第3話「俺の能力と仕事」

 先ほどの事項を契約としてまとめた紙に拇印でサインをして、俺は閻魔様の前に立った。


「それでは高橋勝吉よ。お前の人間としての名前を消し去り、新たに死神としての生を与える」



 閻魔様がそう言うと、俺をまばゆい光が包んだ。





「終わりだ。お前は無事死神になった」


 あっという間だな。感覚的には何も変わった気はしないが……。



「お前の固有能力は……むっ、世界渡りか。性能は……ええっ、なんだこの値はっ!」


 

 急に大声を上げてどうしたんだろう。固有能力だとか世界渡りだとか、わけのわからない単語が聞こえてくる。



「閻魔様、勝吉は世界渡りの持ち主なのですか?」


「ああ、しかも他が比べ物にならんくらいにとびっきりのな! でかしたぞっ! これは例の問題を解決できるかもしれない!」



 なんか二人がとても盛り上がっている。俺の能力がそんなに凄いものだったのだろうか。



「あの、俺の能力がどうかしたんですか? あと例の問題とは?」


 閻魔様は笑顔で俺を見つめる、先ほどまでの厳しい態度が嘘のような豹変ぶりだ。



「最近天国の住人による事故死した若者の魂の不正購入が流行っててな。本来私に裁かれるはずの魂を不正な魂売人から購入して、自身の冥銭でつくりあげた異世界に神を気取って膨大な能力を与え転生させ、それを利用して冥銭を稼ごうとする輩が増えているのだよ。色々と対策を試みたのだが、需要の高さから魂売人は増える一方、しかも転生した魂はそいつら私有の異世界にいるものだから回収もできない」



 ははん、なんとなく分かったぞ。つまりは俺の能力を利用してその異世界に渡って転生者の魂を集めて来いってわけだな?


 俺が望んでもなれなかったチート転生者。運が良かっただけで異世界転生させてもらえたやつらを死の世界に叩き込む。想像するだけでわくわくするぜ。チートを貰って有頂天になってる野郎どもに、もっと上の存在としての俺が絶望を見せてやる。



「いいぜ、望むところさ。その不正野郎ども、閻魔様の正義の裁きを受けさせるためにこの俺が全員とっつかまえてやる!」


「さすが私の勝吉だっ。勝吉は死神界の救世主だったんだねっ!」


「おうとも! よし、そうと決まればさっそく始めるぞ! おいヒメ、俺がどんどん転生者を叩き込んだら仕事が増えるからな? 覚悟しとけよ?」


「もちろんっ! あ、でもたまには私のこともかまってくれるとうれしいなぁ……」



 閻魔様はぽかんとしている。まさか俺がここまで乗り気になるとは思わなかったのだろう。まあこれも俺の作戦なのだが。


 気に食わない奴らをガンガン叩き込んでさっさと平穏な暮らしを手に入れる。そのためには先手必勝、自分から進んで働いているという意志を見せて俺ができるやつだと評価してもらうのだ。




「そうと決まればさっそく行ってきます」










「って威勢よく出てきたはいいが、右も左もわからねえ」


 世界の渡り方もそうだし、魂の回収ってどうすればいいんだ。そう疑問に思った瞬間、まるでゲームの画面を見ているかのような映像が脳内に浮かび上がった。



「おお、これは便利だな。なんだ、魂回収は契約書にサインをもらうか俺の手で殺せばいいだけか。よし、それじゃあ手始めにこの神気取りの異世界に行ってみようかな」


 そう念じた瞬間、俺の体はワープした。

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