第二章 お嬢様たちの午後④
アレイシア精霊学院の擁する学院都市の一角。
外に大きく張り出した喫茶店のテラスに、一組の奇妙な客が座っていた。
一人は、漆黒のドレスに身を包んだ黒髪の美少女だ。
闇精霊レスティア。
一週間前、この場所で帝都から搬入された軍用精霊を暴走させ、学院都市に甚大な被害をもたらした張本人。
そして、もう一人は――
鋼のように硬い黒髪。痩せぎすの、肌の浅黒い――少年だ。
それなりに整った顔立ちではあるものの、赤い目だけが炯々と輝いているその様は、不気味としか言いようがない。
こんな場所にいれば明らかに目立つであろう二人組であったが、周囲の人間は誰も彼らに気をとめないばかりか、その存在さえ感知していないようだった。
「――で、俺は学院の図書館から、例の封印指定の資料を奪ってくりゃいいんだな?」
「ええ、このあいだの事件のせいで、私は学院に近づけなくなってしまったから」
「ちっ、めんどくせーな、なんでまたそんなもんが必要なんだ?」
少年が地面に唾を吐き捨てた。
だが、それをとがめる者は誰もいない。
「鉱山都市に眠ってる例のアレ、なかなか難物なのよ。オルデシア軍の最上級の封印が何重にもかけられてるわ。解放の儀式だけで目覚めさせるには、何ヶ月かかるか――」
「ふん、廃棄された軍用精霊――そんなものを集めてどうするつもりだ?」
「あなたに彼女の思惑を知る資格はないわ、ジオ」
黒衣の少女はおだやかに首を振った。
少年がチッと舌打ちする。
「帝都の軍用精霊、あんたが勝手に玩具にしたせいで、面倒なことになっちまった。奪うようにって命令だっただろ?」
「いいじゃない、いまの彼の力を見られたんだもの」
「まあな。だが正直、失望したよ。あの程度なのか?
「彼はまだ目覚めていないわ」
「そうであることを願うぜ。いまの腑抜けた奴を倒しても意味がない」
「あら、倒せる自信があるの? 彼を」
「倒すさ。そして証明する。このジオ・インザーギが真の魔王の後継であることをな」
少年の赤い唇がゆがむ。浅黒い肌の全身に、無数の精霊刻印が輝いていた。
魔王スライマンとおなじ――七十二の精霊を宿す刻印が。
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