第八章 フィアナの告白③


「――ちっ、痛ってえなあ……」


 押し殺したうめき声が、坑道の壁に反射する。

 肌に絡みつくような濃密な闇の中を、ジオ・インザーギは彷徨っていた。

 傷ついた顔に手をあてながら、幽鬼のような足どりで歩く。


「せっかくの二枚目が台無しじゃねーか、なあ?」


 ひきつった笑いを浮かべながら前方の闇に話しかけるが、答える者は――


「自惚れがすぎるわよ、ジオ・インザーギ。油断したわね」


 ――いた。


 突如、暗闇の中にさらに濃い闇が生まれ、美しい少女の姿をとる。


「うるせえ、てめえの精霊が役に立たなかったせいだ」

「まさか聖精霊の使い手がいるとは思わなかったわ。闇属性としては最高位の死精霊タナトスとはいえ、聖属性の精霊とは相性が悪すぎたわね」

「――奴らはどこへ向かった」

「おそらく、戦略級軍用精霊ヨルムンガンドの制御を司る〈真祭殿〉でしょうね。私はまだ彼と契約の絆で繋がっているから、どこにいるかくらいは、なんとなくわかるわ」


 漆黒の少女は、自身の左手に刻まれた精霊刻印を愛おしそうに撫でる。


「案内しろ、闇精霊。魔王の顔に傷をつけたこと、後悔させてやる」

「やめておきなさい。彼は本物の魔王――所詮、まがいものにすぎないあなたでは絶対に勝てない。それに、最強の剣舞姫レン・アッシュベルは一度戦った相手に二度と負けることはないわ」

「口を慎めよ闇精霊、


 ジオ・インザーギの紅い目が彼女を睨みつけた。

 ――その手に握られた、


「……本当に、愚かな男」


 闇精霊は吐き捨てるようにつぶやくと、闇色のドレスをひるがえし、虚空に消えた。

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