖を感じていた。


不意に――


低い笑い声が部屋に木霊する。


気づけば幼女が楽しそうに笑っていた。

よく分からないが、つられて俺も笑った。

急に肩の荷が下りた気がして、なにもかもがどうでもよくなった。


「おい、ガキの分際で、おもしれえ啖呵を切ってくれたじゃねえか」


どっからどう見ても幼女にしか見えない顔に満面の笑みを浮かべ、


「んじゃ、とりあえず手前テメエ以組ファンタジーだな」

「え……」

「あんなでけえ啖呵切ったんだからよ、せいぜいすぐに潰されるんじゃねえぞ」

「そ、それじゃあ」

「ああ、正式に以組ファンタジーに登録してやるよ。明日からは以組ファンタジーの教室に行け」

「あ、あ、あ」

「あと、以組ファンタジーは遅刻厳禁だから、遅刻したら覚悟し」


「ありがとうございます――」


思わず頭を下げていた。

何に対する感謝なのか自分でも分からないが、それでもとにかく、礼を述べたかった。


幼女はきょとんとした表情でこちらを見たあと、顔に似合わない表情でにやりと笑う。


そして――


「ああ、わかった。そういえば挨拶がまだだったな。俺は以組ファンタジー担任の――」



そこで俺の意識はブツリと途絶えた。


現実逃避とも言う。







【次回予告】

ついに以組ファンタジーに配属が決まった俺。

以組ファンタジーなら人数も多いし、理想のヒロインが見つかるかもしれない。

そんな期待を胸に教室に向かったのだが……?


第6話 『「レビューは一度書くと、二度目を書くことができない。それがどういう意味か――わかるな?」(仮)』

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