第6話共喰い蜂

絵螺脱えにしだつ

姫宮親衛隊サークルを結成した人物であり、現在は親衛隊の隊長。

姫宮親衛隊は、基本カースト最下層のキモオタ共で構成されているが、この絵螺脱だけは、カースト最上層で何でも出来るような奴だった。

文武両道なイケメン…だけれど煩悩に正直。そんな絵螺脱に憧れている時期が俺にもあった。

だが、今、絵螺脱には一つの疑惑がある。

そう、堕天使では無いかという疑惑だ。

メタトロンからの指令を姫宮の過去と照らし合わせてみたところ、絵螺脱が堕天使かもしれないという結果にたどり着いたのだ。


◇◆◇◆◇


「………全然来ないわよ」

俺と姫宮は、事前に調べた絵螺の下校ルートで待ち伏せていた。

しかし絵螺はどれだけ待っても来ない…それどころか、普通の通行人すら来ないのである。

「初川君…もしかして貴方が天界に来た時もこうやって付いてきたのかしら?」

何故姫宮はこんなにも勘が鋭いんだ…

「………」

「図星のようね…」

ああ…くそ!俺絶対姫宮とは結婚できねえ!

しかし少し不気味だな…

この道はそんな人通り少ないって訳でも無いんだがな……

姫宮の方を見ると、やはり姫宮も小刻みに震えていた。

俺ですらビビってるのに、自分の家族を殺したかもしれない奴を待つなんてそりゃビビるよな。

「大丈夫だ姫宮。そいつは姫宮より弱いんだろ」

天使には上から、熾天使、智天使、座天使、大天使、天使、の5つの階級があるらしい。

そして、姫宮の意思伝筆にはそいつが天使だと書かれていた。

つまり、強さと階級が大きく比例する天使社会なら、大天使である姫宮の方が強いという事になる。

「まあそうだけれど…」

姫宮は不安そうに呟く。

「まあ、俺が居るから安心しろ!」

張り詰めた空気を和ませようと、わざとツッコまれるような台詞を言ってみる。

しかし、姫宮は潤んだ瞳をして言う。

「これ以上、大切な人が死ぬのは辛いわ…絶対に死んじゃダメよ…」

大切な人……特に何かした覚えは無いが、姫宮の為にも無理はしないでおこう。

しかし本当に誰もいねえな…

「悪い姫宮。ちょっと角見てくるわ」

「ええ、早く帰ってきて頂戴ね」

その台詞の破壊力はやばすぎる…ドキドキしちゃったじゃねえか。

俺は鼻の下を伸ばしながら角からチラと頭を出して覗く。

ッッ!

誰もいねえ………どういう事だ?

「キャァーッ!」

姫宮の方から叫び声が聞こえた。

くそ…隙を突かれた…

俺はすぐさま姫宮の方に戻る。

すると、そこには、灰色の翼を展開した絵螺が、姫宮と対峙していた。

「やっと2人きりだね、姫宮さん」

「やっぱり貴方は…あの時の…」

「そう、ボクは君の元カレだよ。あの時はザンネンだったなァ…君を完全にボクの物にしたかったんだけど…ま、いいか。やっと今できるんだし」

「無理よ。この近くは普通の人間もよく通るし、第一大天使の私に元天使の貴方では勝てない」

絵螺の顔に不吉なモノを感じた俺は、足が震えながらも前へ出る。

「よ…よお絵螺。愛莉や姫宮を苦しませた対価…今から払ってもらうぜ!」

俺は出来るだけ自然に、それでいて力いっぱいに言う。

しかし、それを聞いた絵螺は口元を歪めて不気味に笑う。

「ボクの能力は…この針なんだ」

そう言って絵螺は羽から1本の針を引き抜く。

「この針はとっても便利でね、刺さった人間の情報処理能力を1つの分野だけ極端に低下させれる。しかもこの針、頑張れば原子くらいに小さくできる。そしてさっき原子レベルまで小さくした針をこの辺一帯にばら撒いたんだ。おかしいと思ったでしょ、人が全くいないから」

駄目だ…そんな能力強過ぎる……

姫宮も驚きを隠せずにいた。

「そんな強い能力を持っておきながら階級は天使ですって…あの3年間になにが…」

「3年間は特に何もない。ボクのこの能力は元々あったもの。言ったでしょ、情報処理能力を1つの分野だけ極端に低下させるって。どういう事かっていうと、天使のリストを管理しているメタトロンの奴にこれを打ったのさ」

姫宮は恐怖からか、俺以上に足を震えさせている。

「じゃあ貴方に相応な階級は…」

「智天使くらいかな?まあそんな事どうでもいいでしょ」

智天使…あの熾天使の1つ前の智天使の事か?どうでも良くねえよ…

俺はとりあえず羽を展開する。

すると、絵螺はメタトロンと同じ反応をする。

「うわぁ…汚い羽だな…」

メタトロンより酷かったです。

「っていうか、ボクは姫宮さんと遊びたいんだ。君は邪魔」

と言って絵螺は俺に向かって羽をはばたかせる。

くそ…例の針か?…

「これでボクの居場所は分かるまい」

「普通に見えてるぞ…馬鹿にするな…」

俺は絵螺にストレートを打ち込んでみる。

ッ!

当たらない…絵螺の体を通り抜けるぞ…

「初川君うしろっ!」

やべ…………

『グチャッグチュッ』

俺の胸に数枚の羽鉄はがねが刺さる。

くそ…痛えな………俺死んじまうのか?

そんなもうろうとした意識の中で、絵螺と姫宮の会話が聞こえる。

「やっと本当に2人きりだね姫宮さん」

「………」

「実は今日こんな生意気な女を見つけたんだ」

「ッ!…愛莉ちゃん?」

「え、姫宮さんの知り合い?生意気だったから軽く殺しちゃった」

愛莉……殺した………?

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