第10話「死神の矜持」

「ああクソ、やってらんねえ」


 俺は今、絶賛縛りプレイ中だ。


「死神はもっと死神らしく魂を奪うべきだ? ゴリ押しはよくないだ? ふざけやがって」


 めちゃくちゃなゴリ押しで魂回収を行っていた俺は、なんと他のある死神のタレこみによって閻魔様にお叱りを受けてしまったのだ。


 金髪ツインテロリっ娘による鞭打ち蝋燭責めといった、人によってはご褒美のようなお仕置きもといハードなSMプレイののち、俺は持っていた死神としてのパワーの大部分を奪われてしまったのだ。


「いざというとき以外はできるだけ死神らしく魂を回収しろって言うが、あの状況はどう考えてもいざというときだろ」


 今更グチグチ言ってもしょうがないと思いつつも、俺は先日のソウジロウ君の一件を思い出してむかっ腹が立ってきた。


 現在俺が持つ死神としての特殊能力は世界渡りと奪魂契約書作成能力のみ。つまり力尽くの行動がとれなくなったというわけだ。


「さて、今回の標的は……」


 何々、今回のはこれまたすごい。学校の一クラス全員を丸ごと爆殺して全員そのままチート転生させてしまった世界らしい。


「うわ、ダルいなこれ。全員分回収するのは相当骨が折れそうだ」


 ひとまず俺は、その転生者たちの集まるという勇者待機館という謎の場所へ向かうことにした。






「で、でた~! クラスカースト最底辺のくせになぜか最強チートもらってるけど、今はまだクラスカースト上位のやつらに虐げられている現場~!」


 ガタイの良い男たちは最強スキルをいくつも持ってるのに対し、クラスカースト最底辺のぼっち君は表面上は雑魚スキル一個しか持っていないことになっている。


「だがこの死神の目はごまかせねえぞ! あいつの隠しスキルはスキル強奪! あいつは心の中で成り上がりや復讐を考えているはずだ!」


 とりあえずあいつをのさばらせておくと後々面倒なことになりそうなので、俺はさっさとあのぼっち君の魂を回収してしまうことにした。





「やあ、君は随分と虐げられているようだね」


「誰だ?」


「俺は復讐の権化さ。君のような復讐に燃える人間にこそ力を貸したいと思っていてね」


「怪しいな。一体何の用だ?」


 ぼっちのくせに妙に気が強いな。腹が立つ。


「君はスキル強奪の能力を持っているね。しかし、君の筋力では他人のスキルを奪うための行為――相手の顔に触れることがなかなかできない。そこでこの筋力強化剤をあげようと思ってね」


 そう言って俺はポケットから劇薬を取り出した。能力は奪われたが劇薬までは奪われなかったのだ。


「なに、俺の隠しスキルが見えるのか……ということはあながち嘘とも限らないか……しかし」


「いらないならいいぜ。じゃあな」


「……待て」


 ちょろいな。自分の隠しスキルを知っているということ、復讐や成り上がりに目がくらんでいることから、これが毒である可能性を考えるという行為が頭からすっぽり抜け落ちているようだ。


「なんだ、欲しいのか?」


「まずそれが無毒かどうか、お前が試しに飲んでみろ」


 ククク……他愛無い。死神の耐毒性をもってすればこの程度、酒を飲む程度の害しかない。



「はは、そういうことか。君も疑い深いな。ほら、見ておきな――ゴヴァアアアアアアアアアアアア!」


 薬を一口飲んだ瞬間、俺は体中が激痛に蝕まれるのを感じた。



「ウゴオオオオオオオオオオオ! いくら耐毒性があるといっても苦痛が防げるわけではなかったウゴハアアアアアアアアア」


「なっ! やはり毒か! 貴様だましたな!」


「うるせえ! ぐぼぉ……。こうなったら無理やり」


 俺は筋力で抑えつけてぼっち君に無理やり薬を飲ませた。



 そういえば現時点では雑魚なんだから小細工は必要なかった。最初からこうすればよかったぜ。



「ふぅ……。グフッ。とりあえず一人完遂したが、こりゃ前途多難だな」


 俺は毒で痛む頭を抱えつつ、残る約三十人ほどの魂の回収策を考えるのだった。

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