アンダコニスト

ネロの手を取り、彼のアジトへ量子転送されたがすぐに戦闘態勢に入る事態と成ってしまった。

それは騎士団長が俺の帰還が遅いのを不審に思い探りに出たらしいその探りに乗じてネロたちも動き出すらしい

転送機の入り口には彼の仲間らしき人々が既に集まっていた。

「帰ってきて早々だが、敵が動き出した。

シゲ、此処の防衛を頼む、タカ、ラーニャは戦闘準備。

そして、聞こえていると思うがノインは同時に指揮を頼む

ネネリーはボクに付いてこい、ジーク、仲間になって災難だが君に重役を任せる今後の信頼のためにな。」

とニヒルに笑うネロを横目に黒髪の少女が割って怒った。

「ちょっと!ネロ!なんでこんな信用もない奴にアレを任せるつもりなの?」

ネネリーと呼ばれた少女が声を荒げてネロに講義したがネロの有無も言わせない眼光でひるみ押し黙ったが振り向きざまに俺を見た瞳がネロの邪魔をするなら殺すと物語っている。それに怯むこと無く彼らの後に付いていった。

 転送機に再び乗り込み、意識を持って行かれる

意識が覚醒したときは玉座の間の前で異様な威圧感が場に居る全員を支配する。

だが何事も無かったようにネロだけがトビラに近づき仕組みを探っていた。

「ふむ、どうやら量子ベクトルパズルとハーキンスの定理を使った施錠のようだな。

これくらいならネネリーでもできるだろう。やれ。」

ネロが振り向いた瞬間、天井から黒ずくめの暗殺部隊が俺たちの周りを取り囲み

更に分が悪いことにネネリーが人質にされてしまった。



 一方で残りのOBJECT構成員たちはと言うと

水陸両用戦車の中で各自、戦闘準備をしていた。

「ノイン、敵は自立型戦車と自国の民を洗脳して歩兵にしているのは知れたこと

さて小生たちはどう動く?」

脳みそが入った容器にゆっくりと近づきながら重遙が呟くと薄紫色の髪の少年が現れた。正確に言うと、ホログラフィーの映像なのだがこの少年は脳みそだけで生きている。

名はノインわずか9歳にして数学博士号を取得した天才の脳みそがオブジェクトの目と脳なのだ。

彼は考える振りをしながら目を伏せ、ブリタニア国中の情報を有るだけかき集める。

 そしてゆっくり口を開いた。

「民の歩兵も人工知能の戦車も恐くないよ。だけど脅威なのは騎士団長がここに単騎で乗り込んでくることだよ。幾ら、剣術と頭脳の勇があるシゲでもあっても精々時間稼ぎしかできないだろうねぇ。戦車と歩兵は僕とラーニャお姉ちゃんに任せてシゲとタカは外で騎士団長様々を足止めしてくれない?絶対にこっちから仕掛けたら不利になるだからくれぐれも待ち伏せしててねぇ」

ノインが言い終わるまでに重遙と芳孝は既に外に出ていた。

そのやりとりを見ていたラーニャが溜息混じりに呟く。

「全く、日ノ島人ってせっかちなのかしら

さて、アタシは何をすればいい?」

「他のオブジェクトメンバーに通達してもしもの時の援軍要請と重力弾頭転送お願い

僕はその間に、ジャミングを国家サーバー中に掛けるから・・・ってもう?

ブリタニア国軍が来てる!お姉ちゃん、重力弾頭はいいから援軍要請だけして!」

地響きをならし車体内が半分傾いた事が解り瞬時にノインが防御態勢婦プログラムを起動させる。

敵の攻撃は止むことはない。それでも動じず、援軍要請をした上で重力弾頭を自動配備し、反撃にかかる。

ドォンと鈍い音をさせて発砲した後、量子ウィンドウを開き、様子を確認すると共にノインがブリタニア国中の回線をストップさせた。

「さて、奴らはどうなっている事やら、後は特攻部隊長様々にお任せだねぇ。ところで重力弾頭の種類は何撃ったの?」

「S型008弾、一番手っ取り早いでしょ」

「うわぁえげつないことするねぇお姉ちゃん。」

S型008弾とは重力因子の弾頭でありおおよそで成人男性の体重分の重力を半径8km範囲内で発生させる弾頭だ。

二人が見つめる画面の先には重力弾頭により反重力灯が無い者たちは重力に押しつぶされ、あちこちあり得ない方向に関節が曲がっていたり押しつぶされたことにより人型のクレーターができていたりの地獄絵図の中に二人の侍と緑髪の小柄な騎士軍服を身にまとった女が立っていた。


勇ましく領民歩兵を携え南西廃墟に止めてある戦車に近づいてくる軍団を暢気にあくびをしながら待つ二人の侍がいた。

「ふぁ~あ寝そうです。全く、正義面の奴らのやることはのろまですなぁ。」

「敵は正義という大義名分を振りかざす。だからこそ遅かれ早かれ悪は滅びると言うことを態度で示しているからであろう。それと、寝るな!」

寝そうになっていた重遙の脳天を鞘で思い切り殴り、敵の方を見やると砲弾がこちらに迫ってきている。

 慌てて重遙を連れ躱そうとしたがやつは既に刀を抜き砲弾に突っ込み、真っ二つに切り裂いた。

着地後、味方の戦車から空砲を食らったが恐らく重力弾頭だろうと動じなかった。

暫くするとドミノ倒しのように民兵や重力灯のない騎士兵が倒れていく

総崩れを予想していたが倒れたのは前線だけで後衛はしぶとく残っていた。

溜息をつき、獣のような叫び声を上げながら敵の大将に特攻を掛ける馬鹿を横目に拙僧は仕込み刀に手を掛け、相手が斬りかかってくるのを受け止める。

相手はざっと見て50人程度だろう、拙僧はあまり肉弾戦は得意ではないだからどうするべきか躯より頭が先やに動く、敵の攻撃をなるべく受け流し守り一手に集中する。

攻めには転じないそう、拙僧の役割は囮でありあくまで総大将を倒すため特攻を掛けてる奴のお膳立てをするのだ。

だがやはり辛い、幾ら相手の得物を躱し、受け流そうが剣や銃弾をかわしながらの防戦は限界が来る。足がもつれて地に伏せたその時、拙僧を襲った民兵が糸の切れた傀儡のように白目をむきながら倒れた。

 リバウンドだとすぐに確信した。過度な脳統制で身体能力以上の力を引き出し統制するそれがこの国のやり方、精神を鍛えられている兵士ならまだしも一般人は脳のドーピングには無理がある。おそらく。相当強いドーピングを施したのだろう、このまま放っておけば死者が出るだろう。だが敵に情けを掛けるほど拙僧は


 重力弾頭が放たれた直後、小生はなりふり構わず叫び声を上げ、敵を切り伏せながら一直線に緑髪の騎士団長の下へ斬りかかった。

だがいとも簡単に鞘で受け止め、横へ薙ぎ倒された。

その状態から転がり足下をすくおうと薙いだら、足で踏んで防がれた。

ハッとして上を見上げると日本刀を振りかぶり、得物を貪らんとするハイエナのような笑みを浮かべるブリタニア国騎士団長が居た。

すぐさま刀を捨て後ろへ飛び退き、腰に差していた脇差しを抜き、前に向き直ったらあっという間に距離を詰められて下から抉るように剣戟を受けるが咄嗟に横に転がり躱した。

すると彼女は後ろへ退き小生の刀をこちら側に蹴りつまらなそうに呟いた。

「あーあ、何で素直にやられてくれないんですか

全く、これだから賊軍は面倒なんですよっと!」

呟いているうちに小生は脇差しで胸を狙い、突こうとしたが読まれていた。

「話の途中なのに、まあ良いです。

今の私は最高に怒っています、ええそれはもう、最大の怒りをぶつけても収まらないくらいにね。

私情を挟むのは良無いと思っていますが部下を拉致したのは貴方達でしょう?

何となく解るのです。貴方達の目的。彼の遺伝病は確か・・・不死身、だからこそどの国もどの組織も彼の遺伝子を欲するのは何度かあったのですそれで貴方達はどこの国差し金ですか?嗚呼、それとも彼の遺伝子を独り占めしたいのです?人間、幾ら技術革新をしても不老不死には成り得っこない、だから、仮初めの永遠を得る技術ばかりが発達していく、のにもかかわらずたった一つの遺伝子で死を克服しただからこそ彼の遺伝子はどの国にも渡してはいけない命令が下されていますからね・・・っと。」

間髪入れずに攻撃を仕掛けているのに余裕の表情で小生の攻撃をひらり、ひらりとまるで蝶のように躱し、急所を敵意を持った蜂のように刺す。

だがこちらも負けじと脇差しで攻撃を仕掛けるが太刀と脇差しでは差があり過ぎて間合いがとれない、一端後退し自分の若刀を取りに行くかと考えたが後ろには芳孝殿が必死で闘っている。もし、今後ろに下がったら芳孝殿と共倒れになる。それだけは御免だと思い、最終手段を使って相手を飛び越えて後方へ周りそのままなぎ払う!

反応が遅れた相手は背中に一撃くらいその場にうつ伏せに倒れたが手応えは軽い、おそらく軍服に何か織り込んであるのだろうしぶとい奴だ。

「ふう、軍服に金属粒子を織り込んでいなかったらバッサリ切られていましたよ。いやはや、やりますね貴方、名前は?」

彼女は背中をさすりながら何事も無かったかのように立ち上がりさらには挑発もしてくる余裕があるらしい。

「フン、小生は敵に名乗るほど落ちぶれた剣士ではないので。嗚呼、でも貴方の太刀筋は認めようぞ。それは、我が故郷の日照剣術ですな。」

そう、先ほどから彼女の斬撃には癖があるが小生の方と酷似した所がある。日ノ島は第三次世界大戦前に内紛が起き、武器所持を余儀なくされたがその時にか弱い女子供でも戦えるようにと派生した流派が日照院蔵雪の剣術だった。

「ええ、そうですよ。日ノ島に旧友が居るのでこの太刀も剣術もその友人からもらったものですけどね。それと、貴方もやはり遺伝病もちでしたか、その身軽さはさしずめ、重さか重力に関係しているようですね。今度はこちらから行きますよ!」

前のめりの体勢で刃先を突いてきたので軌道を逸らすために刀身に空気圧を込め弾く、そう小生の遺伝病能力は圧力を自由自在に操ること。それをたった一撃で感づいた。やはり、あなどれんなと思いつつ斬りかかってきた彼女を受け止め鍔迫り合いの状況で探りを入れる。おそらく彼女の緑髪は遺伝病による影響だろう。ごくまれだが遺伝病には通常の色素配列とは違い、人間には到底出てこないような髪色や目の色を持つ人物が産まれてくる事もある。特殊能力と引き替えに才能を発揮し、地位と名声を得る者も居れば小生達のように居場所を追われる者も居る。同族だからこそ能力さえ干渉すれば一発で解るはずなのだが相手は中々能力を発現させない。ずいぶんと舐められたものだと溜息をついて剣戟を続けた。すると彼女はそのことに激高したのかついになりふり構わず荒っぽい懺悔期に変わったが先ほどのお行儀の良い型にはまった剣技ではない、野蛮で狡猾で得物の肉をえぐり取り、骨をも絶つまるで獣の牙のように鋭い平突が確実に頭を胸を襲う。横薙ぎに相手の剣を無理矢理止め、鍔まで近づく、ギチギチと嫌な音が耳元で聞こえるがかまわず小生は相手の足場に蹴りをお見舞いする。相手はよけようとし一瞬除ける隙に頭突きを思いっきり顎に当たり、相手はあっけなく倒れた。顎に強烈な振動を与えるに事により、脳震盪を狙ったのだ。

「はぁ・・・はぁ・・・勝負ありましたな。」

息も整わないまま、芳孝殿の加勢にとふと振り向くと



一方、戻ってロウェーネ城内はというと

ネネリーが人質に取られているのにネロは余裕の笑みで上を向いてこう言い放った。

「見ているんだろ、ブリタニア国、ロウェーネ12世女王!だが甘かったな。うちのネネリーはこんな雑魚兵ごときに人質に取られるような奴じゃない!」

瞬間、ネネリーを拘束していた兵士が股間を押さえながらその場に崩れた。

涼しい顔をしながらネネリーはその兵士にかかと落としをうなじに容赦なく落とした。

「ふぅ、レディーを口説くならいきなり抱きしめるなんて言語両断だよね。それで、ネロ此奴ら殺しちゃっても良いよね。」

有無を言わせない少女の瞳が獣のように歪み細められる。それと同時に暗殺部隊は暗記を片手に一斉にネロ達めがけて飛びかかったが、ネロが右手を軽く挙げるとネネリーが瞬く間に暗殺部隊ののど笛をかっ斬った。血しぶきが花びらのように舞い、頭からかぶって真っ赤に染まる。

辛うじて急所を外れた奴が立っていたが暗殺部隊用の覆面がすっぱりと割れ、顔があらわになって、ジークは驚愕した。なんとそこには親友のロビンが得意げな顔をして立っていたのだ。

「よぉジーク、否、今は化け物って呼んだ方が良いか?まあともかく、女王から直々にお前は生け捕り命令が下されてる。だから此処でちょっと眠っててくれねぇか?」

「な・・・生け捕り命令って。どういうことだよ!」

動揺して剣を抜けず立ちすくむ俺の背を押してネロはロビンの暗器を胸に隠し持っていた拳銃の銃身で受ける。そしてネネリーに目配せをし、ネネリーは扉の前までジークを引き摺った。

「いってぇな!何するんだよ!」

「言ったでしょ!足を引っ張るなって!此処であんたが捕まればネロの計画はパーなの。だから死んでも意識飛ばさないで彼奴らに捕まらないように逃げてあんただって目的があるからネロに着いてきたんでしょ?」

その叫びがジーク自身の怖じ気づいた闘志に火を付けた。

思い出せジーク・ベッセル、お前は何のために此処にいるんだ?

俺の親父が消えた真相を知りたい

国に逆らっても?

そうだ

どんな犠牲を出しても知りたいか?

嗚呼、今の地位に甘んじて幸せに生きているよりはマシさ。

母親を悲しませても進むのか?

真実を知りたい、それが俺の意志だ。

なら答えは出ている。

ジークは抜刀し、戦友に切っ先を向け、声高らかに宣言をした。

「俺は全てを知りたい。親父のことも、この世界で今、何が起こっているのかもこの目で見てみたい。何時までも自分の地位にあぐらを掻いて安全圏にいるよりはマシだ!」

するとネロはジークを背にネネリーに向き合いこういった。

「ほぅ、面白い。やるからには殺せ。それでボクは君を信じよう。そうしたら君は晴れて裏社会の一員として歓迎しよう。」

ネネリーは無言で玉座の扉を解除してネロのスーツの裾を掴んで急かす。

ネロはジークの方を一瞬だけ見てフッと笑った。

「嗚呼、俺は意地でも捕まらないお前らも死ぬなよっと!」

斬りかかって来るロビンを受け流し、間合いを取りながら体制を整える。ロビンの暗器はかぎ爪のようにグローブに刃物が数本着いているような形だ。刀身は目測で30㎝強、近寄ればかっ切られる。だが不死身の俺には死にはしないだろうが再生までの時間で捕らえられる。分が悪いことに飛び道具ではないしこちらのレイピアは刀身が細いため平突きしか殆ど攻撃ができない。辛うじて受け流すことはできるが、真っ向から攻撃を仕掛けるとこちらが不利だ。だったらどうする?剣戟を躱し、受け薙がし、突破口がないか必死に目配せをする。

ふと思い出したことがある。ロビンと俺は同じ見習いの頃、寄宿舎の森へ忍び込み、狐狩りをしていた時のことだ。武器はボウガンと腰に下げた古いレイピア些か不安ではあったが恐れを知らない俺たちは未知と畏怖に溢れた森の中を立った一匹の狐を探すために踏み入れてしまった。

力はあるが猪突猛進な俺と冷静沈着で武功よりも知略で戦誉をとるロビン二人でいれば何でもできるそう、思い上がっていたころだった。

いつものように俺が狐を追い立てて、ロビンが仕留めるという段取りで狐を追い立てている中、ふと追い立て地点を見るとロビンが蹲ってうめき声を漏らしているのを見た。狐を追い立てるのをやめてロビンに近寄ったら脇腹を押さえて血だまりの中で動かないロビンと大型犬くらいの大きさの子オオカミの死骸がありおそらく襲われたが何とかボウガンで討ち取ったようだった。

このままでは不味いと思い止血もそこそこ森を抜け、騎士団医療病棟へBRNで連絡し、救援を待った。その後森へ行ったことがバレこってり絞られたがロビンは無事回復したが狼に噛まれた後遺症で脇腹を真っ先に庇う癖ができている。

そう思い出し、必死に脇腹を攻めるのだが如何せん俺の攻撃パターンは修練の時に全て手を読まれている。だったらどうするべきか、考えあぐねている暇はない。

ふと自分自身の体の特性を賭けてみてはという考えが過ぎった。再生する時間は解らないが意識を飛ばさないくらいの傷を負うリスクは賭けられるそう決意したら強張っていた躯は自然と動いて深々と太ももに相手の暗器を刺させた、激痛が走り、悲鳴が上がりそうになるが唇を噛み耐え、至近距離から防御できずに刺されることに驚愕しているロビンの胸を刺した。

地面にロビンの体が叩き付けられる前に抱き寄せ、武器の刺さっていない足で踏みとどまる。

「悪いな、ロビン、俺はもう、お前を殺しも、たとえ団長を裏切ることになってもこの世界に疑問を抱いてしまったんだ。生かされるよりも自分で生きることを望んだ。それが俺とお前の違いだ。」

そうきっぱり言うとロビンは口から血を吐きながら笑った。

「そうか・・お前は進むのか・・・殺されたって言うのに何でだろうな・・・心のもやもやが無くなったみたいだ。嗚呼、ありが・・・とう・な・・。」

実に穏やかな顔だ。支配されている今のブリタニアの中で解放されたような死に顔だった。ゆっくりと友人の亡骸を横たえて、ジークは扉の奥に進んだ。


 一方、玉座の間に侵入したネロ達はと言うと、大蛇のようなコードに繋がれた電解質の液体に満たされた大型培養器を見つめていた。

ネロはまるで旧知の仲の友人にように培養器具に入った脳みそに語りかけた。

「やぁ、久しぶりだな。ブリタニア国女王、ロウェーネ・フリディア。

何時ものように侍らせは居ないようだな。嗚呼、気を悪くするなよ。ボクは話し合いを死に来たんだからさ。」

培養器具の液体が女王の怒りに呼応するように激しく泡を立てる。

《お前が言うか!我が国を土足で荒しおって唯で済むとは思うなよ、ドブネズミが!さあ出番だ!》

女王の合図と共にどこからともなく醜悪なキメラがネロとネネリーを取り囲んだ。呆れたようにネロが笑い飛ばし言い放った。

「ハッこれがお前の言ってたペットか?愛玩用にしてはいささか醜悪で愛嬌に欠けるな。かといって護衛にしては心許ない。いやはや、肉体を無くし、何時までも生き恥をさらす化け物の考えは理解できないな。ハハハ。」

笑い転げてるネロを横目にネネリーは獲物を見つけた獰猛類のように目を光らせネロに戦闘許可を強請る。

「ねぇ、殺って良い?今、ネネは貶されたことに怒ってるんだぁ。」

怒りで我を忘れ今にも敵陣に突っ込もうとするネネリーを片手で制してネロは前へ出た。

「そこで待ってろネネリー。大人しくしていれば褒美をやらんことでもない。」

「ぶーいっつもそればっかり、解ったよ。自分の身を守りながら大人しくしているよ。」

その言葉を最後にネロは懐からPC356を出し踏み出した。

《武器が銃の癖に接近戦を望むか。馬鹿め。》

「馬鹿はどちらだ?」

そうネロが呟いた瞬間、発砲音が響き、数体のキメラの絶叫と巨体が倒れる音が部屋中に響いた。血のような赤黒い液体が飛び散り、ネロや近くにいたネネリーを汚すがそれには目もくれずネロは気が狂ったように明後日の方向に銃口を向け発砲する。だがその弾丸は必ずキメラを数体殺しているのだ。

女王はそのことに初めて路の恐怖に駆られた。それもそのはず、唯の不老の人間が拳銃一丁で自分が鍛えたはずの最強の兵器を倒しているのだから。

《有り得ぬ!断じて有り得ぬぅぅっぅぅぅぅぅ!》

女王の絶叫に笑みを深くしネロは最後の一体を足蹴に脳天をぶち抜いた。

「やれやれ、種明かし擦るのも億劫だが仕方がない、暇つぶしにしてやろう。なぁに簡単なことさ。ボクがやったのは銃弾を跳弾させて後は自分に当たらないように良ければいい。唯それだけのことだ。因みにネネリーの場所は跳弾させにくい安全地帯だし、もし流れ弾が来たとしても流れ弾に当たるような間抜けはオブジェクトに要らないからな。

さて、交渉に移ろうか、このままボクに無様に殺されるか、表社会から離反し裏社会に服従を誓うか?二つに一つだ。」

そう顔に付いた体液を拭いながら、不敵な笑みを魅せるネロ。そんなネロの傍まで近寄りネネリーは太ももにあったダガーナイフを背後から刺した。じわりと白いスーツをまるで赤い花が咲いたように血が広がる。ゆっくりと正気に戻るネネリーが悲鳴を上げると同時にロウェーネ女王の笑いが部屋中に響いた。

《ハハハ傑作だ。これにて終幕だ!裏社会のボスを失い有象無象は今宵騎士団が殲滅する。どうだ、さいっこうのシナリオだろう!》

だがその狂言に答えたのはぶ厚い扉を開いた一人の裏切り者だった。

「嗚呼、最悪だ。だがな、まだ俺がいることを忘れるんじゃねぇよ!」

ネロを抱えながらネネリーは密かにまだ希望はあるのだと顔を上げた。


 所変わって、とある地下室にて、男が量子ウインドウを展開させ、まるで映画を見るように悠々と茶を片手に眺めている。

するとドアをそっと開けて双子が入ってきた。赤いリボンを付けた方が甘えるように縋り左耳元で囁いた。

「お父様、奴らがようやく真実の鱗片を掴んだらしいのです。」

すると真似をするように右耳元で青いリボンを付けた無口な方が口を開く。

「・・・ブリタニア・・・崩壊・・・ロウェーネ死ぬ。」

二人を優しく撫で、男はカップをソーサーに戻し、徐に上を向き呟く。

「全ては私のシナリオ通りだ。さあ、世界の崩壊は近いぞ。」

乾いた笑いが部屋中に響いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る