アウェイ

 金さえあれば何でもできる。世の中そんなものだろと言ったあの人の仮面を継いだ。

今回は一風変わった中立視点からからの話。

中立派、通称ユニオンという組織がある。

この組織は裏、表どちらの社会にも属さず、金さえ払えばどんな汚い仕事にも二つ返事で受け入れる。

プライドも減ったくれもない商人の集まりだった。

ユニオンの拠点は旧フランス共和国のフランシーヌ王国にある。

第三次世界大戦が終わり共和政治の限界から王政復古の大号令として立ち上がった国だ。

王の候補として挙げられたのは当時の大統領、第三次世界大戦で最も軍功を上げた陸軍大将さまざまな功労者が名乗りを上げたが表社会が選んだのは全く関係ない政府の回し者だった。

これによりおこった内乱を俗称、トリコロール戦争と皮肉っていうのだが今回はこの話は割愛しておこう。


 ユニオンの実質のリーダーは英(はなぶさ)だが彼はブリタニアにいるので不在の間、次席のギルソンが指揮を務めている。

ダークブラウンのくせ毛となきぼくろがチャームポイントと自称している。

彼の本職は怪盗だが副業で殺しと諜報を兼ねている。

仕事はきっちり金を払われた分そつなくこなすが彼の性格上、女性に目がないので見境なく口説き時間ロスして失敗に終わることもしばしばだ。

そんなちゃらんぽらんな彼を支える相棒はエリックと呼ばれる帽子を深めに被った青年だ。

彼はシャイでリアリストな青年だが面倒見がとてもいい青年なので二人は釣り合っているのでペアを組んでいる。

今日も彼らは夜明けと共に仕事が始まる。

場所は新パリ市街の美術館、ターゲットは王位継承の勲章だ。

「ハァイ、待ってろよ。お宝ちゃーん!」

真正面から殴りこもうとするギルソンの首根っこを掴み静止するエリック。

「・・・馬鹿か、これだけのサツがいるのに突っ込んでいく気か貴様は。」

エリックの言葉にも一理あるが恐れを知らない彼には無駄な言葉だ。

「わはは、敵を前にして腰が抜けたか相棒?大丈夫、手立てはある。」

根拠のない地震に突き動かされている相方の案を仕方なしに聞いてみる。

「それで、打開策は?」

ふ、ふ、ふよくぞ聞いたなと何やら自信満々にウィンドウを開いて美術館の見取り図を開くギルソン。

「まず、この下の下水道から館内のトイレを目指す。」

唐突過ぎる打開案に頭を抱えながら普段より饒舌に反論するエリック。

「おいおい待て待て、ちょっと待ってくれ。トイレから侵入する気か?」

正気かと肩を掴み揺さぶるとギルソンは拗ねたようにエリックの手を振りほどき背を向ける。

「ふん!俺の名案を受け入れられないなら勝手に警察に捕まってくさい飯でも食ってろ

。大体ほかに進入路はあると思うか?上には無数のドローン、下にはサツと銃殺用のアンドロイド、これをかわしきって中に入って勲章を盗み出せたら極楽のじい様が腰を抜かすぜ。」

興ざめだなんだかんだわめく子供のようなこいつを黙らせて何とか下水道を通らずに進入できないか考えて小一時間、いまだ策は出ない。

うんうん唸っているとギルソンが唐突に手叩き何か言いたげにこちらをうかがってくる。

エリックはため息を漏らして、問うた。

「よくぞ聞いてくれた!我々の職業はなんだねエリック君。」

突然口調の変わった相棒を余所にあらぬ方向に目を向けるエリック。

これはろくな考えではないなと諦め半分にこたえると

「そうであろう、そうであろう我々は怪盗だ。誇り高い戦後怪盗、ベンジャミン・メスリーヌの血筋の俺がいる限り不可能なことはない。それでだ、怪盗のイロハで思い出したんだが変装という手だてを使って侵入することはどうかね?」

パチコンと音が鳴りそうなウィンクをして戦後怪盗の孫のそのまた孫の子孫怪盗さま様がご高説を高々におっしゃる。

そうだ、なぜこの単純な手立てを今まで忘れていたのだろう。

この馬鹿に言われるまで気づかなかった自分を殴りたい。

そうとなれば話は早い、小型プロジェクショングラフィを起動する。

アンドロイドに化けると行動に制限が出るので仕方なしにサツに化ける。

「ホラこれで完璧だろ。」

手鏡を手渡すと満足そうにうなずくギルソン、こうしていればちょっと幼い気もするが案外素直でいいやつだと思う。

「むー、俺はもうちょっとイケメンだと思うんだが・・・。」

訂正しておこうこいつはどうあがいてもナルシストだ。

「ホラ、行くぞ。」

屋根から音もなく飛び降り、警備員と紛れる。

中に入るのは簡単だった、声紋認証と脳内チップのID照合たったそれだけ。

どちらもシステムにハックをかけてエリックが誤魔化した。

こういう細かいことは律儀にやる小賢しい奴だから敵には回したくないと冷や汗をかくギルソンだった。


 一方、ユニオンのリーダーはというと壊滅状態のブリタニアにて貴族と商談をしていた。

相手はこの国一の曲者と称される元老議員、ロベルタ・バーナード彼ほど口が回るものはこの国にいないといわれるほどの厄介者である。

そんな厄介者が中立派ユニオンの長に頼みたいこととは

「単刀直入に言おう。私を次の国王選挙で勝たせてくれ。」

ロベルタの言葉におかめの仮面が歪にゆがむ。

「あはははは、バーナード氏、それを本当にお望みなのでしょうか?貴方はアベラール団長を浅ましく求めて隣に並びたいがために国王になるつもりでしょう?」

図星を突かれたのか顔を真っ赤にして声を荒げて反論にかかるバーナード。

「貴様、それでも商人か!

人の情報を弄ぶなんて商人の風上にも置けないやつめ。ええい誰か!こいつを八つ裂きにしろ!」

どこからともなく現れる殺戮用アンドロイド、だがこんなものは相手ではないと一瞥したのち、優雅に仮面をしたまま出されたコーヒーをすする。

そのことに余計に腹を立てたのか一斉射撃のコマンドを打つ。

弾がなくなるまで撃ち続けるアンドロイドその弾道を擦れ擦れで避けながら一体一体律儀に壊して回る。

壁がハチの巣になり、ガラス張りの窓は粉々に砕け散り、廃墟と化した部屋を一瞥し英は吐き捨てた。

「だから無意味な攻撃はやめたほうが身のためだと最初の取引で忠告したのに。これで確か3回目でしたっけ?まあええですわ。金さえ払ってくれるなら味方になりましょ。

足取りは非常にゆっくりなのに妙な威圧感のある英にロベルタは立ちすくむ。

「だんまりですかぁ?日ノ島にはこんな言葉がありましてなぁ・・・時は金なり、意味はそのままですよ。さぁ私が何を言いたいかわかりますね?」

冷や汗がたらりと背中に伝わる感覚が気持ち悪い。

ここで引いたら一巻の終わりなのだろうか?

だがほかに手立ては思いつかない。

震える諸手を挙げてロベルタは降参した。

「こ、降参だ。ミスター英、貴方にいくら払えば国王の座に就けるのだろうか?」

そんな間抜けなロベルタの目の前まで英は移動しクスクスと笑う。

部屋には壊れたアンドロイドの残骸と人間二人、笑い声だけがやけに響いた。

「ははは、これは傑作、傑作、命でもとられる覚悟をしていたのかな。いやはや、面白いかただ。殺しはしませんよ。大事なビジネスパートナーなんですから。

さていくら払っていただけるのでしょうね?」

そっとロベルタの目の前に差し出される英の手が地獄への片道切符のようで怖い。

だがここで断れる立場でもないので重たい口を彼は開く。

「10億ドルでどうです?」

恐る恐る伺うと英は顎に手を当てうーんと唸る。

「まあそれはそれとして、勝てるかどうかわかりませんがちょっと頑張ってみましょうかね。仮契約ということで手を打ちましょうか。」

ロベルタは英の手を取り立ち上がった。


 ユニオンが動き出すとき、新たな世界が広がる。

水上を移動中の要塞の窓からネネリーが顔を出して年相応の笑みを浮かべる。

「ねぇみて!見えてきたよ。ネロ!」

それを横目にネロは静かにネネリーの背後に近寄る。

「そう急くな。王国は逃げやしない。観光は目的達成の後だ。」

ネネリーを諭すとネロは遠くの島を見据えて呟いた。

「ひと悶着ありそうだなこの場所は・・・。」

はたして彼らの運命は蛇の道かいばらの道か?

それは三者三様の答えだろう。

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