第9話「混戦」
「フハハッ! 食らうがいい!」
まず手始めにといった様子で、相手の仲間のうちの超筋肉ダルマの男が、体中に電撃を纏いながらこちらへ向かってタックルしてきた。
それと同時に、いかにも魔法使いといったような紫色のローブを着た女が、筋肉ダルマの後ろから無数の火の玉を射出した。
火の玉は筋肉ダルマの上を通りながら、俺に向かって追尾してくる。
「なんという無駄の多いわりに派手な攻撃! 死神にそんなものが通用するはずが――ぐぉ」
前に気を取られていると、後ろから思い切り蹴りをもらってしまった。振り返る間もなく電撃タックルと火の玉を食らってしまう。
「のわあああああああああああああ! このままではああああああああ」
俺は痛みを堪えながら、死神特有の治癒力で持ちこたえる。
「人間風情が調子に乗りやがって……死神の本気を見せてやるぜ」
俺はどこからともなく大鎌を取り出した。
「この鎌はレンジ無限だぜぇ。貴様らノロマに見切れるかな?」
俺が鎌を振り回すと、切っ先は赤く光りながらジグザグと電撃のように狙いをつけた一人の男に伸びていく。
「ぐわああああああああ!」
男の心臓を見事穿った俺は、鎌の切っ先を元に戻し、次の敵を見定める。
「追尾する鎌か! 皆、一点に留まらないよう注意しろ!」
ソウジロウ君が大声でそう言うと、みんなが一斉にあちこちとびはねまわりはじめた。その光景があまりにも滑稽で、俺は思わず吹き出してしまった。
「何がおかしい! ――くらえ!」
ソウジロウ君が拳を前に突き出すと、これまた俺の鎌と同じように赤い光でできた腕が、離れた位置に立つ俺の心臓めがけて一直線に向かってきた。
「すり抜けるぜ」
ソウジロウ君の言う通り、腕は俺の胸部へ痛みもなくめり込んでいった。
「なんだ、ダメージゼロじゃん。驚かせんなよな~頼むよ~」
「なっ……こいつ、心臓がねえ!」
な、なんだと!? 俺に心臓がない!?
「う、嘘だろ? 俺に心臓がない? おいテメエ、適当なことを言うんじゃねえ! もっとよく探せ!」
俺はソウジロウに怒鳴り、その赤い手を握って俺の胸の中をよく探らせる。
「い、いや……、確かに存在してない……まさかお前、本当に神の使い――いや、死神なのか?」
「俺は死んでねええええええええええええ! うおおおおおおおおおおおおお!」
ふざけた嘘で俺を惑わせようとする愚か者に、俺は最大限の力で鎌を振るう。これまでに見たこともないようなレベルの広範囲に切っ先が広がり、避けるという概念が意味をなさないほどの威力で敵全員を切り裂いていった。
「ったく。馬鹿なことを言うから思わずブちぎれちまったぜ。さて、魂回収っと」
「あ、勝吉ったらこんなところに――って何この死体の量!?」
呑気にパンを食べながら歩いてきたヒメの目が、驚愕に染まる。
「いやあ、こいつが俺の心臓がねえとか訳の分からないことを言うからさ。ところでお前、何してたんだよ。お前のせいでこんな面倒なことをする羽目になったんだぞ」
ヒメはバツの悪そうな顔をして頭をかいた。
「うっ……ゴメン。やっぱり勝吉以外の人を誘惑するのになかなか踏み切れなくて……とりあえず心を落ち着けるために腹ごしらえをしてたの……」
「はぁ、全く……。まあもういいや、無事魂ゲットしたし」
「よかったぁ。でも、そいつが言う心臓がないってのは本当だよ? 死神に心臓はないの」
俺の足はガクガクと震えだした。
「あ、で、でも大丈夫だよ! きっとあとで解放されるときに閻魔様にきっと返してもらえるよ! ……た、多分」
「……多分?」
「絶対!」
「あ~心配して損した。それなら問題ないな! さあ、さっさとこいつの魂を地獄にぶちこんでもらいにいこう!」
こうして俺は面倒な魂の回収を一つ、終えることができたのだった。
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