第13話「叛逆」
「……ヒメ? なんでここに?」
俺の肩を叩いたのはヒメだった。両腕を鎖で繋がれている俺と違い、彼女は片腕しか拘束されていなかった。
「うん、あのね。カツヨシが地獄に連れてかれるって聞いて。私も閻魔様に色々言ってやめてもらえるよう頼んだんだけど、どうしても聞いてくれなくて」
ヒメはニッコリと笑って続ける。
「だから、私もカツヨシと一緒に地獄に行くことにしたの!」
アホなヒメらしい発言だった。
でも、なんだかそれが無性に嬉しかった。
「馬鹿だろお前。せっかく閻魔から信頼も得てるのに、わざわざ職捨ててまで自分から地獄に来るなんて、頭がお花畑すぎる」
俺の言葉にヒメは苦笑した。
「そうかも。今考えてみればとんでもないことしちゃったなぁって。でも私、カツヨシの言う通り馬鹿だから、考えるより先に行動しちゃったんだ」
俺は無言で前へ歩き続ける。
「あれ、やっぱり怒ってる……? ゴメンね、私も一緒に来ちゃったんじゃしょうがないよね……。もっと冷静な判断をして、カツヨシを助ける方法を――」
「大丈夫だ、問題ない。俺には策がある。まあ見ていてくれ」
俺は謝るヒメの言葉を遮って、目の前に立つ第一の地獄、「灼熱の海」の番人に声をかける。筋骨隆々の真っ黒な悪魔だ。
「やあ、アンタがここの番人か?」
「む、なんだ貴様は。これから罰を受ける分際で偉そうな口を――」
「まあまあ、これには訳があってな。そんなことより、俺は今日からこの地獄を統べる王になった者だ。俺を崇めろ」
「たわけ事を抜かしてないでさっさと――」
「まあ待て。最近ここに大量の罪人が来なかったか?」
「ん? そう言えば数日前に、史上最大級の同時来獄者数を達成したな。キサマ、なぜそれを?」
「それは全部俺が送り込んだ罪人だからさ。嘘だと思うんなら、そのとき来た罪人に俺の顔を見せてみろ。きっと怨嗟の言葉を吐き散らすはずだぜ」
番人は俺の言う通りに先日送り込まれた罪人を、俺の目の前に連れてきた。
「ヒィィィ、お前はオレをここに叩き落したクソ死神じゃねえか! なんでここに!」
「ほらな?」
「これはこれは、おみそれいたしました。貴方様のおかげで、この地獄は罪人の血によって一気に発展を遂げました」
「だろ? なのに閻魔の野郎、俺の仕事の出来っぷりが気に食わないのか、この俺を地獄に叩き落しやがった。俺がいればもっと地獄は繁栄するのに。きっと閻魔は地獄の民が力をつけて自らに楯突くのが怖いんだろう」
「なんですと? それは聞き捨てなりませんな。これは他の番人にも報告して相談をせねば」
「そういうことだ。というわけで、この世界に繁栄をもたらした地獄の救世主たるこの俺が、今日からこの世界の王になる。分かったな?」
「ククク……。面白い御方だ。地獄に落とされても、恐怖や困惑といった表情を露とも見せず、番人に向かって王を自称するとは。とはいえ、貴殿のおかげで我々がここ数日でおいしい思いをできたのも事実。他の者の意見も聞いてみないことにはわかりませんが、とりあえず私は貴方に従うことにしましょう」
「助かるぜ。それじゃあ早速他の奴らにもこの由々しき事態を伝えにいこう」
「いやあ、まさか全員俺を王として認めてくれるなんてな。やっぱちょっとばかり頭がおかしくて突拍子もないような行動をする者こそ、こういうヤバい奴らを惹きつけることができるってわけだ」
「王よ、それで我々はいかがすれば?」
ずらりと集まった地獄の配下どもを眺めて、俺は鼻を鳴らす。
「閻魔への叛逆だ。奴らが支配する冥界を、地獄の民が支配する理想郷へと塗り替えるのだ!」
こうして俺は、閻魔へ反旗を翻す地獄の王になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます