願わくは、キミの隣に。

@HeavenBee

プロローグ

6月終わりの蒸し暑い夜だった。

ジメジメとするのは日本の梅雨の特長だと

言うけれど。


加奈子のお父さんの通夜が終わって、やっとひと息ついた頃、僕の部屋の窓がノックされた。

加奈子だと思った。

どうしてか、理由は分からないけどきっと加奈子だと思ったんだ。


「加奈子、どしたの」

「うん、入らせてよ」


額に粒状に浮かんだ汗が

今日の蒸し暑さと、加奈子が走ってきたんだと言うことを物語っている。


扇風機のスイッチを強に変える。


よ、と勢いをつけ窓枠に足を掛けた加奈子は両腕をぐん、と伸ばして一気に部屋のなかへ飛び込んだ。

「なんか飲む?」

加奈子は所謂、幼馴染みだ。

家は隣同士だけど、くるっと一区画回ってこないと入れない、近いようで遠い面倒くさい位置にあった。

「いらない、けどさ」

加奈子が顔を上げてポツリと呟いた。


「ねぇ、シャクらせてよ」


加奈子の目の回りは赤く腫れていて、ちょっとだけ色っぽいな、と思ったんだ。


言葉の意味を理解できなかったのは

僕がまだ中2だったからか。


意味が分からないから教えてもらおうと思った。

「加奈子……どうしたの?シャクるなんて……」

シャクるって、なに?

「お願い、……サトルにしか、頼める人いないんだ」


瞳いっぱいに浮かんだ涙はあまりにも綺麗で

目鼻立ちのハッキリとした加奈子を彩る。

加奈子は泣き晴らしたんだ。

目の縁が赤くなるまで泣いて、泣いて、泣き晴らした。

「あっ、ちょ、かなっ」

涙を我慢しながら、くぐもった声を漏らして僕に近付く加奈子の行動に焦ったのと、驚いたのと、とにかく加奈子を遠ざけようとしていた。




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