第九章 チーム・スカーレット③


 四年前。

 あの日――少女の心は完膚なきまでに壊された。


 圧倒的な恐怖と無力感に打ちのめされ、精霊を使役することができなくなったのだ。


 ルビア様のような立派な精霊姫になる――その夢を断たれた少女はすべてを失った。


 両親も、姉妹も、女官たちも、手のひらを返したように少女を無視するようになった。


 自分にも他人にも厳しすぎた少女の態度は、知らないうちに恨みを買っていたらしい。


 だから、力を失ったことが知られた途端、誰も振り向いてはくれなくなった。


 いつしか、少女はすべてに対して心を閉ざすようになっていた。


 だれにも心を開かず、なにかに興味を抱くこともなく――城の中に閉じこもっていた。


 ――けれど三年前。少女はに出会った。


 圧倒的な強さで精霊剣舞祭ブレイドダンスを勝ち上がっていく、最強の剣舞姫に。


 すべてを吹き飛ばしてくれるかのような彼女の剣舞に、少女は夢中になった。

 彼女の剣舞が、なにかを変えてくれるような気がした。


 もう一度、立ちあがる力をくれた。


(カミト君、私がこの学院に来た本当の理由――いまわかった気がする)


 自分自身ですら気付いていなかった。

 精霊剣舞祭ブレイドダンスで勝ち得る〈願い〉なんて、本当はどうでもいいのかもしれない。


 ただ、憧れの彼女と。

 あの日の少年と、ただ一緒に戦いたかっただけなのかもしれない。


(……カミト君は、私を仲間だって言ってくれた)


 契約精霊を使役することができないことを知っても、そう言ってくれたのだ。


(それに、クレア・ルージュ……彼女も変わらずに私に接してくれた)


 四年前、災禍の精霊姫カラミティ・クイーンに立ち向かったあのときは、たった一人だった。

 でも、いまは――


 両手に鉄扇を持ち、フィアナ・レイ・オルデシアは神楽を舞う。


 ――踊れ、数多の精霊たちよ、その頸城くびきから解き放たれ、我と共に狂い踊れ!


 大陸で唯一の精霊姫養成機関――〈神儀院〉第二位の姫巫女。

 彼女の舞うその神楽は、精霊を強化する戦闘支援の演舞ではない。


 壁の外から聞こえたカミトとジオの会話を聞いて、ピンときた。

 カミトが、演舞神楽のエキスパートである自分にできることを伝えてくれた。

 ジオ・インザーギの精霊が、ただの封印精霊だとするなら――


 拍子を刻むように足を踏みならし、流れるような動作で風を切る。

 言葉を覚える前から〈神儀院〉で教え込まれてきた、完璧な演舞の動作。


「儀式神楽第七式――狂宴の儀、ここに奉納する!」

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