第八章 フィアナの告白⑥


(……あいつら、こっちにも聞こえてるぞ)


 閉ざされた壁の前にもたれながら、カミトは頬をかいた。


 坑道は思っている以上に声が反響しやすい。

 会話が聞きとれるわけではないが、ときどき聞こえる少女たちの甘い嬌声が心臓に悪すぎる。


「カミト、彼女たちの声を盗み聞きして興奮しているのですか?」

「うん、断じて違うからな」


 カミトは半眼でうめいた。


「では、なにを?」

「――ジオ・インザーギ、奴の正体について考えてた」


 無数の精霊を自在に使役する男の精霊使い――ある意味、カミト以上に異端の存在だ。

 だが。先ほどの戦闘で、カミトはその正体をある程度推理していた。


「奴は魔王なんかじゃない、俺の考えが正しければ、な」

「当然です。あの程度で魔王を名乗るとはおこがましい」


 無表情に答えるエストだが、その口調はなんだか怒っているようだ。


「魔王の後継は――カミトのほうです」

「……? どういうことだ?」

「カミトは夜の魔王です」

「エスト、それは違うからな」


 カミトはすかさずつっこんだ。

 ……まったく、この剣精霊はどこでそういうことを覚えてくるのか。


「――と、軽口が叩けるのもここまでか」

「そのようですね」


 カミトはトンッと壁から身を離し、エストの小さな手を握った。


「カミトは精霊使いの荒いご主人様です」

「悪いな。こんど学院都市でパフェでもご馳走するよ」

「俄然、やる気がでてきました」


 カミトは苦笑すると、精霊魔装エレメンタル・ヴァッフェ展開式レリーズを唱えた。


「冷徹なる鋼の女王、魔を滅する聖剣よ――いまここに我が剣となれ!」


 可憐な少女の姿が光の粒子となって虚空へ消え――

 つぎの瞬間。

 カミトの手には、白銀に輝くテルミヌス・エストが握られていた。


 そして――奥の暗闇から響く足音。


「よお、決着を着けようぜ――最強の剣舞姫レン・アッシュベル


 赤い目を炯々と輝かせ、ジオ・インザーギが姿をあらわした。

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