第五章 魔王を継ぐ者
第五章 魔王を継ぐ者①
「なんだこれは――」
吹き荒れる魔風精霊の風を纏い、颯爽とあらわれたエリスが絶句した。
目の前には、信じられない光景がひろがっていた。
学院の治安を守る
風王騎士団に入団できるのは成績優秀な学院生だけだ。それが――
(まさか、たった一人の侵入者に返り討ちにあっただと!?)
霧雨の降る暗闇の中。
フード付きの外套を被った小柄な人影が、倒れ伏した少女たちの中心に立っていた。
「貴様か、これをやったのは!」
エリスが鋭く問いかけた。手にはすでに
学院に侵入者があらわれ、図書館から封印指定の機密資料を強奪したという報告を聞いたのは、つい三十分ほど前だ。
エリスはすぐさま騎士団の小隊に追跡命令を出すと、自身は風の精霊を使って各小隊に指示を出しながら、一人で侵入者を追っていた。
そして、連絡が途絶えた場所へ急行してみれば――この有り様だったというわけだ。
目の前の精霊使いは口を閉ざしたままだ。
ただ嘲笑の気配だけが伝わってくる。
「――そうか、ならばいやでも喋らせてやる」
エリスの構えた〈風翼の槍〉が轟々と風を孕む。
見たところ、周囲に契約精霊の姿は見あたらない。
精霊魔装も手にしていないようだ。
だが、目の前の精霊使いはすでに騎士団の少女を五人も倒している。
(肉体に憑依するタイプの精霊を使役しているのか?)
相手の正体がまるでわからない。
あるいは、精霊の姿が見あたらない以上、精霊使いではないのか――いや、そんなはずはない。
たとえ不意を打ったとしても、精霊使いでもない人間が一人で五人の騎士団員を倒すことなど不可能だ。
(ならば、この目で確かめるっ――!)
エリスは風翼の槍を構え、疾風のごとく突撃した。
相手がようやく反応した。フードの下からくぐもった声が聞こえ――
「――顕現せよ、
刹那、地面に光の紋様があらわれ、獰猛な狼の姿をした精霊が召喚された。
「それが貴様の精霊かっ、だが、私の魔風精霊の敵ではないっ!」
走りながら、エリスが槍を真横に振るった。
途端、放たれた烈風の塊が街路樹を薙ぎ倒しながら牙狼精霊に襲いかかる。
エリスは、自身の作りだした風の渦に吸いこまれるように加速――足止めを食っている牙狼精霊を無視して精霊使いを直接狙う。
タンッ――地面を蹴る。
学院のスカートをひるがえし、エリスが跳んだ。
得意とする上空からの急降下攻撃。
訓練試合では何人もの上級生を倒してきた技だ。
契約精霊を足止めされ、無防備になった精霊使いが上を見上げる。
そして、エリスに向かって手のひらを向けた。
「なに!?」
「――顕現せよ、
刹那、手のひらから放たれた青白い雷光が、エリスめがけて放たれる。
まさか攻撃がくるなどと予想もしていなかったエリスは、空中でかわすこともできず、直撃を受けて吹っ飛ばされた。
すかさず牙狼精霊が襲いかかる。
地面に叩きつけられたエリスを押し倒し、喉笛めがけて食らいつこうとした、その寸前――
ヒュッと空気を斬り裂く音がしたかと思うと、牙狼精霊の体躯が一瞬で四分割に切断され、燃えあがって灰になった。
「……っ!?」
エリスが顔を上げ、夜空を斬り裂く紅蓮の残滓を目で追うと――
「貸しひとつね、エリス・ファーレンガルト」
レイヴン教室のクレア・ルージュが、
そして――
「エリス、大丈夫か!」
白銀の剣を構えたカゼハヤ・カミトが走ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます